“Deiva Thirumagal (God’s Own Child / 神さまがくれた娘)”

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“Deiva Thirumagal” (2011) A. L. Vijay
(イギリス盤DVDで鑑賞→Ayngaran
 2011年製作のインド/タミル映画。知的障害の父親とその幼い娘の絆を描いたヒューマン感動作。
 主演はヴィクラム、監督は“Madrasapattinam”のA・L・ヴィジャイ。
 2012年、第7回大阪アジアン映画祭で『神様がくれた娘』の邦題で上映あり、グランプリ&ABC賞を受賞。

 チェンナイの街に知的障害がある男が現れる。彼は《ニーラ(月)》を探しており、彼の純粋さに心打たれたスリは「探し物なら警察だ」と教える。しかし彼が意味不明のことばかり喋るので、警察にもその意図が良く判らず、そうこうするうちに他の犯罪者たちと共に裁判所へと送られる。
 裁判所では若手の弁護士が、報酬目当てで彼に営業をかけるが、彼が知的障害者だということを知ると邪険にする。しかし彼を追い払うためについた嘘がもとで、彼が身体を壊して病院に運ばれたのを契機に、弁護士は責任を感じ彼の身元と目的を調べることにする。
 調査の結果、彼が田舎のチョコレート工場で働いていた判る。ある日彼に娘が授かるが、母親は産褥で亡くなってしまう。彼は良いパパになるために頑張り、周囲の村人や同じ工場で働く障害者仲間にも助けられ、ニーラと名付けられた娘は元気に成長する。
 父と娘は互いに深く愛し合い、共に楽しく暮らしていたが、ある日、亡くなった母の実父が孫娘の存在を知る。彼は家を出たきり行方不明だった娘の代わりに、知的障害の父親から孫娘を取り上げようとし、そして舞台は法廷へと移るのだが……といった内容。

 もう、思いっきり泣かせる感動作なんですが、プロット的には、米映画『アイ・アム・サム』に多くを負っているらしいです。私は、そっちは未見なのでどの程度の差異があるかは良く判りませんが、インド本国でもその類似に対する批判があったらしいです。
 A・L・ヴィジャイ監督は前作”Madrasapattinam”でも、極めて美麗かつ洗練された映像表現を見せてくれましたが、本作も文句なしに美麗。田園風景の美しさ、素朴な生活の詩情、SFXも含めたスケール感のある映像……などなど、絵的にたっぷり楽しませてくれます。
 洗練された味わいの演出も健在で、あちこち挟まる泣かせどころの見せ方もバッチリ。泣きや感動が、シチュエーション的には思いっきりエモーショナルなんですが、表現自体にトゥーマッチな過剰さがないのもマル。ラストの方なんか、隣で一緒に見ていた相棒は、もうボロボロ泣いていました。
 前述したオリジナリティ云々はともかくとして、父娘の深い愛の絆による感動という部分は、もう文句なしのハイクオリティ。
 インド映画らしく、泣かせと並行してお笑い要素もアレコレ挟まるんですけど、わりとクスクス笑わせるユーモア描写といった感で、さほど白けたり本筋の邪魔になったりもしないのは、インド映画慣れしていない人でも見やすいのでは。後半の法廷劇が、緊張感や駆け引き自体の面白さよりも、ユーモアとイメージ映像でいっちゃうあたりは、いかにもインド映画的という感じもしますが、それもまた楽し(笑)。
 歌と踊りもバッチリあって(踊りは控えめですが)、実景主体のミュージカル系、空想特撮系、MTV風系……と、バリエーションも様々。
 とはいえやはり最大の見所は、父娘の愛を描いたドラマ部分の良さと感動であり、二人の配役もパーフェクト。
 父親役のヴィクラムの、オーバーアクト寸前で踏みとどまっている巧みな演技と、ニーラ役の少女の文句なしの愛らしさが、なおさら感動に拍車をかけて泣かせるという効果に。

 インド映画云々に限らず、悲しさじゃなくて感動(と切なさ)で泣きたい方には、サンジャイ・リーラ・バンサーリ監督の”Black”なんかと並んで、おすすめしたい一本。

【追記】『神さまがくれた娘』の邦題で、2014年2月15日から目出度く一般公開。公式サイト