『ブレスト要塞大攻防戦』(Брестская крепость / Brestskaya krepost / Brest Fortress)

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“Брестская крепость (Brestskaya krepost)” (2010) Aleksandr Kott
(ロシア盤DVDで鑑賞、米アマゾンで入手可能→amazon.com、”Fortress of War”のタイトルで英盤DVDあり→amazon.co.uk

 2010年製作のロシア映画。英題”Brest Fortress” a.k.a. “Fortress of War”。
 1941年、ドイツの侵攻を受け、後にソ連から英雄都市の称号を受けた要塞のある街ブレストの、九日間に渡る攻防戦を描いた戦争ドラマ。

 ソ連とポーランド国境の街ブレスト(現在はベラルーシ)では、独ソ戦開戦の噂が流れつつも、要塞に住居する兵士の家族を含めた街の人々は、ダンスに映画に音楽にと楽しい日々を過ごしていた。
 しかしある晩、ソ連軍の軍服を着たドイツ兵たちが、密かに列車で駅に到着する。人々の気付かぬうちに、ドイツ軍は街の水道と電気を断つ。
 翌朝、孤児で軍楽隊の少年兵サーシャが、互いに好き合っている少女アーニャと釣りに出掛けているとき、ドイツ軍の攻撃が始まる。街はあっという間に戦場となり、殺戮の場へと化してしまう。
 ドイツ軍は優勢で、ソ連軍は街の数カ所に分断されてしまう。サーシャは伝令として走りながら、行方不明になったアーニャを探し求め、他の恋人たちや家族にも過酷な運命が襲いかかる。
 それでもソ連軍は果敢に抵抗を試みるが、援軍は断たれ、やがて水も欠乏していき…といった内容。

 いや、とにかく戦闘シーンに圧倒。
 まず、街が戦場ということもあり、爆発し崩れ落ちる建物といったスペクタクルがとにかく凄くて、これおそらく撮影用に街のセットを組んだんでしょうが、とにかくスケール感と迫力がハンパない。そこに、死屍累々、人体破壊容赦なしの、凄惨な戦場描写が襲いかかる。
 導入部の平和時の描写が、雰囲気は長閑だしユーモアもあるし画面も美麗なだけに、そこが残酷な戦場と化したときのコントラストも効果絶大。加えてそこに家族だの恋人だのといった、エモーショナルなヒューマン・ドラマのアレコレが入ってくるもんだから、もうグイグイ引き込まれてしまいます。
 内容が政治的に中立かどうかは、ドイツ軍の立ち位置が完全に悪役であるところとか、ポーランドの視点が欠けているような気がするとか、いささか疑問は残るんですけれど、それにしてもこのドラマとしてのパワーはスゴい。
 キャラクター描写も、それぞれ細かなエピソードを使って上手く立てているので、感情移入もバッチリ。音楽の使い方などに多少の通俗性は感じられるんですが、それらも最終的には良い方向に作用している感じ。
 ただ、スペクタクル・ヒューマン・ドラマとして出来がいい反面、鉛を呑んだような重さには欠けるのが、評価の分かれどころかも。
 いや、重いんですよ。重いしエグいし辛い。でも、同時にヒロイズム的な視点もあるので、描写自体は容赦ないんですけれど、変な言い方ですが「見やすい」映画に仕上がっているという印象。少なくとも内容のわりには、見終わってドヨ〜ンと落ち込んだりとかはなかった。

 ストーリーとしては、歴史の一幕とは言え実に悲惨な内容ですし、残酷描写もふんだんに出てきますが、なにしろドラマ的にパワフルなのと、見応えも見所もいっぱい、そしてまた変な言い方になりますけど、見終わった後に娯楽映画的な「面白かった!」感がちゃんとあるので、モチーフに興味ある方だったら、間違いなく一見の価値ありかと。

【追記】2015年1〜2月の「未体験ゾーンの映画たち2015」で、『ブレスト要塞大攻防戦』の邦題で日本上映、同8月にDVD発売。
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