『ジュデックス』+”Nuits Rouges”

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『ジュデックス』(1965)ジョルジュ・フランジュ
“Judex” (1965) Georges Franju
(イギリス盤DVDで鑑賞→amazon.co.uk

 1963年製作のフランス映画。監督は『顔のない眼』のジョルジュ・フランジュ。
 1910年代にルイ・フイヤード監督が撮ったサイレント活劇映画へのオマージュとして、謎の覆面義賊団と女盗賊一味の闘いを描いた映画。

 銀行創立20周年と娘ジャクリーヌの再婚を祝う舞踏会を控えた悪徳銀行家ファブローの元に、ラテン語で《裁き》を意味する「ジュデックス」の署名と共に、「これまでの罪を償うために財産を人々に返還せよ、さもなくば舞踏会の日の深夜に命を奪う」という内容の脅迫状が届く。
 ファブローは探偵を雇うが、自分は相変わらず罪業をなじりに来た老人を車ではねる等の悪行を繰り返し、更には孫娘の家庭教師マリーに結婚を迫る。ジュデックスの手がかりは何も掴めないまま、いよいよ祝賀仮面舞踏会が開かれるが、会場に鳥の仮面を付けた謎の手品師が現れる。
 そして時計が十二時を打った瞬間、ジュデックスの警告通りファブローは息絶え、手品師はひっそりと会場を後にする。父の死後、ジャクリーヌは父のしてきた悪行を知って家屋敷や財産を処分することにし、婚約者も彼女から去る。しかし家庭教師のマリーは、恋人と共にファブローの財産を狙っていた。
 そんな中、数人の覆面男たちが、ファブローの遺体を墓地から盗み出す。実はファブローは仮死状態にされていただけで、そのままジュデックスの秘密基地に幽閉され、「お前は死刑の予定だったが、娘さんの行いで救われ、終身刑に変更する」という宣告を受ける。
 一方、マリーと恋人は、夜中にファブローの屋敷に忍び込むが、それをジャクリーヌに見られてしまう。マリーたちは、ジャクリーヌを眠らせて連れ去ろうとするが、ジュデックスがそれを助ける。ジャクリーヌが目覚めたとき、その傍らには鳩の入った鳥籠と、「何かあったら、すぐにこの鳩を放ちなさい、私が助けに行きます」というジュデックスからの手紙が残されていた。
 やがて、ファブローが生きていることを知ったマリーたちは、まず彼を助けて財産を奪おうと企み、その前に口封じのためにジャクリーヌを殺そうとうるが……といった内容。

 なるほどサイレント時代の活劇映画へのオマージュらしく、まさに《奇想天外》という言葉が相応しいストーリー。
 意外であればあるほど良しといった感じで、リアリティも伏線もへったくれもない展開に偶然に偶然が重なって、まあ何とも楽しく転がっていきます。登場人物や道具立ても、つば広帽に覆面黒マントのハンサム義賊、黒い全身タイツに身を包んだ変装が得意な女盗賊、マヌケな探偵と冒険好きの少年、曲馬団の美少女軽業師、廃墟となった古城の地下にある秘密基地、電気仕掛けの様々な空想科学系不思議小道具……といった感じで、レトロ風味がいっぱい。
 モノクロ映像は美しく、活劇ながらも所々にハッとするような詩的なイメージも。映画はアイリス・インで始まり、エピソードの合間合間には、中間字幕調の装飾的な章題が置かれ、いかにも無声映画へのオマージュという雰囲気はタップリ。監督自身による、自分が幼少期に見た映画の想い出の再現といった感じもあり。
 サイレントの活劇映画っぽい強引な作劇は、思わず笑っちゃうところもあったりして、個人的には(ちょっとネタバレ気味なので白文字で)「敵と取っ組み合っていたら、相手の指輪で生き別れになっていた実の息子だと判る」と「壁を昇りあぐねていると、偶然そこに曲馬団の馬車が通り知り合いの軽業師が乗っている」の二つが大爆笑でした(笑)。

