“Günesi Gördüm (I Saw the Sun)” (2009) Mahsun Kirmizigül
(トルコ盤DVDで鑑賞→amazon.com)
2009年制作のトルコ映画。マフスン・クルムズギュル監督。同年の東京国際映画祭にて『私は太陽を見た』という邦題での上映あり。
長引くクルド紛争によって故郷を追われた村人たちの離散や、引き裂かれていく家族の絆と、トルコという国そのものの姿を重ね合わせながら、スケール感タップリ、アジア的な泣かせどころもタップリに描いた、社会派感動大作。
25年に渡る戦闘で過疎状態にある、クルド地方山間部の村。残っている数少ない数家族は、それでも幸せに暮らしていたものの、戦闘が激化していくにつれ、兄弟同士で軍とゲリラに分かれてしまったり、地雷で片脚を喪ったりといった悲劇が降りかかってくる。
やがて軍とゲリラは大規模衝突を起こし、最後まで村に残っていた家族もついに立ち退くことになる。ある家族はイスタンブールに行って仕事に就くこと選び、別の家族は親戚を頼ってノルウェイに密入国しようとする。
イスタンブールに行った家族は、狭いながらも親戚一同が共に暮らせる家を見つけ、港湾で魚の水揚げの仕事も見つかる。しかし、母親が体調を崩して入院中に、女子続きの末ようやく授かった待望の男子を、年長の子供たちの無垢ゆえの不幸な事故で亡くしてしまう。
その結果、父親は裁判所によって扶養資格なしと判断されてしまい、まだ幼い子供たちは全員孤児院に入れられてしまい、子供を取り上げられた父親は悲嘆にくれつつも、入院中で重体の妻にはそれを打ち明けることができない。
また、この一族にはトランスジェンダー傾向の青年がいて、田舎にいた頃から女性歌手の歌マネなどをしており、彼の兄はそれを苦々しく思っていたのだが、この青年は都会に来て初めて、自分と同様のトランスジェンダー/ゲイの仲間と出会う。
今まで「ゲイ」という言葉すら知らなかった彼は、すぐに「生まれて初めて出会った自分と同じ仲間」と仲良くなるのだが、当然のごとく彼の兄はそれを快く思わず、ついに暴力を振るって弟を家に監禁してしまう。
青年の仲間たちは、このままでいるとアンタは家族に殺されてしまうと、彼を脱出させて自分たちのところに密かに匿うが、青年の兄は、家出した弟を何としても捜し出そうとする。
一方のノルウェイを目指した一家は、密航の手引きをしてくれる怪しげな男を頼り、コンテナに閉じ込められて窒息しそうな思いをしながら、何とか目的の地に辿りつく。
頼りにしていた親戚とも無事に会え、言葉が通じない不自由さがありつつもスーパーでの仕事も見つかり、地雷で片脚を喪った息子の義足も手に入るのだが、やがて当局に不法滞在がばれてしまい……といった内容。
いや、実に堂々としたもの。お見事!
故郷を喪った二つの家族を通じて、トルコの社会が内包する問題ゆえの家族の離散や団結といった物語を、ダイナミックに、力強く、そして感動的に描いています。
映像も素晴らしく、雄大なランドスケープから身の丈サイズの風景まで、しっかりとした撮影と効果的なカメラワークによって、重厚かつ美麗に見せてくれます。
役者さんたちも、いずれも見事。
似たタイプが多くて、慣れないと顔の見分けがつけにくいのが難点なんですが……まぁムサいヒゲモジャのいい男だらけなのは嬉しいんですけど(笑)……オッサンも青年もおっかさんもおじいちゃんも子供たちも、それぞれ実に良い顔&良い演技で、キャラクターの説得力とストーリーの盛り上がりに大いに貢献している感じ。
監督と脚本と主演を兼ねているマフスン・クルムズギュルは、元々はクルド出身のシンガーソングライターで、映画監督としてのキャリアは、これでまだ2本目なんですが、その堂々たる演出手腕は、既に巨匠の風格すら漂っているかのよう。
これを見た後、老人問題を扱った処女長編“Beyaz melek” (2007)を見たんですが、これがまたとても処女作とは思えないなかなかのもの。最近日本盤が出た、テロを描いた第3作『ターゲット・イン・NY』(2010)は、残念ながらこの2作と比べると、ちょっと出来が落ちる感はありますが、それでも部分的には見所が多々ありでした。
さて、予告編では何故かあまりフィーチャーされていないものの、実は件のトランスジェンダーの青年を巡るエピソードが、タイトルとも関連してかなり大きなパーツを占めているのも、個人的には大きな収穫でした。
この要素に関しては、ストーリーとしてはとても辛くて、決して見ていて楽しいものではないんですが、ホモフォビアによる悲劇を描いた、その見応えにズシンとやられました。特に、英語版のポスターにもなっているこのシーンなんか、思い出すだけでも辛くなるんですが、その力強い鮮烈さは忘れがたいものがあります。
また、そういったテーマ部分での見応え以外にも、イスタンブールの男娼やゲイ・クラブといった、日頃あまりお目にかかれない風物が垣間見られたのも良かった。
シリアスなテーマを真摯に扱った内容なので、いささかメッセージ性が露骨に感じられたり、エモーショナルな表現が過剰に感じられるきらいはありますが、社会派的なテーマと娯楽性を両立させた、堂々たる大作としての佇まいや、随所に見られる映像美など、見応えも見る価値もタップリです。
ターゲット・イン・NY [DVD] 価格:¥ 5,040(税込) 発売日:2011-08-05 |