“72. Koğuş”

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“72. Koğuş” (2011) Murat Saraçoglu
(トルコ盤DVDで鑑賞、米アマゾンで購入可能→amazon.com

 2011年製作のトルコ映画。1940年代のトルコの監獄を舞台に、人間の尊厳について描いた内容で、同国の文豪だというオルハン・ケマルの小説『第72監房』(未読)の2度目の映画化だそうです。

 1940年代のトルコの監獄。
 囚人たちは食費等を自ら賄わねばならず、金のない囚人たちは飢えと寒さに震え、看守の投げ与える鶏の骨すら争って奪い合っている。そんな中、《キャプテン》と呼ばれる中年の囚人だけは、その争いに加わらず人としての誇りを守っている。
 そんなキャプテンの元に、ある日母親から150リラの金が届く。キャプテンはそれで同房の仲間に食事や衣服を買い与え、仲間たちも、ある者は感謝し、ある者は媚びへつらい、またある者はキャプテンをギャンブルに巻き込もうとする。
 そんな中、ファティマという女囚が他の監獄から移送され、その姿を垣間見たキャプテンは恋に落ちる。
 女囚たちは、男囚の衣服を洗うことで現金を得ており、自分を目に掛けてくれる男を取り合ったり、同房内での弱い者いじめなども横行しているが、ファティマはそういったことには関わり合いにならない。
 キャプテンは洗濯物を仲介する男に、ファティマに自分の思いを伝えてくれと、金を渡して頼む。やがてファティマから返事の恋文が届き、キャプテンは有頂天になるのだが、実はそれは仲介役の男が偽造したもので、キャプテンの思いはファティマには全く届いていなかった。
 仲介役がキャプテンを騙し、その持ち金をどんどん巻き上げていく一方、同房の男も、ファティマが金に困っていると嘘をつき、彼をギャンブルに誘うことに成功する。ツキもあって勝ち続けたキャプテンは、出所後にファティマと結婚して共に住む家を買おうと、ますますギャンブルにのめり込んでいく。
 一方のファティマは、同房の妊婦や聾唖の娘といった弱い者を庇いながら、しつこい男の誘いも拒み続けているのだが、ある晩、彼女の高潔さを快く思わない女たちに陥れられて、彼女に言い寄っていた老人に強姦されてしまい……といった内容。

 いや、これはキツい内容だった……。
 監獄という狭い空間を人間社会の縮図に見立てて、金銭や暴力によるヒエラルキー、それから生まれる支配/被支配の関係、飢えや金で歪められていく人間性、無実の者が死刑に処される理不尽さなどが、次々と抉りだされていきます。
 ストーリー的にも、ほんの僅かに救いはあるものの、基本的には勧善懲悪なんかとは無縁で、現実世界そのままの理不尽な悲劇が横行し、人間の醜さが、これでもかこれでもかと描かれます。結果、高潔であったはずの主人公の精神も崩壊していき、ラストなんかもう暗澹たる気持ちに……。
 映画としては、実にしっかりとした真面目な作りで、映像は実に美しく、演出も役者さんたちも文句なしのクオリティ。
 ただし、こういったテーマやストーリー自体の内容と比べると、ちょっと表現としてパワー不足なのは否めない。充分以上に佳良ではあるんですが、グイグイと巻き込んでいくような境地にまでは至らず。いささか逆説的ではありますが、前述した映像の美しさや端正さが、逆にテーマのわりにはパワー不足という印象に繋がってしまった感もあり。
 
 という感じで、ストーリー的には、鬱エピソードがテンコモリだわ救いも殆どないわ、テーマ的にも、ズッシリ鉛を呑み込んだような重さだわと、実に辛い内容ではあるんですが、でも面白いことも確かで、見応えはなかなかありました。

 ヨコシマ目線の追加情報。
 予告編でもラストの方にちょこっと出てきますが、ヒゲで毛深いオッサンたちの集団全裸責め場なんてのもゴザイマス。何でも、この撮影の余りの過酷さに、その後男優さんたちは寝込んでしまったそうで……。
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