 キャストは、私の知っているところでは、ジャクリーヌにエディット・スコブ、軽業師の美少女にシルヴァ・コシナ。
 音楽は『顔のない眼』同様モーリス・ジャールで、これまたステキな曲を聴かせてくれます。特に仮面舞踏会のシーンは、音楽の良さと画面のファンタジックさが相まって忘れがたい出来。
 そんなこんなで、レトロ好きならタップリ楽しめる一本ですが、前述のように作劇やキャラクターも含めて、意図的にアナクロに徹しているので、レトロ趣味がない方には敷居が高いでしょう。
 しかしこうやって見ると、オマージュ元のルイ・フイヤードの映画も見てみたくなるなぁ……DVD出たけどスルーしてた『レ・ヴァンピール 吸血ギャング団』見てみようかしらん。

『ジュデックス』から、ファンタジックな美しさが忘れがたい仮面舞踏会のシーン。

“Nuits Rouges” (1974) Georges Franju
『ジュデックス』と同じく、ジョルジュ・フランジュ監督がクラシック活劇映画へのオマージュとして撮った1974年度作品。
 こちらはカラーで、元々はTVシリーズだったものを、再編集して長編映画に仕上げたものらしいです。

 とある学者の執事が金に困り、主がテンプル騎士団の財宝の握っていると、情報屋にたれ込む。その情報は、地下基地に潜む紅い覆面の男を頭とした覆面ギャング団一味に伝わり、学者はギャングに襲われ口を割らないまま殺されてしまう。
 警察が捜査に乗り出した頃、学者の甥で船乗りの青年が帰還する。しかし直後に本物の甥が現れ、先に現れたのは偽者だと判明する。偽者の手引きをしたことで執事は警察に拘束されるが、何も自白しないまま、ギャング団のマッドサイエンティストによってゾンビ化された刺客に殺されてしまう。
 甥は警察とは別個に、ガールフレンドと、彼女の友人で詩人かつ探偵の男と共に、3人で事件の謎を探り始める。それを知ったギャング団のボスの右腕で、キャットスーツに身を包んだ美女の殺し屋は、ガールフレンドを誘拐しようと計画するのだが…といった内容。

 奇想天外というかシッチャカメッチャカというか、これまた何とも奇天烈なストーリー。
 隠し扉だの地下基地だのゾンビ化手術だの彫像の中に潜む悪漢だの、次から次へと繰り出されるガジェットや仕掛けは実に楽しく、クライマックスはギャング団とテンプル騎士団の銃撃戦というブッ飛び具合。
 ただ『ジュデックス」とは異なり、手法的にはっきりとサイレント活劇へのオマージュを打ち出しているわけではなく(せいぜいアイリス・インが多用されるくらい)、時代設定も制作当時の《現代》なので、レトロ活劇の魅力というよりは、単に古臭くてユルい活劇映画に見えてしまう感もあり。
 また、キャラクターや役者にあまり魅力がないのも、『ジュデックス』と比べて痛いところ。美人殺し屋のゲイル・ハニカットは、峰不二子みたいでなかなかヨロシイんですが、肝心のヒーロー(甥っ子)やヒロイン(ガールフレンド)に魅力がなく、影も薄いのが何とも残念。
 とはいえ、その女殺し屋がキャットスーツ&覆面で、夜の屋根の上で暗躍するシーンや、主人公と探偵が、マネキンに化けていたゾンビ軍団に襲われるシーンや、赤覆面のボスが、バイクで下水道(?)を逃走するシーンなどに、ちらほら魅力的な映像もあり。
 まあ全体のノリはユルいんですが、テンポそのものは決して悪くなく話もサクサク進みますし、DVDも『ジュデックス』のオマケみたいにしてついてきたものなので(英盤で『ジュデックス』『Nuits Rouges』の二枚組)、レトロ好きなら軽いノリで楽しめると思います。

 ”Nuits Rouges”から、覆面&キャットスーツの美人殺し屋と警察が、夜のパリの屋根の上でまったり対決するシーンのクリップ。

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発売日:2008-11-29