“The Valley of the Bees (Údolí včel)”

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“The Valley of the Bees” (1968) Frantisek Vlácil
(英盤DVDで鑑賞→amazo.co.uk

 1967年製作のチェコスロヴァキア映画。原題”Údolí včel”。フランチシェク・ヴラーチル監督作品。
 中世のヨーロッパを舞台に、テンプル騎士団から脱走した青年とその兄弟子の関係を通じて、教条主義の矛盾や悲劇を描いた説話的な内容で、ホモソーシャル/ホモセクシュアルの要素もあり。

 主人公の少年は、領主の息子で蜂の世話をしている。ある日、父親が再婚することになるのだが、新しい母は自分と大して歳の違わない若い娘だった。少年は結婚の祝いに、義母となる娘に花籠を贈るのだが、花の下には蝙蝠が入っていた。
 この悪戯に父親はカッとなって、思わず息子を壁に叩きつけてしまう。瀕死の息子を見て我に返った父親は、息子の命を托すから救ってくれと聖母マリアへ祈りを捧げる。
 その結果、息子は一命を取り留め、遠く北の地にあるテンプル騎士団の修道院に預けられ、やがて成長して騎士団の一員となり、兄弟子にあたる青年と親密な仲になる。
 ある日、騎士団から脱走者が出る。脱走者は捕らえられ処刑されるが、主人公の青年もまた、脱走者を見逃した責を問われて監禁される。そして兄弟子が様子を見に行ったときには、彼もまた脱走していおり、兄弟子は彼を連れ戻そうと後を追う。
 兄弟子の追跡を振り切り、主人公が故郷に辿りついたときには、父親は既に亡くなっており、まだ若い義母は寡婦となっていた。二人は互いに惹かれ合いつつも、義母と息子という関係に煩悶するが、やがて地元の世俗主義の神父の祝福も受け、晴れて結婚することになる。
 しかし、そこに後を追ってきた兄弟子が現れ……という話。

 このフランチシェク・ヴラーチルという監督は全く知らなかったんですが、何でも代表作『マルケータ・ラザロヴァー』が20世紀チェコ映画の最高傑作に選ばれているほどの巨匠だそうです。DVDジャケにも「黒澤とエイゼンシュテインの融合」「チェコのオーソン・ウェルズやパラジャーノフ」なんて惹句がありました。
 ストーリーの骨子としては、艶笑抜きの『カンタベリー物語』とかの一挿話といった雰囲気。そういったシンプルな構図の中に、人間の自由を阻むカトリックの教条的な側面と、異教的な土着信仰も取り込んだ、より大らかな世俗的な信仰との対比が、力強く美しいモノクロの映像で描かれています。
 まず、この映像の力強さが大いに魅力的。
 お伽噺的なロマンティズムやファンタジー的な華美さではなく、中世という時代の暗さ、貧しさ、厳しさを感じさせる美術、自然や土着信仰を描いた場面の土俗的な美しさ、シンメトリーが印象的な構図といった、シンプルでありながら重厚な画面が、民間伝承的な物語の雰囲気を醸し出すと同時に、そこに骨太な説得力を与えています。
 俳優たちの抑えた演技や、言葉少なめの台詞、静と動の切り返しが巧みな演出、宗教合唱曲や古楽のみによる、効果的な音楽の使い方も素晴らしい。

 それともう一つ、テンプル騎士団という集団のホモソーシャル性と、主人公と兄弟子の間のホモセクシュアルとしての関係性が、暗喩という形ではあるものの、しっかり描かれているあたりが興味深い。
 ホモセクシュアル性は、まず、修道院に来た少年が全裸で渚で沐浴し、兄弟子がその手をとって「友だちになろう」と語りかけることから始まります。そこから、字幕による年月の経過説明を経て、青年に成長した主人公と兄弟子が、やはり渚で共に全裸で横たわっている場面に繋がります。
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 ここで注目したいのは、渚で波に洗われる二人の姿が、打ち寄せる波、渦巻く水、表情、手……といった映像を使って、はっきりとセックスの暗喩となっているところ。
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 68年製作のチェコスロヴァキア映画で、しかも宗教的なモチーフを扱った作品で、こういった表現が見られるということには、ちょっと驚かされました。
 つまり、この映画が描き出す「悲劇」は、教条主義と世俗主義の拮抗であると同時に、同性愛関係のもつれともとれるように作られており、特にエンディングは、同性愛のストーリーとして解釈した方がスッキリするくらいです。

 というわけで、中世を舞台とした寓意的な内容、力強く美しい映像、ホモセクシュアル性……といった具合に、個人的にはかなりツボを突かれる内容。モチーフに惹かれる方であれば、かなりオススメできる逸品かと。

 予告編は見つからなかったので、本編からのクリップを2つ。
 まず、脱走した修道士が処刑される場面。これ見て「すげ!」ってなって、即DVDを探して購入しました(笑)。

 もう1つ、冒頭の、若い花嫁に蝙蝠入りの花籠を贈る場面。