『アイアン・メイデン 血の伯爵夫人バートリ (Bathory, Countess of Blood)』

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“Bathory, Countess of Blood” (2008) Juraj Jakubisko
(英盤DVDで鑑賞→amazon.co.uk

 2008年製作のチェコ/スロバキア/ハンガリー/イギリス合作映画。
 処女の生き血風呂で美貌と若さを保ったという、エリザベート・バートリー(バートリ・エルジェーベト)の生涯を描いた映画。

 字幕なしのヒアリングオンリー鑑賞だったので、あちこち細かな部分が良く判らなかったのですが、要するにエルジェーベトを、実は血に飢えた伯爵夫人とかではなく、ハンガリー対ハプスブルグ、プロテスタント対カソリックの犠牲となり、無実の罪を着せられた一女性として再話した内容。
 というわけで、生き血風呂は実は赤いハーブ風呂で、内臓を取り出し云々は恋人となった画家のため、発作的な狂気は誤った調合の薬を飲んでしまったため…といったような感じになっていて、エルジェーベト本人に関するゴシックホラー的な描写を期待すると、ちょい肩すかしをくらうかも。
 とはいえ、対オスマン戦争や魔女裁判、エルジェーベトを魔女に仕立てる陰謀や麻薬の幻覚など、血生臭かったり怪奇だったり耽美だったりするエピソードやイメージは盛り沢山です。演出のタイプが映像派で、叙事をじっくり描くよりも、イメージとしての新奇さを優先しているので、ゴシックロマン的な雰囲気はタップリ。
 戦場を逃げ惑う全裸のトルコ美女たちにハンガリー軍が襲いかかるとか、地下墓地に保存されている氷詰めの嬰児の遺体を、帽子のつばにロウソクを点して写生する画家とか、デカい人面の駒を使った屋外チェスとか、不気味なダンジョンとか華麗な仮面舞踏会とか、オモシロ映像もいっぱい。
 また、衣装や美術は豪華だし、画面のスケール感もあります。

 ただ、一人の女性の生涯を描いた大河ドラマとして、様々な要素が盛り込まれている反面、あれこれ盛り込みすぎて、ちょいとサービス過剰の部分もあり。
 例えば、ストーリーには一人の若い画家が絡んできて、これがエルジェーベトの数少ない理解者&恋人になるんですけど、その画家の正体が実はカラヴァッジオだったりとか、エルジェーベトの周辺で起きる奇怪な事件を、旅の修道僧とその弟子のコンビ探るという『薔薇の名前』風の展開が入ってきて、更にその修道僧が珍奇な発明好きで、ローラースケートやらハンググライダーを駆使するなんていう、『スリーピー・ホロウ』か『ヴァン・ヘルシング』ですかってな展開とかは、ハッキリ言って要らないと思う(笑)。
 そういう感じで、なんか悪い意味での娯楽性みたいのを意識しすぎていて、結果、前述した耽美性とか、ストーリーの主軸である、歴史上の有名な人物を「××と思われていますが、実は○○だったんです」という視点で描くという、真面目なスタンスと齟齬をきたしている感じ。

 エルジェーベト役はアンナ・フリエルという女優さん。過去の出演作では『タイムライン』を見ているはずですが、正直印象には残っておらず。
 まあ、そこそこキレイな方ではあるとは思うんですが、いささか風貌が庶民的というか、気品や凄みといったものが感じられないのは、この役柄としてはちょいと残念。
 フランコ・ネロも出ていますが、これはホントにゲスト・スターみたいな感じで、出演シーンもちょびっとでガッカリ。
 他も、これといった印象に残る役者さんがいないのも、全体のイマイチ感に繋がってしまっている感あり。

 そういうわけで、ちょっとウ〜ムな部分も散見されますが、それでもコスチュームプレイとしての絵的な見所は多々あるし、耽美映像派系の黒ミサ幻覚シーンなんてのもあるし、あちこち血もオッパイも盛り沢山だし…と、個人的にはけっこう楽しめました。
  惜しむらくは、全裸女性拷問はあるのに、全裸殿方拷問はなかったことかな〜(笑)。

【追記】2015年5月、『アイアン・メイデン 血の伯爵夫人バートリ』の邦題で日本盤DVD出ました。