2010年下半期に見たインド映画、ヴィクラム出演作以外

 2010年下半期に見たインド映画を、先日アップしたヴィクラム出演作以外、ヒンディ、タミル、テルグ、マラヤラム取り混ぜて、一挙19本連続レビュー!
 ……って、そんなニーズ、どこにもないとは思うんだけど、ま、備忘録も兼用ということで(笑)。
 例によって並び順は「見た順番」、☆の数は「独断と偏見」でゴザイマス(笑)。

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“Khamoshi: The Musical” (1996) Sanjay Leela Bhansali
(☆☆☆)
 ヒンディ映画。
 ヒューマン感動もの。
 大好きなサンジャイ・リーラ・バンサーリ監督の処女作、ようやく見られた。斬新な視点、的確な演出、個性的なイメージ…と、処女監督作にして既に才気が横溢。
 聾唖の両親と歌が好きな祖母に育てられた少女が歌手を夢見るインド映画。米盤DVDだけど嬉しいことに日本語字幕付き。
 ボリウッド映画のテンプレから脱しきれていない部分はあるけれど、個々の描写が丁寧でありがちな大味感がないし、お涙頂戴ではなくきちんと感動させてくれるあたりは流石。
 テーマ的には同監督が後に撮った、ヘレン・ケラーの物語を大胆に翻案したノン・ミュージカル作品「BLACK」と同じなので、比較して考えてみると色々と面白い。新作“Guzaarish”もチョ〜楽しみ…なんだが、いったいいつ見られることやらw
 映画の本質とはちょっとズレますが、ミュージカル・シーンに、フェリーニの影響を感じさせる部分があったのが、ちょっと面白かった。
 ”Khamoshi: The Musical”には、こういったヨーロッパ趣味的な要素がちらほら見られるんですが、以降のバンサーリ監督の諸作からは、そういった要素は全くといっていいほど姿を消しているのが興味深い。
 そんなあたりからも、いかにも処女監督作らしい初々しさが感じられます。

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“Yamadonga” (2007) S. S. Rajamouli
(☆☆)
 テルグ映画。
 コソ泥と閻魔大王の駆け引きを描いた、奇想天外ファンタジー。
 良家の少女でありながら親戚に家を乗っ取られて下女扱いされている可哀想な娘と、その娘が少女時代に恋に落ちた相手であるチンケなコソ泥が再会するが、閻魔様の悪口を言ったコソ泥は地獄へ召還されてしまい、そこで閻魔様の神具を盗んで自分が閻魔様になり…う〜ん、説明が超ムズいストーリーw
 まあ要するに、コソ泥と閻魔様の駆け引きという民間伝承と、「小公女」みたいな話を足して、そこに歌と踊りとド派手なアクションを混ぜ込み、泥臭いベタベタのコメディ演技と、ペッカペカでチープな特撮でコーティングしたみたいな映画です。そのゴッタ煮感が、何ともまあインド的w
 ビックリするのは、この「Yamadonga」、先日見て大感銘を受けた「Magadheera」と同じ監督(S・S・ラジャムーリ)で、しかも前者が2007年、後者が2009年の作品であるにも関わらず、まるで80年代と2000年代の作品のように、内容的に開きがあるということ。
 ぶっちゃけ「Yamadonga」は、クリシェを強引に繋いでいくだけの、パワフルだがディテールがない作劇、やたらめったら挿入される泥臭いコメディ演技、トゥー・マッチなバイオレンス、インド映画以外ではあり得ないような展開…といった具合で、インド映画好き以外には全く薦められない感じ。
 というわけで、面白いことは面白いんだけど、それは一般的な映画の観点から言うと、一種のキワモノ的な面白さであって、インド映画の特殊性を越境するような要素は皆無なので、「Magadheera」のような「映画好きなら見て損はなし!」といった作品とは、質的に全く異なります。
 というわけで、伝統芸的なインド映画が好きな方とか、インド映画をあくまでもネタとしてのみ見る方には、大いにオススメ。
 ただ個人的には、最近のインド映画の面白さ、様式や特殊性で閉塞するのではなく、そこから越境しようとする意欲の面白さに欠けるので、そこが私としては物足りない。
 でもまあ、物足りないとは言いつつも、他国の映画では「ありえね〜!」面白さはタップリだし、あまりのカオスっぷりにいささか疲れながらも、ラストに伏線が回収されて民話的な多幸感が訪れるあたりは、けっこう感動もしちゃったんですけどね ^^;
“Yamadonga”、TVスポット(?)。使われている劇中歌ともども民話的色彩が濃く、ここいらげんの要素はけっこうお気に入りです。
http://www.youtube.com/watch?v=b-0zIH8Jlio

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『ケーララの獅子』(2009)ハリハラン
“Kerala Varma Pazhassiraja (Pazhassi Raja)” (2009) T. Hariharan
(☆☆☆☆)
 マラヤラム映画。
 イギリス支配に対して立ち上がった南インドの英雄と、その仲間たちの戦いを描いた、本格エピック史劇。
 日本でも2010年に、福岡国際映画祭で上映があったそうです。
 17世紀、イギリス支配下の南インド・ケーララ州で、自由を求めて立ち上がった反乱軍の話。増税に反対する王子パザッシラジャは、イギリス軍(東インド会社)によって居城を奪われるが、ジャングルに隠れてゲリラ軍を組織し、そこに他の豪族たちが集結していき…といった内容。
 かなりの力作かつ大作で、大いに見応えあり。主人公の王子を中心に、その側近など複数の人物を配置し、人間ドラマと戦闘スペクタクルを織り交ぜながら見せていくという正攻法の史劇で、実に堂々たる味わい。
 音楽シーンも自然に処理され、ストーリーの腰を折ったりしない。
 ただ、映画としては一つ大きなクセがあって、それは、マラヤラム映画では「恰幅のいいオジサンがカッコイイ」ということになっているのか、台詞のあるメインのインド人男優が皆、恰幅のいい…というか、ぶっちゃけ太ったオジサンたちなのだ。しかも皆ヒゲ面で、おまけに常に半裸。
 主演のマムーティという男優さんは、マラヤラム映画の大スターらしいけど、「視線が粘っこくなった田崎潤」みたいなオジサンで、他も皆、似たり寄ったり。私的には無問題なんだけど、一般的には…ちょっとどうかなぁw 何とゆーか、「300」のサムソン版(ゲイ雑誌ね)みたいな感じなのよw
 そんな、ヒゲ面の太った裸のオジサンたちが、男の生き様を熱く語り、時にワイヤーワークで宙を舞いながら華麗(…でもないと思うけどw)な剣戟を見せてくれます。ホント、みんな似たタイプなので、ロングショットになると、ハイビジョンでも誰が誰だか判らなくなったりw
 とゆーわけで「太目のオトウサン大好き、ヒゲも体毛も大好き」な方には、激スイセンw
 とはいえ前述したように、映画そのものが本格史劇として、実に堂々たる出来映えでなので、男優さんのルックスが気にならなければ、フツーに史劇好きなら見て損はない面白さです。
“Kerala Varma Pazhassiraja”、予告編。
http://www.youtube.com/watch?v=XIjdGkTqElY

