“Yamada: Way of the Samurai (ซามูไร อโยธยา)”

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“Yamada: Way of the Samurai” (2010) Nopporn Watin
(イギリス盤DVDで鑑賞→amazon.co.uk、”Muay Thai Warrior”のタイトルで米盤DVD&Blu-rayあり→amazon.com

 2010年制作のタイ映画。山田長政を主人公にしたフィクショナルな時代アクション映画。
 主演はタイで活躍する日本人男優、大関正義。タイ語原題”ซามูไร อโยธยา”、別題”Yamada: The Samurai of Ayothaya”等。

 ナレスワン大王治世下のアユタヤ王朝。未だ敵国ホンサワディー(ビルマ)の脅威衰えぬ中、アユタヤ日本人町の侍、山田長政は、アユタヤで敵国の手先となって暗躍する者の中に日本人がいるらしく、その頭目を突き止めろとの命を受ける。
 しかしその直後、忍者たちの襲撃を受けた長政一行は、その黒幕が身内の日本人重臣だと知る。仲間は皆殺されるが、長政は一人、通りがかったタイ人の衛兵たちに救われ、彼らの元で治療を受ける。
 命を救われた恩義もあり、長政は次第に彼らに親しみを覚えるようになる。しかし自分の正体を知られた黒幕は、唯一の生き証人である長政に刺客を差し向ける。長政はそれを撃退るが、タイ人衛兵たちは、彼が同じ日本人から命を狙われていると知り、不信感を覚える。しかし、衛兵たちの師である僧侶は、「人には他人に言えない秘密もあるものだ」と、彼らの猜疑心を諫める。
 一方で長政は、自分の日本古武道でタイ人衛兵たちに試合を挑むが、彼らのムエタイに手もなく打ちのめされてしまう。長政は、件の僧侶にムエタイの伝授を頼み、最初はそれを拒んだ僧侶も、長政の「自分は日本生まれだが、アユタヤで死にたい」という決意を聞き、彼にムエタイを教えることにする。
 やがて長政のムエタイは上達し、タイ人衛兵の一人とも親友になり、ついにはナレスワン大王の近衛兵を選抜するトーナメントにも出るようになる。しかしその一方で、ホンサワディー軍はアユタヤ侵攻を計画しており、また、依然自由の身のままの例の黒幕も、長政の命を狙い続けていて……といった内容。

 え〜、ぶっちゃけ、山田長政とナレスワン大王が同時代に出てくるという点から言っても、史実的には全く則しておらず、完全なフィクション作品です。
 映画全体のテイストも、いわゆる史劇ではなく完全に娯楽アクション映画。昔のソード&サンダル映画のノリに近いです。
 で、私はこれ、好きです。
 何でも衛兵たちは本物のムエタイ選手たちだそうで、訓練にしろ戦闘にしろ、アクションシーンの見応えはバッチリで、話も、愛国心とか友情とかコッテコテのオトコノコ系で、同時に日タイ友好に関する目配せもしっかりあって、しかも基本的に、全編半裸のアジアン・マッチョしか出てこない(笑)。
 200人の敵を10人で迎え撃つなんて燃え系展開もあれば、宴会なんかで歌舞シーンが入ったり、キレイどころとの仄かなロマンスがあったり、おませな少女キャラによる箸休めがあったり……と、内容的には往年のソード&サンダル系娯楽映画を彷彿させるサービス具合。エピソード構成なんかも、古式ゆかしき大衆娯楽活劇映画のクリシェに則ったという感じで、基本的にそういうのが好きな私なんかは、ちょっと嬉しくなっちゃうくらい。一方、それが古くさいと感じてしまう方もおられそうではありますけど。

