“Bruc. La llegenda (Legend of the Soldier)”

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“Bruc. La llegenda” (2010) Daniel Benmayor
(イギリス盤DVDで鑑賞→amazon.co.uk

 2010年製作のスペイン映画。スペイン独立戦争、モンセラート山麓の戦いでナポレオン軍に大敗を喫させた《Brucの太鼓》伝説を題材にしたアクション・アドベンチャー史劇。
 英DVD題”Legend of the Soldier”、インターナショナル・タイトル”Bruc, the Manhunt”。

 1808年、スペイン独立戦争、モンセラート山麓Brucの戦いで、ナポレオン軍は数的に優勢であったにも関わらず、「何百ものスペイン義勇兵と悪魔の仕業のような音」によって全滅した。しかし、戦いの後に戦場を訪れたフランス人の隊長は、その証言に疑問を抱き、それは太鼓の音が山に反響したのではないかと推理する。
 その推理は正しく、件の鼓手の正体はある村の炭焼きの息子で、今では村の皆からBrucとあだ名され英雄視されていた。しかし、本人はそれを居心地悪く思っており、更に悪いことには、村を訪れた仏人ジャーナリストが彼の絵を描いたことによって、その存在と居場所が仏軍の知る所となる。
 仏人隊長はナポレオンから、フランスの不敗を全欧に示すためにも、件の鼓手の首を切って持ってくるよう命を受け、手練れの部下数名と共に鼓手の捜索に向かう。そしてある晩、鼓手が恋人と逢い引きしている間に、彼の家は暗殺部隊に襲われ、家族が皆殺しにされる。
 鼓手は辛うじて山に逃げるが、部隊は家々を爆破し、村人たちを脅し、鼓手の恋人を見つけ出すと、彼女を人質にして山狩りを始める。最初は逃げ回っていた鼓手だったが、フランス人たちが聖職者も見境無く殺し、恋人の身体も傷つけるに至って、ついに反撃に出てモンセラート山で彼らと対決する……といった内容。

 題材となった《Brucの太鼓》というのは、「一人の鼓手が打ち鳴らす太鼓がモンセラート山に反響し、仏軍がそれを数百の軍勢のように錯覚して遁走した」という伝説らしく、それを「実際はこれこれこうでした」と膨らませて描いた内容で、映画全体の印象は、肩の凝らないアクション・アドベンチャーという感じ。
 ストーリー的には、戦う青年の成長を軸にして、近親者の悲劇、きれいな娘さんとのロマンス、そして追い詰められる主人公が遂に逆襲に転じるカタルシス……と、いかにも古典的な冒険小説のような味わいです。そこにもう一つ、Brucの戦いの真相がどうであったのか、それが、小出しにされる主人公の回想通じて、その実際が明らかになっていく……という要素もあるんですが、これはさほど成功していない感じ。
 主な舞台となるモンセラート山は、現在では奇岩で知られる観光名所ですが、その風景を存分に生かした、上下にたっぷり拡がりのある映像の数々は、大いに魅力的。
 やはり観光名所であるモンセラート修道院も、有名な黒い聖母像も出てきたりして、私自身、ここいらへは観光で行ったことがあるせいもあって、そんな中で繰り広げられる追跡劇は、かなり楽しめました。撮影もなかなか美麗で、程々にケレン味もあって佳良です。

 ただ、肝心の演出がいささか凡庸。
 追い詰められていく主人公という要素が、物語的には描かれているんですが、それが心理的に迫ってくるまでには至らず。けっこうサスペンスフルなシーンとかもあるんですが、イマイチ緊張感に欠ける感じ。また親兄弟や恋人といった主人公回りのドラマも、通り一遍のクリシェをなぞっただけという程度。
 逆に、本来ならば《悪役》側のはずの追跡者たち各々に、判りやすい絶対悪では終わらせないような描写を、あれこれと付加しようとする姿勢が見られるんですが、これが却って、全体のシンプルな構造と齟齬をきたしてしまい、感情移入やドラマのエモーショナルな盛り上がりを、邪魔してしまっているきらいがあります。
 そこいらへんのバランスがちょっと悪く、どうせなら全体をクリシェで固めてしまって、古典的な痛快娯楽作にしてしまった方が良かったような気もして、何となく虻蜂取らずになってしまっているのが残念でした。

 ただ、それぞれの役者の佇まいなどは佳良です。
 主人公を演じるファン・ホセ・バジェスタは、ちょい泣き虫顔のナイーブそうな若者で、上手い具合に雰囲気がキャラと合っている感じ。恋人役のアストリッド・ベルジュ=フリスベも、文句なしのカワイコちゃん。
 追跡者側は、一同を率いるフランス人隊長役にヴァンサン・ペレーズ。目力で狼を追い払うなんて面白シーンもあり。部下の一人、口のきけないマッチョに格闘家のジェロム・レ・バンナ。肉体美を見せるシーンも、しっかりあります(笑)。隊長の腹心であるアラブ人に、『ヴィドック』で主人公の相棒ニミエ役だったムサ・マースクリ。
 他の部下も、隻眼だったり二枚目の騎士風だったりと、キャラは劇画的に立っていてなかなか楽しいです。だからこそ尚更、イマイチ痛快娯楽作になっていないのが残念な感じがしてしまう。

 とはいえ、アクション・シーンのアレコレとか、風景の素晴らしさとか、お楽しみどころもあちこちありますし、尺も1時間半足らずとコンパクトなので、題材に興味のある方やスペイン好きの方だったら、気楽にそこそこお楽しみいただけるのでは。