“Mynaa”

dvd_Mynaa
“Mynaa” (2011) Prabu Solomon
(イギリス盤DVDで鑑賞→Ayngaran

 2010年製作のインド/タミル映画。南インド山間部の農村を舞台に、幼馴染みの男女の一途な恋と、そこに立ちはだかる様々な障害を描いた内容。タイトルの意味はヒロインの名前。
 インドの映画賞の1つ、フィルムフェア賞のタミル語映画部門で、最優秀作品賞を受賞。

 主人公は、山岳地帯の農村に住む少年……というか悪たれ小僧。しかしある日、家を失って途方にくれる母娘に出会い、住む場所を世話して以来、何くれとなく娘の面倒を見るようになる。少年と少女はすぐに仲良くなり、互いのことを思いやりながら、すくすくと成長していく。
 やがて成長して青年になった主人公は、これまた年頃になった娘との結婚を望み、娘もその気持ちに応え、周囲もそれを了解しているように見えたのだが、娘の母親は貧しい主人公ではなく、別の金持ちの男と娘を結婚させようとする。
 それを知った主人公は、思わず娘の母親に暴力を振るってしまい、その結果、町の留置所に入れられてしまう。拘留期間は短いものだったが、残すところあと1日というところで、田舎から、娘の母親が主人公が拘留されている間に、娘を別の男と結婚させようとしているとの報せが入る。それを聞いた主人公は、脱獄して娘の元へと向かう。
 折しもその日は祭りの日で、警察官たちもそれぞれ家族サービスの予定があったのだが、責任問題が問われることもあって、警察署長は部下を連れて主人公を連れ戻すべく後を追うのだが……といった内容。

 田舎の瑞々しい風景をバックに、主人公と娘の一途な愛が育まれていく様子や、娘が結婚させられてしまう前に、主人公が彼女を取り戻せるか…という話は前半で終了。後半は、主人公と娘と警官たちの、トラブル続きの道中を描きながら、それぞれの心理ドラマを描いていくことにフォーカスが移ります。
 そんな前半は満点、後半もなかなか、しかしラストが……という、何とも惜しい一本。
 作風は、例によってタミル映画のニューウェーブ的な、等身大の人間のドラマを身の丈視線で、リアリズム重視で描いていくというもの。
 とはいえ、インド映画のクリシェに対してそれほど禁欲的ではなく、ミュージカル場面もあれば、本筋とは関係のないお笑い場面も多々あり。音楽シーンは全般的に、いきなり海外ロケになったりゴージャスな衣装になったりとかじゃなくても、身の丈サイズで美もロマンティックも立派に表現できるという感じで、好感度大。
 更に後半になると、脱輪して崖から落ちそうになったバスからの脱出なんていう、クリフハンガー・サスペンスもあったりして、けっこう盛り沢山感あり。ストーリー自体は、ありがちなシンプルなものですが、細々したエピソードを使って、いろいろ盛り上がりを作っていく感じ。

 主人公とヒロインの恋模様については、これは大いに魅力的。誤解やすれ違いでドラマを作るのではなく、少女の初潮といったリアルなエピソードや、主人公の愚直なまでの一途さの魅力で見せていき、それが美しい農村の風景とも相まって、見ていてなんとも清々しい気分になります。
 後半のロードムービー的な展開も、作劇としてはちょっと難があり、山場とブレイクを交互に並べていくだけで、それらがリンクしていく魅力には欠けるんですが、まあ盛り沢山ではあるし、件のクリフハンガーのハラハラ具合なんかもなかかで、主眼となる心情の推移も良く描けています。

 ただ如何せんクライマックスが……。
 例によってアンチ予定調和という感じの急展開となるんですが、強引で予定調和的なハッピーエンドに反旗を翻した結果、何でもかんでもバッドエンドという、これまた1つの予定調和になってしまっては、それはリアリズムとは言えないだろう……という感じ。
 一緒に見ていた相棒も「……なんかこんなの、前にも見なかった?」と言っていましたが、こういうのを何本か見ていると、このタミル映画のニューウェーブというものも、既に当初の意味を喪ってしまった、スタイルの一種という形骸になってしまっているのかな……なんて、ちと疑問も覚えたり。
 この結末ありきなら、主人公とヒロインの話はあくまでサイド・エピソードに留め、警察署長をメインにドラマを組まないと、どうしても展開の意外さだけを狙った唐突な印象や、何でもかんでもバッドエンドにすりゃいいんかい、ってな違和感が出てしまう。

 魅力的な部分が多々あるだけに(主人公とヒロインのディテール豊かなアレコレはホント良かった)、こういった根本的な部分での感覚の雑さが出てしまったのが、何とも惜しい感じでした。