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“Veer” (2010) Anil Sharma
(☆☆)
 ヒンディ映画。
 18世紀末(19世紀初頭?)、英国と手を組んで地方を支配していた藩主たちと、自由を求めて立ち上がったピンダーリ(映画の中では騎馬系の自由民)の戦いと、ピンダーリの勇者と藩主の姫のロマンスを描いた、エピック・ムービー。
 歴史劇というよりは、あくまでもそういった背景を借用したアクション・アドベンチャー+ロマンス映画といった味わいで、画面のスケール感や重厚感は充分なれど、内容は良くも悪くも気軽に楽しめるといった系統のもの。
 イメージ・ソースの一つに「隊長ブーリバ」を使っているのが興味深い。
 映像技術的には洗練されているんだけれど、ピンダーリの風俗描写が、まんまコサックっぽいとか、騎士道映画さながらの、美姫を賭けての馬上槍試合が出てきてビックリとか、クライマックスの一対一の対決シーンが、モロに「トロイ」を意識しているとか、内容面のゴッタ煮具合が実にインド的。
 先日見た「Magadheera」と比較するとパワーに欠けるし、近年のインド製史劇映画の傑作「Jodhaa Akbar」ほどの風格や完成度もないので、どうしても「そこそこ」どまりの印象に。主演のサルマン・カーンとヒロイン役の女優(初見)に、個人的に魅力を感じられないのも痛かった。
“Veer”、予告編。私はイマイチの印象でしたが、こんな感じで、スペクタクル映像的な見せ場はタップリあります。
http://www.youtube.com/watch?v=DkWrDR48GO8

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“Kadhalil Vizhundhen” (2008) P. V. Prasad
(☆☆☆)
 タミル映画。
 スラム出身の青年が、バイク走行中に風に飛ばされたスカーフが顔に被さり、事故を起こして瀕死の重傷を負う。スカーフの持ち主である裕福な家の少女は、責任を感じて献身的に青年の看病をし、治療費なども全て立て替える。やがて青年は回復し、二人の間には愛が目覚めるのだが…というラブストーリー。
 タイトルの意味は「恋におちて」。
 映画は、青年と車椅子に乗った少女が駆け落ちし、列車で出会った中年男に青年がいきさつを語るという帰納法で始まり、前半部分では、自分の恋情をなかなか打ち明けられない青年の煩悶や、それに少女がいかに応えるかといった、心情面のドラマが細やかに描かれる。
 駆け落ちした二人は、謎の男たちに追われている。二人の仲を裂こうとするこの男たちの正体は何なのか、またなぜ元気だった少女が車椅子に乗るようになってしまったのか…といった謎で引っ張りながら、前半が終わってインターミッション。
 そして後半がスタートするのだが…いやもうビックリ!
 後半スタート早々、謎は次々と明かされて「うわ〜、そういうこと!?」ってな驚愕の展開に。後はもう怒濤の展開。映画のムードもガラリと変わり、さりげない伏線が次々と回収されていき、見ているこっちは「え〜?」「あ〜!」とか驚きつつどんどん引き込まれ、しかも結末が全く読めない面白さに。
 いや〜、すっかり騙されました。いかにもありがちな、間に障害のある若い男女の恋物語かと思っていたら、そういったクリシェを巧みに逆手にとって、見事なまでにストーリーがひっくり返る。前半で「え〜、これはちょっと…まあ、インド映画じゃありがちだけど…」なんて思った要素まで伏線だったとは!
 少し顔立ちに子供っぽいところが残る主人公の青年(そのぶん前半の説得力と、後半の熱演とのギャップによる効果がスゴい)、可愛いヒロイン(めちゃめちゃ美人でもないあたりが、逆に良いのだ)、後半から出てくる警察官(かなり美味しいトコどりでカッコイイ!)、などなど、役者の布陣も完璧。
 そんなこんなで大満足の1本でした! ^^
 もう1つ特筆したいのは、ミュージカル・シーン「Nakka Mukka」の見事さ。
 速いリズムに乗せたアクロバティックなコレオグラフィーで、街中で群衆が踊りまくるのを、縦横無尽のカメラワークで捉えたミュージカル・シーンは、そのエネルギッシュさにひたすら圧倒。
 ただし、惜しむらくはこのシーン、映画のストーリーにはあまり上手く組み込まれておらず、ちょいと全体から浮き気味。
 そういった「雑さ」が所々見られるのと、監督の個性が余り見えてこないあたりが、私的には少しマイナスといった感じ。
“Kadhalil Vizhundhen”から、”Nakka Mukka”
http://www.dailymotion.com/video/x9xk6x_nakka-mukka_music

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“Naan Kadavul” (2009) Bala
(☆☆☆☆)
 タミル映画。
 タイトルの意味は「我は神なり」。
 先日見た「Pithamagan」でブチのめされたバラ監督の新作で、先に見た予告編からしてタダモノじゃない感がプンプンだったんですが、やっぱトンデモナイ映画だった…。
 占星術師の予言に従い、幼い息子をカーシ(ヴァラーナスィ、ベナレス)に捨てた父親が、それから14年後、息子を捜しに再び同地を訪れるが、成長した息子は、自分たちを神と信じ、人々を輪廻転生の苦痛から解放する能力があると信じる、宗教的セクトの苦行者となっていた。
 父親は、息子を母親に会わせるため故郷へ同伴することを望み、宗教セクトの導師も青年に家族との絆を完全に断ち切らせるために同意する。生まれ故郷の村には、山上に四肢が欠損した男を生き神として祀る寺院があり、警察と結託して不具者を集めてはそこで物乞いをさせる組織があった。
 主人公は人間性を完全に喪失しており、自らを神と称し、再会した母親も拒絶して寺院に籠もる。一方、旅の芸人集団が村を訪れ、その一員で盲目の少女歌手が、その美声に目を付けられ、強引に件の物乞い組織の一因にされてしまう。少女は嘆き悲しむが、仲間の乞食達に優しく支えられて立ち直っていく。
 ところが、隣の州の乞食の元締めから、自分たちのエリアで物乞いをさせるために乞食を「輸入」したいという申し出がくる。村の元締めはそれを承諾し、仲間のうちから幼い者だけが連れ去られてしまう。更に、火傷で醜くなった金持ちから、自分の要望を気にしない女が欲しいとの要望がくる。
 盲目の少女はその金持ちに売られることになり、泣きながら村の生き神に助けを乞うが、生き神は「自分は神ではない、例の男こそ唯一お前を救うことができる『人の形をした神』だ」と告げる。
 それを聞いて、少女は自分を連れに来た一味から逃げ、泣きながら主人公にすがるのだが…といった内容。
 内容的には、ベースのフォーマットとしては、不意に現れた超常者が弱者を救うという、ヒーローものと言えなくもないんですが、そこに「神は人を救えるか」「神とは何だ」といった問いが絡み、しかも「この世の醜さ・残酷さ」が、これでもか、これでもかと描かれるので、かなりキツい…。
 そして「フリークス」か「エル・トポ」ばりのキャラクターたちが繰り広げる、パワフルで濃厚な映像に圧倒されつつ、エンディングが…う〜ん、判るんだけど、でもあまりにもカタルシスがムニャムニャ…で、鑑賞後は「ほぇ〜…」という溜め息が。
 いや、良くも悪くもスゴかった…。
 正直、ストーリー的には、かなり破綻しています。
 主人公に人間性が皆無なので、家族との再会といった設定が、有効に機能していない。一方の乞食集団パートは、人間ドラマとして魅力的なんですが、主人公はそこにキャラクターとしての超越性のみで絡むしかないので、話としてはギクシャクしている。
 神と人間というテーマに関しても、かなり観念的というか、概念が先にあって、それに併せて話が組み立てられてるので、そういった思索の面白さがある反面、ドラマ的な面白さやエモーショナルな部分が犠牲になっている。
 私が大感銘を受けた同監督の前作「Pithamagan」と比較すると、正直なところ完成度では劣る感じ。
 ただ、そういった作劇の歪み等は、ひとえに原案・脚本を兼ねる監督の「作家的暴走」の所産なので、そういう意味ではものすごく見応えがあります。見ていてちょっとヘルツォークとか連想しちゃったり。
 聖なる汚穢とでも言いましょうか、そういうのが好きな人なら満足すること間違いなし。
 そんなこんなで、見る人を選ぶ映画だとは思いますけど、個人的な好みとしては、自分のコアな部分を押しまくられた感ありなので、もう大満足。
 予告編見て「何だか面白そう!」と思った人なら、激オススメ。
 更にビックリしたのは、これが本国でヒットしたらしいということ!
 内容的にはどう考えても、好きモノ向けのカルト映画な気がするんだが…インド/タミルの観客、恐るべし ^^;
“Naan Kadavul”、私が「コレは見ねば!」と思った、タダモノじゃない感プンプンの予告編。
http://www.youtube.com/watch?v=LRZBPvsC0L4

