“Agneepath” (2012) Karan Malhotra
(インド盤DVDで鑑賞、後にBlu-rayで再購入→amazon.com)
無実の罪で父親を殺された男の復讐を描いた、2012年公開のインド/ヒンディ映画。タイトルの意味は「炎の道」。
主演はリティック・ローシャン。本国では今年の1月に公開され、オープニング記録を塗り替える大ヒットを飛ばしたそうな。
1990年の同名映画(アミタブ・バッチャン主演)のリメイクだそうです。
主人公・ヴィジャイ少年の父親はマンドワ島で教師をしており、未だ封建的なその地の人々の意識を近代的に変えようと試みていた。しかし古くからの藩主は、彼の人望を快く思っていない。そんな折り、藩主の息子で幼い頃から怪異な容貌でいじめられていたカンチャが島に帰ってくる。
カンチャは製塩を営んでいる村人たちの土地を巻き上げてコカインの生産を始めようとするが、ヴィジャイの父親がそれを阻止する。結果、彼はカンチャによって少女強姦の濡れ衣を着せられ、村人たちにリンチされた挙げ句、カンチャの手でバンヤン樹に吊され、息子の目の前で殺される。
ヴィジャイ少年は身重の母親と共に、島を逃れてムンバイへと行くが、臨月の母親がスラムの路上で倒れてしまう。しかし彼女はスラムの娼婦たちの手助けによって無事路上で出産、ヴィジャイには妹ができ、一家はそのまま、自分たちを助けてくれた娼婦のところに身を寄せる。
そんな折り、ヴィジャイはムンバイ市中で父の敵カンチャの姿を目撃する。後をつけた彼は、コカインの売り込みにきたカンチャが、ムンバイの裏世界を支配し少女の人身売買を営むギャング、ラーラによって、手もなく追い返されてしまうのを目撃する。
しばらく後、スラムの路上でラーラが裏切り者を処刑するという事件が起こる。ヴィジャイは目撃者として警察に呼ばれるが、集められた容疑者の中にラーラがいるにも関わらず「犯人はこの中にはいない」と嘘をつく。そしてその嘘に激昂した警察官と争いになり、その警官を射殺してしまう。
こうしてヴィジャイ少年は、復讐のためにはまず力を手に入れることが必要だと、ラーラの元に身を寄せるが、母親はそんな息子を許さず、母子は絶縁関係となる。
それから15年、青年になったヴィジャイは、今やラーラの右腕として、ムンバイの裏社会に大きな力を持つようになっていた。
そんなヴィジャイに、彼の幼なじみで、妹が生まれる際に最初に助けてくれた少女でもあるカーリは想いを寄せている。しかし復讐に生きるヴィジャイは、彼女の気持ちを受け入れることができず、彼女もまた、仕方なくそんな状態を受け入れている。
ヴィジャイと母親の関係は、未だ絶縁状態のままであり、15歳になった妹は兄の存在すら知らない。しかしヴィジャイは妹の誕生日が来るたびに、密かにプレゼントを贈っており、カーリ始めスラムの仲間たちも、そんなヴィジャイの想いを良く理解してくれている。
一方で父の敵カンチャは、ムンバイの警察と裏で手を結び、密かにコカインの販売網を作りつつあり、ラーラの実の息子もコカイン中毒になっていた。それを知ったラーラは、息子に与える予定だったシマをヴィジャイに与える。息子はそれに反発するが、ラーラはヴィジャイは所詮捨て駒だと息子を諭す。
そんな中ヴィジャイは、その状況を逆手にとり、カンチャに近づくルートを作るために、狂言の暗殺劇を仕組んでラーラと息子を罠にはめ、自分を完全に信用するように仕向ける。そして二人が罠にはまったところで、まず息子の方を、同じく罠にはめたカンチャの手下共々排除する。
息子の悲報を聞いたラーラも倒れ、ムンバイの裏社会を手中に収めたヴィジャイは、マンドワ島に乗り込みカンチャと対峙する。しかしその最中、回復したラーラがヴィジャイの裏切りを知り、彼の妹を捕まえて売り飛ばそうとする。
ヴィジャイは妹を救うために、急ぎムンバイに戻るのだが……といった内容。
マッチョな孤高のヒーロー(リティック・ローシャン)のハードな復讐劇に、わだかまりによる肉親との分断という泣き要素、美しいヒロイン(プリヤンカ・チョープラー)との切ない恋模様、派手なアクション、そして歌と踊り……という、「これぞインド映画!」って感じの濃厚な一品。
エピソードのディテールが不足気味など、作劇は昔ながらのインド映画らしい荒っぽいところがありますが、演出は今風の洗練された味わいで見所が盛り沢山。エモーション描写は、もうコテコテの濃ゆ〜いタイプですが、オーバー過ぎて笑っちゃうということもなく、そういった匙加減は上々。
という感じで、インド映画的の伝統的な要素に背を向けるでなく、それらをしっかり押さえつつも、そこに今の感覚もプラスしたといった感じの、かなり見応えのある一本でした。
そういった意味では、前に感想を書いた快作”Dabangg“と同じタイプですが、シリアス劇ということもあって、この”Agneepath”の方が伝統寄りで、そんなクドさもまた魅力的です。
リティック・ローシャンは、マッチョさが更に増したという感じですが、アクション的な見せ場は意外と少なく、どちらかというと内面の煩悶描写に見せ場が多し。演技力の高さも手伝って、いわゆる超人的な強いヒーローではない生身の感じが良く出ていて、血と汗と涙にまみれた芝居も文句なしに熱い。またまたファンが増えそうな感じのカッコ良さです。
敵役のサンジャイ・ダットが、また実に良く、子供の頃から「キモ〜い!」と虐められてきたというキャラなんですが、これが本当にキモくて憎々しい。ヒーローと悪役、この双方がしっかり立っている(しかもどっちも濃い!)のは、全体の成功の大きな一因では。
この二人が対決するクライマックスは、ちょいと溜めすぎというか引っ張りすぎの感もあったんですが、そうやって引っ張っている間にリティックのシャツがビリビリ破れていき、逞しい上半身が剥き出しになる……なんて効果になっていたりもして、ちょい納得したり(笑)。
ヒロインのプリヤンカ・チョープラーも、幸薄い系の役所なんですが、なにしろ美人だし、加えてそこかしこで、陽性でコケティッシュな魅力も振りまいているので、尚更その薄幸ぶりも引き立つといった塩梅で、これまた好配役。
ラーラ役のリシ・カプールも、存在感といい演技といい文句なしの良さ。また、主人公の仲間でヒジュラ集団が出てくるんですが、これが安直なお笑い担当とかではなく、しっかり熱い見せ場に絡んできたりするのも、個人的に好印象。
歌と踊りは、ロマンティック系はあまり印象に残らないんですが、後半にでてくるガネーシャ祭りと暗殺劇が交錯するそれは、これぞインド映画の醍醐味というか、インド映画でしか味わえないスペクタキュラーな見所となっており、ここだけでも一見の価値は充分以上にあり。
そんなこんなで、とってもとっても「インド映画!」という感じで、インド映画的な良さはテンコ盛りで、かつ今風の作品らしく、極端な破綻や作りの乱暴さはない……といった出来なので、インド映画好きだったら文句なしに楽しめる一本だと思います。
「今」のインド映画を見たい方で、同時にこってり濃厚味が好きな方には、特にオススメしたい一本。
予告編。
とにかく圧倒される、ガネーシャ祭りのシークエンス。