“Остров (Ostrov)” (2006) Pavel Lungin
(ロシア盤DVDで鑑賞、米アマゾンで入手可能→amazon.com、米盤DVD→amazon.com、英盤DVD→amazon.co.ukもあり)
2006年製作のロシア映画。英題”The Island”。『タクシー・ブルース』、『ラフマニノフ ある愛の調べ』、“Царь (ツァーリ)”のパーヴェル・ルンギン監督作品。
北の孤島にある修道院と、罪を抱えながらも聖人として崇拝されている修道士の姿を通して、人間の罪や赦しとは何かを静かに問う、寓意的な作品。
二次大戦中、石炭運びのタグボートがドイツ船に拿捕され、一人の船員が、殺されたくなければ船長を撃てと強要される。辛うじて生き延びたその船員は、以降40年近く、外界から孤絶した修道院で、ボイラー室に寝起きしながら、釜にくべる石炭を運んで暮らしている。
何故か未来を予知したり、病を治す能力を持つようになった彼は、いつしか聖人と崇められるようになり、その救いを求めて遠方からはるばる修道院を訪れる人も少なくない。修道士の中には、彼を擁護する者も反発する者もいるが、彼自身は自分の抱えている罪の重さに常に苦しんでいる。
そんな彼のことを、真に理解できる者はいない。擁護する者も反発する者も、彼と触れあうことで改めて自身の信仰と直面することになり、奇跡を求めて訪れた人々も、それぞれの内面を問われることになる。
そしてある日、一人の父親が精神を病んだ娘を伴い、聖者による救いと癒しを求めて修道院を訪れるのだが……といった内容。
まず、極上の映像美に圧倒されます。
雪深い北海の孤島の自然を捕らえた、まるで水墨画でも見るかのようなモノクロームに近い、詩情あふれる映像がとにかく素晴らしい。そして、淡々と進む静かな話を控えめに彩る、音楽(Vladimir Martynov)の深みのある美しさで、映像美もまた相乗効果に。
主人公を演じるPyotr Mamonov(同監督の”Царь (ツァーリ)”でイヴァン雷帝を演じて圧倒的だった人)の存在感と演技もマル。滑稽な老人、苦悩する人間、聖者のような風格など、一人のキャラクターの様々な側面を自在に演じ分けることで、セリフも動きも少ないストーリーに、見事なメリハリと緊張感を与えています。
テーマ的には、これは神の実在を前提とし、その前での人間の罪や赦しや信仰とは何かを問うというものなので、非キリスト教文化圏の人間には、いささか敷居が高いです。奇跡は奇跡のままとして描かれ、合理的な説明がなされたりはしない。
しかしそれらを踏まえて見れば、深く静かな感動が訪れます。
全編に渡ってストーリーは、俗世と隔絶した孤島のドラマとして描かれ、ソヴィエト体制下での宗教弾圧等の話は出てきません。鑑賞前は、ひょっとしたらソロヴェツキー修道院の悲劇なんかと似た展開もあるのかと想像していましたが、そういった要素は皆無でした。
というわけで、おそらくこれは寓意的な内容だと思った次第。
宗教色が濃い内容なので、見る人を選ぶタイプの映画だとは思いますが、淡々としつつユーモラスな描写もあり、ストーリー自体のドラマチックな仕掛けもあり、それに何と言っても前述したように、その詩情溢れる映像美だけでも素晴らしい一本。
信仰について、特にロシア正教におけるそれに興味のある方にオススメです。
Vladimir Martynovによる、美しく叙情的で、ちょっと感傷的なテーマ曲。