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“Paiyaa” (2010) N. Linguswamy
(☆☆☆☆☆)
 タミル映画。
 青春アクション・ロードムービーといった味わい。
 監督は「Bheema」で感銘を受けたN・リングサミー。
 主人公は大学を出たのに就職できない気のいい青年。そんな彼を案じて、仲間たちが就職活動を手伝ってくれるのだが、彼は道で見かけた女の子に一目惚れしてしまい、そのせいで大事な就職面接もすっぽかしてしまう。
 そんな彼が、ある日友だちを迎えに車で駅まで行くと、白タクの運ちゃんと勘違いされてしまう。車に乗り込んできたのは、例の街で見かけた女の子。意に染まぬ結婚を押しつけられて、車で数日かかるボンベイ(ムンバイ)まで送って欲しいと頼む。
 この運命の悪戯に主人公はウキウキだが、やがて追っ手がかかる。果たして彼は、無事彼女をボンベイまで送り届けられるのか?…ってな話。
「Bheema」でもそうだったように、この「Paiyaa」でも監督のスタイルはリアリズム重視。やたらめったら色々な要素を盛り込んだりせず、ストーリー展開にも強引さがない。伝統的なインド娯楽映画の「過剰さ」とは一線を画した自然な作風で、その作劇や演出の巧みさに目を引かれます。
 ドラマはほぼ全て、バンガロールからボンベイへと向かうドライブ中に描かれ、二人の男女の心理的な距離の変化を繊細に描くパートと、追っ手に見つかりそうになったりやり過ごしたりするハラハラ系、胸の空くかっこいいアクション系などが織り交ぜられて、全く飽きることなし。
 途中で、実は彼女だけではなく、主人公も別の一団に追われている事実が明かされ、ドラマに緩急をつける手腕もお見事。程よくスタイリッシュで、でも煩くはならない演出スタイルも良し。
 特に良いのが主人公のキャラクター。
 原題の意味は「男の子」ということらしいのだが、男気のある好漢ながらシャイで、一目惚れした彼女と一緒にいられて有頂天なんだけど、面と向かって好きだとは言えない。でも、ケンカになると滅法強いし、決める所は決める。男っぽさと青年っぽさのブレンドが絶妙。彼女の方も、次第に彼に頼り惹かれてはいくものの、それでも最後の最後まで、告白して恋人同士になったりはしない。
 そんなこんなで、アクション映画ではあるんだけど、主演二人の関係がじれったいような、でもそこが良いような…といった、青春映画としての味わいあって、何とも爽やかな魅力がある。
 キャストもパーフェクト。童顔でわりと小柄なんだけど、身体は鍛えられているガッチビ君の主人公、美人で気品もあって、一目惚れもむべなるかなというヒロイン、どちらもストーリーにもキャラクターにも実に良くマッチしていて、おかげでなおさら映画に引き込まれるという相乗効果に。
 また、この監督のミュージカル・シーンの扱い方、お約束を踏まえながら、それをいかにストーリーに自然に溶け込ませるか、そしてそこで何をどう見せるかなど、その工夫やデリケートさも、個人的にかなりポイント高し。
 ラストが駆け足気味になってしまったきらいはあるけれど、ウェルメイドな娯楽作品としては文句なしの仕上がりでしょう。
 というわけで「痛快アクション爽やか青春ロマンス」といった味わいの、文句なしに楽しめる逸品でした。
 しかも完成度は、前作「Bheema」を上回っている。このリングサミー監督、これからも要チェックだわ〜 ^^
“Paiyaa”、予告編。
http://www.youtube.com/watch?v=8IKbDAzVTpA

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“Madrasapattinam” (2010) A. L. Vijay
(☆☆☆☆)
 タミル映画。
 インド独立時のインド人青年と英国人女性のロマンスを描いた、ヒストリカル・エピック・ロマンス。
 DVD題は”Madrasa Pattinam”と間にスペースあり。
 現代のイギリス、病床の英国人老婦人が、長らく忘れていたインドの首飾り(結婚指輪のような意味を持つ)を見つけ、「自分にはやり残したことがある」とインドのマドラス(現チェンナイ)へと向かい、一枚の古い写真に写った、逞しいインド人青年を捜し出そうとする。
 実は彼女は60年前に、英国統治下にあったマドラスに、提督の娘として赴いたことがあり、その写真も当時彼女が撮影したものだった。写真に写っているのは、貧しい洗濯人のインド人青年。おりしも二次大戦が終わりインド独立の機運が盛り上がる激動の時代の中、二人は恋に落ちていた。
 初めは互いに言葉も通じなかった二人だったが、やがて少しずつ心を通わせるようになり、洗濯物でメッセージを伝えて密会するようになる。しかし彼女には、親が決めた婚約者である英国人将校がいて、その将校はインド人を虫けら程度にしか思っていない。
 将校はゴルフ場建設のために洗濯人のコロニーを潰し、捉えたバガット・シン(インド独立を目指した武闘派のリーダー)の信奉者のテロリストを捕らえゲームのように嬲り殺しにし、更にはヒロインと主人公の恋にも気付いて、二人を引き裂こうとその暴虐度を増していく。
 主人公は、この将校に一度はレスリングの試合で打ち勝ち、そしてヒロインに母の形見の首飾り(これを女性に渡すことは、すなわちプロポーズになる)を渡すが、折しもインド独立の日取りが決定、恋人達はそれぞれインドとイギリスに引き裂かれそうになる。
 ヒロインは何とか親の手から逃れ、主人公と運命を共にしようとするのだが、そこに例の将校の追っ手がかかり…といった1945年のマドラスのドラマと、その合間に老いたヒロインが主人公を捜し求める現代のチェンナイのエピソードが描かれる…といった構成。
 実にオーソドックスというかオーセンティックなヒストリカル・ラブ・ロマンスで、ストーリーやエピソードやキャラクター造形は、定番というか紋切り型の印象はあるものの、全体の雰囲気は上々、作品の佇まいも堂々たるもので、娯楽作品としては上々の出来映え。
 まあ全体の構成やディテールには「タイタニック」の影響が色濃いし、印英の戦いにレスリングを絡めるあたりは「ラガーン」なんかも連想しますが、それでも「どういう次第で二人は別れるのか」「老婦人の目的は何なのか」といった要素で、上手い具合にラストまで興味を持続させてくれます。
 歴史物としては、まあラブロマンスの色添えの域を出てはいないんですが、1945年のマドラスの風景を、CGIも交えて存分に見せてくれるし、ロマンチックな撮影や演出手腕も上々(反面、アクションやスペクタクル演出は、ちょっと冴えない感もありますが)なので、絵巻物的にたっぷり楽しめます。
 主人公、どっかで見たような…と思っていたら「Naan Kadavul」の主演男優(アーリヤ)でした。
 角度によってハンサムにも見えれば怪異な容貌にも見え、土俗的な荒々しさとロマンス向けの二枚目っぽさがブレンドされており、ヒロインが惹かれる相手として実に説得力あり。
 レスリングのシーンを筆頭に、逞しい裸身も惜しみなく披露。特に背中の筋肉がヨロシイわぁw ちょっとしたボンデージや責め場もあり ^^
 ヒロインも清楚な可愛らしさと美しさがあり、ラブロマンスのカップルとして、この二人の組み合わせが上々なのが、成功の一因といった感じです。
“Madrasapattinam”、予告編。
http://www.youtube.com/watch?v=fYBAHugEnfE