 アクションの演出も、血飛沫こそCGですけど、基本はエフェクトで誤魔化したりしない正当派。その肉体をフルに使った立ち回りだけでも、なかなかの充実感&見応えでした。無双の戦士たちが返り血で真っ赤になって、スゴい形相で相手をバッタバッタ斃していく様は、カッコいいと同時に、何だか戦いというより「Massacre!」って感じもして、見ていて敵が気の毒になってくるくらい(笑)。
 日タイ友好という点でも、例えば僧侶が長政にムエタイを伝授するくだりで、「ムエタイの真髄は、手・肘・足・膝といったものを武器として用いる《攻め》にあるが、日本古武道の真髄は、相手の力を受けつつ、それを利用して攻撃に転ずるところにある。よって、もしそれらの異なる二つを共に習得し、それを合体させれば、そなたは無双の武術を身につけることになる」と説いたり、また、長政が友となったタイ人衛兵に、日本刀の柄をアユタヤの木工細工に変えた得物を送り、それをイコール、彼らの理想とする生き様に重ねて見せるなどといった形で描いていて、これもクリシェ通りながらも上手く表現しているなという感じ。
 また、生まれや国は違っても、どこの土地に骨を埋めるか、何を愛して何を守るか、それさえ同じならば同士であるといった部分も、男泣き系の燃え要素としては、けっこうグッとくる部分。
 で、ちょっと面白かったのが、《見かけや出自が違っても同じ人間》ということを表現する場合、我々の感覚だと《肌の色は違えども血の色は同じ》というのがあると思うんですが、タイだとどうもそうではないらしいということ。映画の中で長政は、タイの少女から「白い顔」などと呼ばれ、日焼けによる肌の色の違いという意識があるようなんですが、更に《血の色は違っていても》という言葉が頻繁に出てくる。まぁ、英語字幕の翻訳に因るのかもしれませんが、この《出自の違い=血の色が違う》というのは、ちょっと日本人にはない感覚ではないか……なんて思ったり。

 主演の大関正義氏は、顔はちょっと冴えないかな〜という気もしますが(すいません)身体は立派。あとナレスワン大王役が、個人的にご贔屓のウィナイ・クライブットだったのが嬉しいサプライズ。まぁ、特別出演的な感じで、さほど登場シーンもありませんでしたが……。
 因みに師となる僧侶役も、『ナレスワン大王(ザ・キング 序章・アユタヤの若き英雄、アユタヤの勝利と栄光)』や『マッハ!弐』の僧侶(後者は未見ですが)や、『ランカスカ海戦 パイレーツ・ウォー』のお師匠さん役とか、『ビューティフル・ボーイ』や『スリヨータイ』にも出ていた、ホントしょっちゅうお見かけする(そしていつもお師匠様的ポジションの)のソラポン・チャトリ。

 正直スケール感はあまり……というか全くない映画なんですが(基本的にアクションがメインで、大規模な合戦シーンなどは皆無)、全体のテイストが完全にコスチューム・アクション映画に統一されているので、それがさほどマイナス要素にはなっていない。ただ、ウチの相棒は「ちょっと安っぽくてイマイチ」と評価。
 個人的な好みとしては、もうちょっとキャラクターを掘り下げるための生活描写などのディテールが欲しかった気はしますが、これはDVD特典の未公開シーンを見たところ、実は長政とヒロイン、おしゃまな少女、子供たちなどによる、ユーモラスかつハートウォーミングなシーンあれこれが、撮影はされていたのに最終的にはカットされてしまったんですな。おそらくテンポ重視で中だるみを避けたんだと思いますが。
 結果、尺も全部で1時間半弱とスピーディな展開ですし、気楽に見られるアクション映画としては充分佳良だと思います。

 まぁ、ぶっちゃけた話、内容的には山田長政である必要は全くなく(What if的な楽しみ方は全くできず)、むしろタイに骨を埋めた無名のサムライの話にした方が、全体の収まりは良くなるのではないかとは思うんですけれど、コスチューム・アクション好きな方なら、お楽しみどころもいろいろありだと思います。
 どっか買い付けて、DVDスルーでいいから日本盤出してくれないかしら……。