『闇を生きる男』(2011)ミヒャエル・ロスカム
“Rundskop” (2011) Michael R. Roskam
(米盤Blu-rayで鑑賞→amazon.com)
2011年制作のベルギー映画。原題”Rundskop”、英題”Bullhead”。
2011年大阪ヨーロッパ映画祭で『闇を生きる男』の邦題で上映。また、2012年7月28日(土)から銀座テアトルシネマで二週間限定のレイトショー公開あり。
ベルギーのフラマン語(オランダ語)圏であるフランデレン地域の、食肉牛の畜産業主を主人公にした、クライム・ドラマ風味の重厚な人間悲劇。アカデミー外国語映画賞ノミネート作品。
主人公ジャッキーは30過ぎの格闘家のような肉体を持つ頑強な独身男で、食肉牛の飼育を生業としている。彼の牛は違法ホルモンを使って育てられており、彼の肉体もまたホルモン注射の産物だった。
そんな彼のところに、とある食肉業者との取引の話が持ち上がる。彼はこの話に何か危険な臭いを感じるが、実際、違法ホルモンを調査していた警察官が殺害されるという事件が起きる。
また、ジャッキーは少年の頃、睾丸を潰されるという過去を背負っており、彼のホルモン注射も、そもそもは喪われた男性ホルモンを補うために始まったことだった。そして壮年になった彼は、まるで喪われた男性性を取り戻そうとするかのように、ホルモン注射にのめり込んでいき、同時に感情を抑えられず凶暴化していく。
やがて警察の捜査網は、ジャッキーの幼なじみや初恋の相手も巻き込みながら、徐々に食肉マフィアおよびジャッキーへと迫っていくのだが……という内容。
いや、これは面白かった!
主人公の設定がかなり特異ですが、それと彼の育てる食肉牛の姿を重ね合わせ、そんなどうしようもない運命の残酷さを、ずっしりとした重厚なドラマとして見せてくれます。
ストーリー的にはクライム劇の要素はあるものの、主眼はそれではなく、まるでギリシャ悲劇を思わせる運命劇的な人間ドラマ。自分が背負わされてしまった軛から、逃れようとしても逃れられない男の悲痛さが、何とも胸に迫ります。
彩度を抑えた色調や、シンメトリーや構図の美しさが印象的な画面も、大いに魅力的。演出は全体的に静かなタイプですが、その緊張感やシャープさや、そして全体に漂う重厚な雰囲気に魅せられます。
そして何と言っても、主人公ジャッキー役の男優さん(マティアス・スーナールツ)の魅力。雄牛を思わせる見事な肉体と、クールな強面と悩めるナイーブさが同居した表情……う〜ん、惚れた。
そしてこのキャラクター……私で良かったら、ギュッと抱きしめてあげたい……って余計なお世話(笑)。
加えて、ちょっとしたオマケという感じですが、ゲイ要素があったのも良かった。まぁ、そのゲイキャラは、ルックス的には全くタイプではなかったですし、その出し方もさりげない感じなんですが、変に付加価値を背負わせることない、さらっとした描き方が、却って見ていて「判る判る!」という感じの好印象に。
まぁ、はっきり言ってとても辛くて悲しい話なので、悲劇=バッドエンドと感じられる方には全く向かないとは思いますが、屈強な男が背負った運命的な悲劇、それもある意味で過度な男性性を巡るドラマだということもあって、個人的にはモロにツボを突かれてしまった感じです。
好き嫌いや後味の良し悪しはともかく、とになく見応えタップリな一本なので、レイトショー公開ではありますが、興味のある方はぜひご覧あれ。
『闇を生きる男』、主人公の肉体性&雰囲気重視のアメリカ版予告編。
ストーリー全体のアウトライン重視のインターナショナル版予告編。
で、主演男優マティアス・スーナールツで検索してたら、こんなものが。”De rouille et d’os (Rust & Bone)” (2012)、予告編。
やだ、これもすごく見たい……。監督が、先日見て面白かった『預言者』のジャック・オーディアールってのもポイント高し。
預言者 [DVD] 価格:¥ 3,990(税込) 発売日:2012-07-06 |
しっかし、これが
これになっちゃうんだから、
俳優さんってホントすごい……ってか、おっそろしいわ(笑)。
【追記】『闇を生きる男』めでたく日本盤DVD発売です。
闇を生きる男 [DVD] 価格:¥ 3,990(税込) 発売日:2013-02-22 |
【追記】”De rouille et d’os (Rust & Bone)”も『君と歩く世界』という邦題で、目出度く日本公開&ソフト発売。
ジャック・オーディアール監督の「君と歩く世界」見てきた。シビアな世界を描きながらも垣間見える優しい視点、ふとした瞬間の鳥肌が立つような詩情、そして嗚呼、マティアス・スーナールツ! 期待通りたっぷり楽しめました。オススメ。甘ったる邦題(間違ってはいないが)に騙されないでね ^^
— 田亀源五郎 (@tagagen) 2013, 4月 11
喪失と再生を巡る物語、不器用な恋愛、父子もの、バイオレンスとエロスとロマンティシズム…と、あれこれ個人的なツボ要素多し。でも、柔らかくて切ない映像でボン・イヴェールの「The Wolves」流すの反則。映画始まったばっかなのに、それだけで泣きそうになった…
— 田亀源五郎 (@tagagen) 2013, 4月 11
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