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“Aayirathil Oruvan” (2010) Selvaraghavan
(☆☆☆)
 タミル映画。
 秘境アドベンチャー映画。
 タイトルの意味は「千人に一人の男」。主演は「Paiyaa」のカルティ。
 13世紀に滅亡した南インド・チョーラ朝の王子が、生き残った民と神像と共に何処かの島に落ち延びたという伝説があり、長い間その場所を突き止めるのがインドの考古学者たちの夢だった。そしてある考古学者が遂にその場所を突き止めるのだが、そのまま行方知れずになってしまう。
 考古学者の娘の元に一人の女が訪れ、父親と遺跡の捜索のため大規模な探検隊を差し向けると語り、娘もそれに同行することにする。探検隊は港で人足たちを雇い(人足頭の陽気な青年が主人公)、ヴェトナム近海に浮かぶ、周辺の住民から悪魔の島と恐れられている謎の島へと向かう。
 人食いクラゲ(?)や人食い土人や蛇の大群に襲われながら、一行は島の奥へと進むのだが、主人公と考古学者の娘と探検隊の指揮をとる女の三人は、他の仲間とはぐれてしまう。やがて3人は目的の遺跡に辿り着くが、実はそこは単なる廃墟ではなく、チョーラ朝の末裔が地下王国を築いていた。
 3人は地下王国に捉えられるが、そこの人々はこの数百年間、いつか自分たちを故国へと連れ帰ってくれる伝説の使者を待っていた。行方不明の考古学者は無事なのか、主人公一行がその伝説の使者なのか、そして明らかになった探検隊の真の目的とは? …ってな内容です。
 いや、驚いた ^^;
 前半は「ハムナプトラ」的な軽〜いノリのファンタジー・アドベンチャーといった感じなんですが、後半はH・R・ハガードばりの本格的な秘境探検+伝奇モノになり、スタート時からは想像もつかない、エピックでトラジックな展開に!
 いや〜ビックリしたw
 見所もタップリ。
 オーソドックスなところでは、人を呑み込む砂地獄とか、日没時に遺跡の影がシヴァ神の形になるとか、まあこりゃ無理があるだろうってな部分も含めてアイデア豊富。
 地下王国に入ってからの、話やセットのスケールの拡がり方は更にスゴくて、生け贄の儀式もあれば闘技場での戦いもあれば大戦闘シーンもあれば、腕は千切れるわ首は飛ぶわのエグいシーンもたっぷり。
 もちろん歌と踊りもあれば、泣きや感動や滅びの美学もあり、しかも3時間かけても話が完結するわけではなく、俺たちの戦いはこれからだ系のエンディングでした ^^;
 とにかく、面白いものは何でもかんでも取り入れる貪欲なところがスゴい。
 例えば、三人が目的の遺跡に辿り着くと、いきなりPOV演出になり、そこでラクダを発見してブチ殺して焼いて食べて、ゴキゲンになったところでミュージカル・シーンになったかと思うと、今度は謎の呪いで一同発狂…ってな具合。
 というわけで、実に堪能。
 多少話が乱暴なところはあれども、根っこのとことは、前述したように秘境探検モノとしてはかなり本格的な味わいがあるし、物量もパワフルに押しまくるし、これだけ楽しめるのはインド映画の醍醐味を満喫した感じ ^^
“Aayirathil Oruvan”、予告編。
http://www.youtube.com/watch?v=rFG1Ak49agk

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“Peraanmai” (2009) S. P. Jananathan
(☆☆)
 タミル映画。
 ヒーロー・アクション映画。
 タイトルの意味は「男のプライド」。
 インド南部で画期的な農業用衛星が打ち上げられようとしていた。その近所には士官学校の林間学校があり、そこに35人の女子学生がやってきて、山間少数部族出の教官(主人公)のトレーニングを受けるが、優秀な女子学生5人組グループは彼に反発する。
 女子学生による嫌がらせや周囲の誤解などもありつつ、訓練準備期間は何とか終了、例の5人組が選抜されて、主人公と共に山中でのサバイバル・キャンプへと赴く。しかし女学生の悪ふざけによってジープが転落、主人公と5人の女学生は山奥深くで遭難してしまう。
 一行が山中から脱出しようとしているところに、衛星の打ち上げを阻止しようとする外国の破壊工作員と遭遇。主人公は女子学生たちを人里に返し、自分1人で外国のスパイ行動を阻止しようとするが、5人の女学生は愛国心に燃えてそれを拒否、全員で力を合わせて陰謀を阻もうと決意する…ってな話。
 文武両道のヒーローがマッチョなガイジンに立ち向かい、カッコいい近代火器をドカンドカンぶっ放し、ピチピチのオンナノコたちが全裸(とはいえインド映画なのでカーテン越しとか全身モザイクとかw)や濡れTシャツではしゃいだり、でも武器を構えて活躍もして…ってな、実にオトコノコな内容w
 まあ、ストーリー的には完全にB級アクションだし、衛星の打ち上げとかペッカペカのCGだったりもするんですが、一番好感度の高そうなオンナノコをあっさり殺すとか、仲間を殺されたオンナノコたちが女神カーリーの如く変貌して、集団でガイジン男を嬲り殺したりとかいった部分は、ちょいユニーク。
 あと、主人公が少数部族出ゆえに偏見の目に晒されていて、本当は遭難しているのに、5人のオンナノコをレイプして殺害したと誤解されてしまったりとか、監督さんが左翼系なのか、主人公が労働者の重要性を抗議したり、マルクスの本を読んでいたりとか、ちょいと変わった要素も幾つか。
 歌と踊りとお笑いといったインド映画的なお約束要素も、前半のまったり展開の部分に集中して収め、後半の山間アクション映画になってからは、そういった要素を殆ど入れてこないので、B級アクション映画として割り切って見れば、わりと普通の感覚で楽しめる感じ。
 ただ、かといって良い出来かというと、う〜ん…ってな感じではあるんですけどねw 見て損をしたという感じではないけれど、別に人に勧めるほどでもないというか。
 ただ、愛国心を全面に出しつつ、同時に前述したような共産主義的な部分が見えるのは、ちょっと興味深いかも。
“Peraanmai”から、冒頭の音楽シーン。人食い虎を退治した主人公を讃える素朴な山間民族…の中に、さりげなく監督の共産主義への傾倒を伺わせるカットが。2分13秒あたりを注意してご覧あれ。
http://www.youtube.com/watch?v=eXSExLvm-PQ
【追記】後日、1973年製作のソ連映画『朝やけは静かなれど…』を鑑賞し、この”Peraanmai”は同作にプロット的な部分でかなり多くを負っていることが判明。まんま同じエピソードも登場し、翻案とまではいかないものの、一種のオマージュ的な内容であることは確かのように思われます。

