“Chronicle of an Escape”

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“Chronicle of an Escape” (2006) Adrián Caetano
 アルゼンチン映画、原題”Crónica de una fuga”。

 1970年代末、軍事政権下のアルゼンチンで、思想犯の疑いで政府の秘密警察に拉致された、男子大学生たちの辿る運命を描いた実話モノ。

 主人公は、サッカーチームでゴールキーパーをしている、政治運動とは全く無縁の大学生だったが、ある日試合の後いきなり秘密警察に拉致され、目隠しをされて郊外の一軒家へと連れていかれる。
 そこで待ち構えていたのは、容赦のない拷問。主人公は「自白」を迫られるのだが、何のことだか全く判らない。実は、先に摑まっていた男が、拷問に絶えかねて彼の名前を「密告」していたのだった。
 その館には、他にも大勢の学生たちが監禁されていた。ときおり仲間の誰かが、どこかへ連れて行かれるのだが、その行方も運命も判らない。長期に渡る監禁と拷問の恐怖で、学生たちは次第に卑屈に洗脳されていく。
 やがて主人公たち4人は、へと連れていかれ、服を脱がされ全裸のまま、ベッドに手錠で繋がれて屋根裏部屋に閉じ込められる。彼らへの辱めといたぶりは果てることなく続き、ついに生命の危険を感じた4人は、嵐の夜に全裸のまま、館から脱出しようと試みる……。

 というわけで、これが実話だけに、何ともオソロシイ内容ですが、極めて真面目に作られたなかなか良い映画です。
 ドキュメンタリー・タッチを基調にしながら、要所要所でサスペンスフルな演出も挟み、沈黙の恐ろしさや静かな緊張感といった、映画的な見所も多々あり。追い詰められていく人間の心理描写といった、キリキリするような感覚の描出も上手いので、見方によっては、ソリッド・シチュエーション・ホラーみたいなテイストもあり。
 ただ、もう20年以上前になりますが、この映画と同じくアルゼンチン軍事政権下での学生たちの拉致・監禁・拷問・虐殺を描いた映画で、『ナイト・オブ・ペンシルズ』(ビデオ題『ミッドナイト・ミッシング』)というのがありまして、これはホント神も仏もないって感じのトラウマ級の内容だったので、あれに比べると、ちょっと「弱い」感はあります。
 その反面、この”Chronicle of…”の方が、内容に「救い」があるので、見終わって落ち込んだり暗鬱になったりしないで済む、娯楽映画的に楽しみやすいものになっています。でも、時代背景の予備知識なしで、この映画で初めて、こういった歴史上の実話を知る人だと、やっぱりショッキングな内容かも……。
 というわけで、先日紹介した“Playroom”と違って、映画としても佳良なのでフツーにオススメできる感じ。

 さて、では責め場的な見どころについて。
 まず、肉体的な拷問シーンに関しては、これはさわりを見せるだけでハッキリとは描かれなので、そういう意味での見所はさほどなし。拷問内容までしっかり出てくるのは、バスタブに頭を沈める水責めくらい。
 ところが、前述したように心理描写系が巧みなので、そういったメンタルな責めに、なかなか見所が多いんですな。
 例えば、主人公が他の囚人に引き合わされるとき、看守たちは彼らに「Girls!」と呼びかけ、そして主人公のことを「She is…」と紹介する……つまり男扱いされないという辱めとか、目隠しを外されても看守の目を見てはいけなくて、視線は常に床に落としていなければいけないとかいった、日常的なディテールのリアルさが、SM的に見てもなかなか滋味深い。
 そして後半、いよいよ残った4人が全裸で監禁されてからは、そういった「メンタル面での辱め」がピークに達して、ここが大いに見応えあり。
 4人は、髪を短く切られた後、服を脱ぐよう命令され、素っ裸でベッドに仰向けに寝かされ、手錠でバンザイスタイルに繋がれる。そして、その姿を鏡で見せられ、「どうだ、この中に何が見える。自分が自分だと判るか。お前のお袋さんが見たって、これが自分の息子だとは判らねェさ」など、惨めに変わり果てた自分らの姿を嘲笑されて、屈辱に顔を歪ませながら涙する。
 更に囚人の1人は、全身にバケツで汚水を掛けられ、看守から「貴様は性根から腐っているから、これで掃除してやろう」と、床掃除用のモップで全身をゴシゴシと、顔面から股間まで擦られる。
 あるときは、ズボンだけ履いて部屋から出ることを許され、階下の食堂で看守たちがテレビを見ている横で、料理や給仕と奴隷のように使われる。またあるときは、全裸で目隠しをしたまま一列に並ばされ、銃を突きつけられ、「これから貴様らを処刑するが、殺される前に、最期の望みを一つず聞いてやろう」などと嬲られる。
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 そういったあれこれが、前述したような心理描写や緊張感に長けた演出の巧みさもあって、実にしっかりと描かれるので、肉体的な責め場がなくても、充分以上にSM的な興趣が擽られます。しかも、徹底してリアリズム準拠の演出なので、腰をよじらせたりアングルを工夫して局部を隠すなんてこともなく、見えるときは見えるという自然のまま。
 オマケにこの4人は、このまま全裸で脱走するので、映画のクライマックスはずっと、股間丸出しのヒゲ男4人の熱演が続きます。そして逃げ出した先でも、夜の街で人に見られて、怪訝な顔をされてしまったり。

 そんなこんなで、下心メインでも見所多しですし、これまたDVD Fantasiumから日本語で購入可能なので、興味と再生環境のある方は、どうぞお試しあれ。
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