“Kto nigdy nie żył…” (2006) Andrzej Seweryn
(ポーランド盤DVDで鑑賞、米アマゾンで入手可能→amazon.com
2006年制作のポーランド映画。英題”Who Never Lived”。
自分がHIV+だと知った若いカソリックの神父と、その周囲の人々の織りなす様々な人間模様を描いたヒューマン・ドラマ。主演はご贔屓ミハウ・ジェブロフスキー。
若きヤン神父は、ワルシャワで麻薬中毒の若者たちをサポートしており、彼らからも慕われている。しかし今日もまた一人の若者がオーバードーズで死に、葬式の場で露わになった世代間の断絶に、彼は怒りを含んだ説教をする。
そんなある日、彼は教会の上層部から、現在の任を離れてローマへ行くよう命令される。自分が世話をしているジャンキーたちのことを、教会が日頃から快く思っていないことを知っている彼は、その命令を拒否するために、枢機卿に掛け合おうとする。
しかしその最中、ヤン神父は健康診断の結果HIV+だと告げられる。彼は思い悩んだ末に、母親にそれを打ち明けるが、保守的なカトリック信者である母親は、息子の病気を労るどころか、逆に非難する。彼は治療と祈りの生活のために、ワルシャワから遠く離れた田舎の修道院に入る。
修道院で農作物を作りながら、静かな生活を送り始めたヤン神父だったが、そこでもHIVに対する偏見は根強く、シャワー室で一緒になった修道士は逃げだし、彼の育てた作物は村に出荷されることがなかった。そしてついに彼は、希望と信仰を失い、独り修道院を出てしまう。
雨の夜道、ヤン神父は通りがかった車と接触事故を起こしそうになり、運転していた3人の若者と、そのまま行動を共にするようになる。彼らはこれから、人気歌手のコンサートに行く途中だったが、その歌手とは、ヤン神父がかつてサポートしていた麻薬中毒者の兄であり、旧知の間柄だった。
若者たちはそんな事情を知らないまま、しかも中の一人の女性は、次第に彼に惹かれていくのだが……といった内容。
まず、HIV+になった聖職者という、テーマ自体が意欲的。
作品としては、社会派的な重く考えさせられるものというよりは、HIV+の神父というファクターを通じて、人間の生きる意味ということを宗教的要素と絡めながら、ポジティブなメッセージ的に観客に伝えようといった感触。
HIVの扱いに関しては、いわゆる難病もの的に煽るわけではなく、またそこから病気以上の余計な付加要素を見いだしたがる風潮に対しても、はっきり否とという態度を示しつつ、それと共にどう生きるかということを焦点にした、ある種の啓蒙映画的なニュアンスが見られます。
その反面、こうあるべし、こうあって欲しいといった形に、ストーリー的な決着を迎えるので、ハートウォーミングで後味も良いものの、いささか甘さが感じられるのは否めない。作劇的にも、主人公個人のドラマとしては佳良なんですが、後半のエピソードの組み方などには、伝えたいテーマのためにストーリーを《作り》すぎてしまったという感じの、ちょっとご都合主義的な部分も散見されます。
映像は佳良。
前半のワルシャワを舞台にしたパートは寒色系、中盤の修道院では暖色系、後半のロードムービー的な部分ではニュートラルな色調と、全体が良く計算されており撮影も美麗。特に修道院パートの美しさが良く、それが逆に、何かの拍子で露呈する病気への偏見を引き立てる効果に。
主人公ヤン神父を演じるミハウ・ジェブロフスキーは、贔屓目をさっ引いても見事な出来。前述したように映画として好感が持てる反面、いささか甘さや食い足りなさがある内容を、その演技でしっかり保たせている感。特に修道院に入って以降の、毛もじゃヒゲもじゃが良い……ってのは、単に私の好みですけど(笑)。
もう一つ、主人公の友人で人気歌手でもあるRobert Janowskiという、おそらく実際にも音楽スターらしい人が出演していて、映画自体のテーマをこの人の歌の歌詞に託している部分があるんですが、この部分が前述したように、メッセージ性としては効果的な反面、ドラマとしては甘さになっている感があります。
総合的には、主人公の内面を軸にした部分は文句なしで、青春群像劇的な要素は、魅力的ではあるけれどちょっと半端、しかし志とクオリティは高し……って感じでした。
信仰という要素が密接に絡んでくる(タイトルにもある『人が生きる意味とは』というテーマが、キリスト教的な背景思想に基づいたそれなので)のは、ちょっと日本人には敷居が高いですが、決して悪くない作品だと思います。
若干の食い足りなさがあるのは否めませんが、重いテーマならではの悲痛だったり感動的だったりする場面をあれこれ挟みつつ(出荷されなかった自分の育てた作物に、ヤン神父が自ら火を放つシーンなんか、ちょっと泣きそうになりました……)、最終的には明らかなメッセージ性を持たせた、青春映画的な爽やかさすら感じるエンディングへ持っていった佳品。
予告編が見つからなかったので、映画の名場面を繋いだファンメイドのクリップを。音楽は映画で使われているのとは異なりますが、作品の雰囲気は良く掴んでいるかと。