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“Subramaniapuram” (2008) G. Sasikumar
(☆☆☆☆)
 タミル映画。
 若者群像劇。近年、タミル映画のニュー・ウェーブなどと呼ばれているらしい、人工性を廃したリアル志向の作品群の1つで、低予算ながら大ヒットしたものだそうな。
 タイトルは南インドのマドゥライにある地区の名前。
 映画製作と同じ2008年、刑務所から出所した男が何者かに刺され瀕死の重傷をおう。そして時は遡り1980年、マドゥライのスブラマニアプラム地区では、仕事にあぶれた4人の若者が、日々ケンカと酒に明け暮れていた。腕っ節の強い兄貴分と弟分、三の線の使いっ走り、足が不自由な男という組み合わせ。
 4人組は何をするにも一緒で、さらに兄貴分と弟分は地元の政治家の用心棒めいたこともしており、おかげでケンカや泥酔で逮捕されても、すぐにその政治家の秘書が手を回して釈放してくれる。しかも弟分は、秘書の姪っ子と恋愛中。家族からはまともな職につけと責められるが、けっこう楽しくやっていた。
 ところが寺院の祭りの主催を巡って、その政治家に有力な対抗勢力が現れる。いろいろと争った結果、主催はそのライバルの手に渡り、政治家と秘書はそれまでの地位を失ってしまう。4人組が失意に沈む秘書を心配して訪問すると、自分たちが元の地位に戻るには、そのライバルを消すしかないと言う。
 これまで自分たちの面倒を良く見てくれた秘書のために、彼らは男気に駆られて、足の不自由な男を除く3人で暗殺を実行し、兄貴分と弟分の2人が自首する。彼らは、今回も自分たちを釈放するために、秘書たちが動いてくれると思っていたが、彼らは元の地位に返り咲きながらも、何もしてくれなかった。
 自分たちがいいように使い捨てにされたことを知った彼らは、一緒に収監されていたヤクザの親玉の手助けで出所した後、秘書に復讐を誓う。秘書の姪は、弟分に足を洗って更正してくれと頼むが、彼はそれを聞こうとはしない。
 そんな中、ム所で良くしてくれた例の親玉が出所する。世話になったお礼に行くと、親分は浮かない顔をしている。理由を聞くと、彼の妹が義弟に殺されながらも、その義弟はのうのうと生き延びているのが許せないのだという。
 若者達はまたもや義侠心に駆られて、その男の始末を請け負う。それは成功するが、今度は殺した男の仲間から命を狙われるようになる。こうして若者達は、次第に暴力の連鎖に巻き込まれ、やがて隠れて暮らすようになる。
 そして例の秘書も襲撃するが、それは失敗し、秘書の弟、つまり弟分の恋人の父親を刺してしまう。秘書は、若者達をこのまま放置しておくと、いつか自分も殺されると思い、ある計略を練り…といった内容。
 いや〜、これはかなりハードコア。
 言うなれば、純朴な田舎の若者たちが、その純朴さ故に道を踏み外し、やがて破滅していくというストーリーを、ロケ主体、手持ちカメラや長回しなどの映像、カッコよさや露悪趣味を廃したリアリズム主体の流血描写で、じっくりヘビーに見せていく作品。
 時代性や地域性のせいか、こういったクライムものには付きものの銃器がいっさい登場せず、襲撃や殺害が全て山刀やナイフによるものだというのも、けっこう生理的にクる。前半が比較的長閑なムードである分、後半の暴力が連鎖していくあたりとのコントラストも強い。
 映像には、アメリカン・ニューシネマ的なザラついたリアル感があり、時代の空気感や演出の緊張感も上々。音楽シーンもあるのだが、全てBGM的か現実音で処理しており、ミュージカル的な演出は皆無なので、全体のリアリティを損なうことは全くない。
 ストーリー的にも、導入の28年後の襲撃シーンを、襲われる人間の一人称カメラで描き、襲撃者の顔もシャドウで不鮮明なために、いったい誰が誰に刺されたのかが、映画のラストまで判らないという、上手い興味の引っ張り方をしているし、それに至る展開も「こいつを殺すか!」といった驚きもあって上々。
 ただ、人物関係が入り組んでいてちょっと判りづらいのと、ローカル性に密着した内容のため、ところどころ理解や共感が難しいのと、あと、4人組のうち3人が、ほとんど同じ髪型とヒゲなもんで、誰が誰やら慣れるまで見分けるのが大変でした^^;
 しかし、見応えはタップリ、出来映えも上々なので、これはどちらかというと、インド映画に興味のない層の方にアピールするのでは。
 おかげでちょっと、このタミル映画のニューウェーブ、他のも見てみたいな〜という気に…ああ、また泥沼に足を踏み込んでいる予感 ^^;
“Subramaniapuram”、予告編。音楽と編集のせいで、この予告編はスタイリッシュに見えますが、実際の映画はもっと泥臭い感じです。
http://www.youtube.com/watch?v=KnZy9eqOkI0
“Subramaniapuram”から、前半の長閑部、懐メロをBGM的に使った音楽シーン。4人組の日常と、アイコンタクトで恋を語り合う弟分と秘書の姪というシーンで、この空気感がアジア旅行好きには何ともタマラナイ ^^
http://www.youtube.com/watch?v=KUUYTB0EbOU
“Subramaniapuram”から、音楽と現実音を組み合わせている祭りのシーン。こんな感じで、例え音楽シーンでも人工性を廃したリアリズム主体、しかも地域性豊かなのが、作品の大きな魅力の1つ。
http://www.youtube.com/watch?v=kFHA0XIIdvI

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“Baarbarr” (2009) Ashu Trikha
(☆☆)
 ヒンディ映画。
 インド北部の暗黒街、ムスリムの一族に生まれ育った主人公は、齢12で初めて人を殺し、長じて周囲から怖れられるギャングの顔役となる。地元警察と癒着しつつ、対立組織との抗争が激化していく中、幼い頃の主人公を知る警視が、ギャング組織の一掃する命を受けて赴任し…といった、クライム・ドラマ。
 タイトルは主人公の名前。
 環境が犯罪を生み、犯罪が犯罪へと連鎖していき、人心の荒廃も絡み、その連鎖は永久運動のように止むことがない…といったメッセージが込められた、なかなか社会派的な内容。演出はリアリズム重視で、いわゆるインド映画っぽさは、ほぼゼロ。なかなか意欲的な作品という印象。
 ただ惜しむらくは、キャラクターを突き放して、人の世の醜さや社会の孕む問題を暴き出すという内容のわりには、そこそこの見応えに留まってしまい、ズシンとくるヘビー級のパンチにまでは至っていないところ。暴力度の高さとか救いのない展開とか、頑張ってはいるんですが、もう一つパンチ不足。
 主人公を演じる男優(新人さんらしい)は、個人的になかなかの収穫。いい面構えだし、ヒゲにモジャ髪、ヨレヨレシャツというトッピングwも効果的で、ぶっちゃけキャラ的にはかなりタイプ ^^ ヒンディー映画の主演男優にしては、顔が比較的サッパリめなのも嬉しいw
 ただまあサッパリといっても、あくまでもヒンディ映画としては…てな程度で、充分に濃い顔だとは思いますがw でもライバル役のギャングが、これまたハビエル・バルデムとローワン・アトキンソンを足して二で割ったみたいな特濃タイプなので、なおさらサッパリ具合が印象に残ったりw
 DVDのジャケやポスターがカッコ良かったので、興味を惹かれて見てみたんですが、主演がタイプだったというのも加算して、そこそこ楽しめた1本でした ^^
“Baabarr”、予告編。

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“Kisna: The Warrior Poet” (2005) Subhash Ghai
(☆☆☆)
 ヒンディ映画。
 インド独立時期のインド青年と英国娘の恋を描いた、ヒストリカル・ロマンスもの。
 ストーリーの導入部は現代から。英国貴族の老婦人がチャリティでインドを訪れる。地元の記者たちは、彼女はインドのことを何も判っていないと反発するが、彼女はそれに流暢なヒンディ語で答え、実は自分はインドで生まれ育ち、誰よりも良くこの国のことを知っている…と、想い出語りを始める。
 そして時は遡って1940年代へ。ヒロインのキャサリンはインドで生まれ育った英国領事の娘。その家の使用人の息子が主人公キスナ。二人は幼い頃から仲の良い友だち同士だったが、インド人を蔑視しているキャサリンの父親は子供たちの交際に反対し、幼いキャサリンを英国に送り返してしまう。
 やがて美しい娘に育ったキャサリンはインドへ帰還、凛々しい青年に育ったキスナと再会する。キャサリンは彼に惹かれるが、彼の家族はその結婚相手に、やはり幼い頃からの遊び友だちだったラクシュミを選ぶ。キャサリンは自分の恋心を押し隠したまま、キスナとは親友の関係でいようと決心する。
 そんな折り、インドの独立が決定。盛り上がる愛国気分の中、バガット・シン(インド独立を目指した武闘派のリーダー)を信奉する過激派が、かねてよりその横暴ぶりで反感をかっていた、キャサリンの父親宅を襲撃し殺害する。その過激派の中には、キスナの兄も混ざっていた。
 父を殺され母ともはぐれたキャサリンは、キスナに庇護される。彼女を守ることは、兄や許嫁への裏切りでもあるので、キスナは煩悶するが、幼い頃から彼にうヴェーダの教えを説いていた母親に「時として、たとえ近親に背いたとしても、正しい行為をする必要がある」と諭される。
 こうしてキスナは、キャサリンを無事デリーに送り届けるために、二人一緒に旅立ち、キスナの兄を含む過激派一行と、嫉妬に駆られた許嫁のラクシュミ、そしてキャサリンとの結婚を目論む英印混血の王子が、二人の後を追う。
 逃避行の途上で、どんどん互いに惹かれていくキスナとキャサリン。しかし追っ手は次第に迫り、しかも目的地のデリーでも、ヒンドゥー教徒とイスラム教徒の間で争いが勃発し、暴徒と化して互いに殺し合いをしていた。果たして二人の運命は? …ってなストーリー。
 美しいヒロインと、それを守るカッコいいヒーロー、雄大で美しい大自然の風景、美しくロマンティックで見応えもある歌舞シーン…と、ロマンスものとしては上々の仕上がり。キャラも、メインも脇も良く立っているので、ロマンスものに乗れさえすれば、ストーリーにもグイグイ引き込まれる。
 ただ基本的に、舞台が長閑な田舎の山間部から始まって、田園風景を背に展開していくので、激動の時代を背景にした歴史的な雰囲気は、それほどなし。先日見た同様のモチーフの「Madraspattnam」と比較しても、作品としてあそこまでの風格はない感じ。
 とはいえ、長閑で美しい分、逆にどこか寓話のような浮世離れ感があるのは、それはそれで魅力的。ヒーローのキスナをヒンドゥー神話のクリシュナと重ね合わせたり、台詞でマハーバーラタへの見立て等が入るあたりも、そんなムードを良く後押ししていて効果的。
 ミュージカル・シーンもなかなか凝っていて、しかも豪華で美しく、かなり見応えあり。A・R・ラフマーンの音楽も良いです。
 ヒストリカル・ロマンスものとして割り切って見れば、美しいし情緒もあるし感動もあるし余韻も残るし…と、タップリ愉しめること請け合い。
 美男美女による、オーセンティックで奥ゆかしく、でもスケール感もある歴史ロマンス劇なので、往年の少女マンガ好きに、特にオススメしたい感じでした ^^
“Kisna: The Warrior Poet”、予告編。
http://www.youtube.com/watch?v=H_UfAqkudYE
“Kisna”から、クリシュナ神の祭礼を背景に、惹かれていく恋人達を描く音楽シーン。
http://www.youtube.com/watch?v=mttdFi5TL2s
“Kisna”から、西洋風のミュージカル・シーン(英国人ヒロインの心象風景なので)。冒頭のヘンなデジタル合成は勘弁だけど、それを過ぎてからのコンテンポラリー系の衣装&振り付けのバックダンサーと色彩効果が見応えあり。音楽も、中盤のエンヤ風コラールにタブラが絡み、そこにストリングスも加わり、グイグイと高揚感を増していき、更にDJ的なツナギで「愛のテーマ」に移行する鮮やかさは、流石A・R・ラフマーンの面目躍如といった感じです ^^
http://www.youtube.com/watch?v=WffaYmdS-yI

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“Paheli” (2005) Amol Palekar
(☆☆☆)
 ヒンディ映画。
 シャールク・カーン、ラニー・ムケルジー主演の、民話風幽霊ファンタジー。
 金持ちの家に嫁いだ若い娘。しかし新郎はビジネスに夢中で、初夜に新婦を抱くこともせずに、そのまま遠地へと旅だってしまう。傷つき嘆く娘の前に、ゴーストが新郎そっくりの姿形をして現れる。ゴーストは娘を愛し、娘もそれを受け入れる。
 ゴーストは家族にも溶け込んで、やがて娘は妊娠する。遠隔地でそれを知った本当の夫は、驚いて家に戻る。二人の夫のどちらが本物なのか、周囲の人々は知恵ある牧者に判断を仰ぐ…といった話が、男女の操り人形の語りによって綴られていくファンタスティックな内容。
 おっとりとした民話的な内容、色鮮やかな色彩、樹からぶらさがった沢山の操り人形といった魅力的なイメージ、程よく抑制のきいたファンタスティックな魔法の見せ方…などなど、色彩の美しさとフンワリした雰囲気が印象深い映画。
 特に、色とりどりの衣装の数々や、壁に描かれている絵など、美術全般が美麗さとフォークアート的な素朴さを併せ持っていて、それを見ているだけでも楽しいです。ただ、個人的にどうにもシャールク・カーンの顔が苦手なので、イマイチ素直にロマンチック気分にはなれないのが残念 ^^;
“Paheli”から、夢見るような色彩美の衣装が堪能できる、オープニングの音楽シーン。
http://www.youtube.com/watch?v=CD_VSirx8PE

dvd_dasavatharam
“Dasavatharam” (2008) K. S. Ravikumar
(☆☆)
 タミル映画。
 YouTubeで、責め場とミュージカルがマリアージュしたクリップ(鉄鉤で吊された僧侶が、いきなり歌い出すのだw)を見て、ビックリギョーテンした映画 ^^;
 開始早々に「ユニバーサル・スター、カマル・ハッサンが映画史上初の一人十役を演じる!」と出て、どんなブットビ映画かとワクワクw
 ストーリーとしては、アメリカのラボから人類を滅ぼす生物兵器が流出し、インド人学者がそれを守ろうと奮闘するといった話と、カオス理論(バタフライ効果)と神の御業を絡めて、2004年にインドを襲った大津波は、実は…ってなテーマが描かれるという、期待通りのブッ飛び系。
 ただまあ、冒頭の古代シーン、イントロのアメリカのシーン、クライマックスの大津波なんかは、なかなかトゥーマッチな派手さと賑々しさで楽しいんですが、間の大部分を占める、インド南部でのドタバタ風味の追いかけ劇が、ローカルネタのお笑いがふんだんに登場することもあって、死ぬほど退屈 ^^;
 宇宙的スター(ってことだよね ^^;)カマル・ハッサンは、特殊メイクを駆使して、主人公のインド人学者から、古代の僧侶、ボケ気味の老婆、人気バングラ歌手、更には日本人空手師範、シュワちゃん風殺し屋、はたまたブッシュ大統領にまで化けて見せるんですが…いったい何の意味があるのやらw
 カマル・ハッサンのファン向きのスター映画としてなら、これはこれでOKなんだろうけど、正直私には敷居が高すぎるというか、どうしても「…だから何なのっっ???」って言いたくなっちゃうな〜 ^^; なんか映画というよりは、金の掛かった隠し芸大会みたいでw
 そんなこんなで、全3時間のうち2時間は退屈で死にそうになりますが、残りの1時間は色んな意味でブッ飛んでいて「はあぁぁっっ??」ってな要素がテンコモリなので、ヘンなもの好きな方だったらどうぞ〜 ^^;
“Dasavatharam”、予告編。
http://www.youtube.com/watch?v=Zt06wO8zxXg
“Dasavatharam”から、ビックリギョーテンの、責め場とミュージカルのマリアージュw インド映画の底なし沼加減、恐るべしwww
http://www.youtube.com/watch?v=8m3FjcDQa7A
“Dasavatharam”から、クライマックスの津波シーン。アップになる四人(主人公、日本人空手師範、白人殺し屋、ヘリの警察官)は全員カマル・ハッサンw キワモノ好きには、これはタマラナイはず。ちゃんと日本語で「津波だ〜!」と叫ぶカマル・ハッサンや、双眼鏡でウィルスの増殖が見えるカットも要チェックよ!w
http://www.youtube.com/watch?v=kQbGVshjc7c

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“Umrao Jaan” (2006) J.P. Dutta
(☆☆)
 ヒンディ映画。
 高級娼妓の数奇な運命を描いたウルドゥ語による古典小説の映画化。
 主演はアイシュワリヤ・ラーイ、タイトルはヒロインの名前。
 とある老人が隣家から聞こえてきた美しいガザル(歌)に惹かれ、歌の主を訪ねると、それはかつては美貌と芸で名を知られた往年の高級娼妓だった。老人に詩と歌の美しさについて尋ねられ、彼女は「悲しみがそれを美しくする」と答え、身の上語りを始める。
 幼い頃に誘拐され高級娼館に売られた娘は、娼館の女将や養い親となった老夫婦の手によって、歌と踊りと詩作を学び、やがて美しく成長して高級娼妓となり、そのデビューとなる宴会で絶賛される。その席で彼女は若いスルタンに見初められ、実は彼女もそのスルタンに恋をしていた。
 彼女はスルタン公認の愛人となり、互いに永遠の愛を誓い合うが、スルタンの父親はそれに反対し、息子を勘当してしまう。文無しになったスルタンは、再会を約束して彼女の元を離れる。彼女には新たなスルタンが客として付くが、彼女は肌を許さない。
 やがて彼女は、その新しい客の力を利用して、娼館から出て恋人のスルタンに再会するが、恋人は新しい客のついた嘘、「彼女は自分に肌を許したし、そもそも金目当ての娼妓に過ぎない」を真に受けてしまい、彼女を娼館に追い返してしまう。
 失意の彼女を、娼館の仲間達は温かく迎えるが、そこに英国軍によるインド人反乱分子の討伐が始まる。討伐が勢いを増し、民間人まで虐殺される事態となり、娼館の女将は自分一人が館を守るために留まり、娼妓たちを全て街の外に逃がす。
 逃避行の途中、ヒロインは生まれ故郷の街の近くを通り、他の娼妓の薦めもあって、躊躇いながらも家族の元に戻ることにする。そして、存命だった母親と弟に再会するのだが、娼妓となった娘は家名を汚すとして受け入れて貰えず、すぐにこの街を出て行けと追い払われる。
 一方、街のお大尽が高名な彼女に、結婚式の宴会で歌と踊りの仕事を依頼する。満座の中、主人公は自分の悲しみを歌い踊り、それを聴いた客は皆、深く心を打たれ頭を垂れる…といった内容の、娼妓ゆえの悲しみを描いた、一種の女性映画。
 映画としては、豪華に、美しく、格調高く…という作り手の狙いは判るのだが、いかんせん演出が全般的に凡庸なために、さほど心動かされる出来ではない、というのが正直なところ。見所はほぼ、アイシュワリヤの美貌と、衣装やセットの美しさのみと言ってもいい感じ。
 ただ娼館の女将が、キャラクター性と女優の演技が、共に大いに魅力的なので、女将が絡むシーンは引き締まっていて見応えあり。育て親の老夫婦も良く、そこいらへんの泣かせどころはなかなか盛り上げてくれます。
 というわけで、まあ映画としては凡作の類だとは思いますが、前述したようにヒロインの美貌と衣装などの豪華さは溜め息ものなので、歌舞シーンはタップリ楽しめます。
 ただし、そういう歌舞シーンでも、カメラワークやカット割りが凡庸なのは、やはり否めませんけど… ^^;
“Umrao Jaan”から、サルタン(アビシェク・バッチャン)に見初められる主人公(アイシュワリヤ・ラーイ)のデビュー歌舞シーン。
http://www.youtube.com/watch?v=q0rK7b-yJ1o

dcd_arundhati
“Arundhati” (2009) Kodi Ramakrishna
(☆☆☆)
 インド/テルグ映画。
 現代に蘇った悪霊と若い娘の対決を描いた、伝奇ホラーアクションで、タイトルはヒロインの名前。
 ドライブ中に事故にあった若い夫婦が、助けを求めて古城を訪れると、そこには封印された墓があり、更に妻が行方知れずになってしまう。
 一方、マハラジャの血筋を引く娘(主人公)に縁談が決まり、一族は喜びに沸く。この一族は男系で、娘は曾祖母の代から数えて初めての女児だった。娘とその一族は、導かれるようにして件の古城のある街にやってくるが、その周囲には異様なことが起きるようになる。
 実は、古城にある墓には一族に縁のある者が封印されていて、しかも主人公は、その悪霊を封印した女王の生まれ変わりらしい。そんな中で、古城で妻を失った夫は、悪霊に操られて墓の封印を解いてしまう。
 解放された悪霊は、復讐と性欲で娘に襲いかかる。娘はそれから逃げようと、また一族を巻き添えにすることを避けようと、力のある祈祷師や過去の経緯に詳しい乳母を味方に奮闘するが、次第に追い詰められていく。
 祈祷師に「女王の生まれ変わりの貴女なら、悪霊を封じる方法も判るはず」と言われ、娘は前世の記憶を辿り、女王が身を犠牲にして悪霊退治の武器を作り、それを生まれ変わりである自分に托したということを思い出す。
 しかし武器の所在は判らず、その間にも悪霊の力はますます増していく。乳母は殺され、一族や婚約者の身に危険が迫り、祈祷師が何とか武器を見つけ出すものの、娘の手元に届ける前に刻限が迫り、悪霊はついに生身の身体を得て蘇り、娘を強姦・殺害しようと迫り…ってな内容。
 まあ、細部にはいささか乱暴なところはあれども、これでもかこれでもかパワーで押しまくり。CGIはかなりチープながらも見所は盛り沢山だし、役者さんは目ェひん剥いて大熱演だし、尺が2時間ちょいとインド映画にしては短めのこともあり、楽しく一気に見られました ^^
 悪霊退治の武器が人骨製(しかも生け贄の血に浸していないと効果なし)だったり、その武器を作るためには苦痛に満ちた死に方をしなければいけないんですが、それが死ぬまで頭をココナッツでかち割られ続けるという方法だったりするあたりが、ちょっと目が点になりつつも、新鮮で面白かった ^^
 まあ、怖いかっつ〜とちっとも怖くなくて、逆に押しまくるトゥー・マッチさが楽しかったりもしますし、チャン・イーモウ「LOVERS」の露骨なパクリシーンがあって苦笑したりもしましたが、お好きな方ならタップリ楽しめるのではないかと ^^
“Arundhati”、予告編。こんな感じで、見せ物感覚でアレコレ楽しい伝奇ホラーです ^^
http://www.youtube.com/watch?v=GJrPZjIafVI
“Arundhati”から、殺戮を止めようとする王女〜「LOVERS」パクリのシーンw 伝奇ホラー映画でも、しっかり歌って踊ります ^^;
http://www.youtube.com/watch?v=2KiZkd3DouY
<注意> ”Arundhati”のBlu-rayディスクは、英語字幕と音声にズレがあり、最初のうちはセリフのラインが1つズレている程度なんですが、後半はもう完全にズレまくって、セリフとのズレも10分以上拡がっちゃいます。

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“Ishqiya” (2010) Abhishek Chaubey
(☆☆☆☆☆)
 ヒンディ映画。
 スター不在、豪華なミュージカルシーンなし、いわゆるボリウッド映画とは一線を画す内容ながら、批評家筋からの高い評価と、観客の口コミによってヒットしたという、北インドの田舎村を舞台にした、クライム・ロマン。
 年配の叔父と若い甥というケチな悪党二人組は、叔父の義弟でもあるギャングのボスから金を盗み、知人の伝手を頼ってネパールに逃げようとするが、手引きしてくれるはずの男は既に死んでいて、二人を出迎えたのはまだ若い未亡人で、しかもすこぶるつきの美人だった。
 未亡人の美貌とイノセントな佇まいに、年配の叔父は一目惚れ、若い甥はムラムラきて、しばらくそこに留まることにするのだが、実はこのあたりは、その長閑な風景とは裏腹に、まだほんの子供でのやけに銃器に詳しかったりして、かなりキナ臭いエリアだというのが判ってくる。
 そんな中、ついに追っ手に見つかってしまい、二人は盗んだ金を返して命乞いをしようとするのだが、隠していた金はいつの間にか何者かに盗まれていた。あわや殺されそうになった二人だが、義兄弟の縁で何とか頼み込み、返済までに一ヶ月の猶予を貰うことができた。
 盗んだのはどうやら、例の銃器に詳しい子供らしいのだが、彼は既に森林ゲリラに入ってしまい、コンタクトを取ることができない。金の奪還が絶望的になった二人に、未亡人はワルだった亡夫が遺した資料を参考に、金持ちを誘拐して身代金をとる計画を持ちかける。
 誘拐計画を薦めながら、叔父はますます未亡人に惚れてしまう。しかし叔父が頭の中で、彼女との古風なロマンス妄想を繰り広げている間に、若さで押しまくる甥は遂に彼女をモノにしてしまう。それが叔父にもばれて、二人の間がギクシャクしてしまったところで、ついに誘拐本番の日が。
 あれこれすったもんだしつつも、誘拐計画は何とか成功するものの、そこで驚くべき真実が明かになり、二転三転ストーリーは先の予測がつかない展開へ…といった内容。
 いや、これはお見事!
 巷(っても私が触れることができるのはネット上ですがw)の高評価も納得。
 ストーリーの転がし方、それがひっくり返ることで伏線がカチカチとはまっていく快感、どいつもこいつも、どこか憎みきれない愛すべきキャラクター、心を打つ様々な「愛」の様相、もう問答無用で面白い!
 役者は皆いいし、緩急を効かせた演出もいいし、ユーモア感覚にインド映画的なコテコテ感がなく、どこかとぼけたような洒落っ気すら感じられるのも上々。
 監督のアビシェク・チャーベイ(?)という人は、77年生まれとまだ若く、これが初監督作品らしいけれど、この手腕は素晴らしい!
 そんなこんなで、味わいのある上質な娯楽作品として、文句なしの出来映えの上に、後味もすこぶる良く、インド映画云々を抜きにしてオススメできる良作!
 どっか買いつけて、公開は無理としてもDVDで出さないかしらん (´・ω・`)
“Ishqiya”、予告編。ストーリー自体の面白さに加えて、映像の洒落っ気、男どもの味わい深い顔つきや、ヒロインのキュートさなんかもナイス。
http://www.youtube.com/watch?v=qLE2zJv68pA

dvd_naanmahaanalla
“Naan Mahaan Alla” (2010) Suseenthiran
(☆☆)
 タミル映画。
 気のいい青年が復讐の鬼と化す、前半ロマコメ〜後半血みどろアクション。タイトルの意味は「俺は聖人じゃない」ということらしい。
 主演はタヌキみたいでかわいいw、「Paiyaa」や「Aayirathil Oruvan」のカルティ。
 主人公は無職だけど気のいい青年。友だちの結婚式で出会ったカワイコちゃんに一目惚れして、いろいろ策を巡らせて見事お付き合い開始となり、結婚も考えるようになるのだが、彼女の父親からは反対されて、気持ちが一年間変わらないことと、定職につくことを条件に出される。
 主人公は銀行の集金人の職に就くが、生来の善良さが祟って上手くいかない。一方、この街では不良学生どもがつるんで、オンナノコを輪姦したあと殺害し、死体をバラバラにして捨てていた。そしてある日、タクシードライバーをしていた主人公の父親が、その連中に交通事故に見せかけて殺されかける。
 実は父親は、ワル連中がオンナノコを拐かす際、彼らを客として乗せて顔を覚えていたために、警察にたれ込む前に口封じのために狙われたのだった。父親は幸いにして大事なく自宅療養となる。家賃や生活費の上に薬代も嵩むようになり、主人公は心機一転、真剣に働くようになり、妹の結婚話もまとまる。
 ところがそんな矢先、再びワル連中の魔の手が父親を狙い、今度は無残にも殺されてしまう。嘆き悲しむ主人公に、警察は犯人捜しの協力を申し入れるが、主人公はそれを拒否。父親を殺した連中を、法の手に任せるのではなく、自らの手で裁こうというのだ…といった内容。
 う〜ん…これは…はっきり言って、前半のロマコメと後半の復讐劇が、完全に分離、これいじょうないほどクッキリハッキリ分かれてしまっていて、ぶっちゃけ後半だけ見ても無問題っつ〜くらいに、前半の要素は後半になるとキレイサッパリ消え去っちゃって…何ともはやw
 父親が事故にあうのが前半部のほぼラストなんですが、以後、ヒロインの登場シーンなんて数えるほどしかないし、ロマンスの行方も空中分解して消え去っちゃう。残るは主人公の復讐劇なんですが、映像的な見所はともかく、作劇としては伏線もミスリードも何もない一本調子のズンドコ節 ^^;
 そんなこんなで、主人公が復讐を遂げると、いきなりブツっとジ・エンド。「ちょ、じゃあ前半のアレコレは、いったい???」ってなポカ〜ン気分に。ごく普通の善良な青年が、巻き込まれ型の肉親の死をきっかけに、復讐の鬼と化す凄みを描きたいのかもしれないけれど、それにしてもザックリしすぎ…
 とはいえ、ストーリーと脚本はちょっとウムムなんですが、演出自体はなかなか力があって、特に後半の復讐劇は、サスペンス演出もアクション描写も見事。ストーリーのズンドコさにも関わらず、見ていて思わず手に汗握るほど引き込まれます。この演出力は捨てがたい感じ。
 そんなこんなで、ストーリー☆、脚本☆☆、構成☆、演出☆☆☆☆☆…みたいな、何ともアンバランスな映画。ま、カルティのスター映画としては、これでもいいのかなぁ… ^^;
 しかしこれがIMDbで7.8点ってのは、やはり解せないw それだけカルティが、いま上り調子のスターだってことなのかしらん? (´・ω・`)
“Naan Mahan Alla”、予告編。
http://www.youtube.com/watch?v=cDB7EChIFks