“Aravaan”

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“Aravaan” (2012) Vasanthabalan
(インド盤DVDで鑑賞)

 2012年制作のインド/タミル映画。
 18世紀の南インドを舞台に、盗賊村や人身御供といったモチーフを、神話的な雰囲気で運命劇的に描いた時代物。

 18世紀の南インド。とある小さな村は盗賊で生計を立てているが、その村の盗賊団には、盗む相手は金持ちだけ、子供のいる家からは盗まない、盗みの際に血を流さない、などのルールがある。
 ある日、とある王妃の首飾りが盗まれ、その村に嫌疑がかかる。しかし村の盗賊団はその件には関与しておらず、盗んだのは一匹狼の別の盗賊だった。その盗賊を見つけ出し首飾りを取り戻せば、褒賞として大量の穀物を与えるとの条件で、村で一番の腕利きの盗賊コンブーディは、犯人を捜しに旅立つ。
 やがてコンブーディは、首飾りを盗んだ一匹狼の盗賊ヴァリプリを捕まえるが、彼の腕前と人柄に惚れ込み、仲間にしようと村に連れ帰る。村人たちは自分たちの濡れ衣の元となったヴァリプリを最初は拒否するが、彼が仲間になるための試練を見事にクリアする。しかしヴァリプリは、自分は天涯孤独の身だと過去を多く語ろうとしないため、村人の中にはまだ彼に疑惑を抱く者もいた。
 ある日コンブーディは、自分が村一番の腕利きだと証明するために、先祖代々難攻不落の砦に盗みに入ることにし、それにヴァリプリや他の仲間も同行する。盗みは上手くいったものの、逃走時にコンブーディが捕まってしまう。仲間たちは、もう彼の命運は尽きたのだと諦めるが、ヴァリプリは救いに戻るべきだと主張し、見事コンブーディを奪還する。しかしその最中、敵将がヴァリプリを《チーナン》と別の名で呼ぶ。
 コンブーディを連れて村に戻り、瀕死の彼を手厚く看護するヴァリプリに、コンブーディの妹は恋をしてしまい、恥を忍んで自分からヴァリプリに結婚して欲しいと頼むが、拒否されてしまう。そして、妹を思いやったコンブーディがヴァリプリを問い詰めると、彼は辛そうな様子で「自分は既に結婚していて妻がいる」と告白する。
 コンブーディはヴァリプリに、では天涯孤独と言ったのは嘘か、それにチーナンというのは誰のことだと詰め寄るが、ヴァリプリはそれに答えようとはせず、それをきっかけに二人の間には溝が生じてしまう。
 そんな中、様々な村から人が集まる祭りがあり、他の村から挑戦を受けたコンブーディは、一人で暴れ牛に立ち向かう。ヴァリプリは助力を申し出るが、コンブーディは拒否、その結果、牛の角で突かれて殺されそうになってしまう。
 見るに見かねたヴァリプリは、コンブーディを助けるために競技場に飛び込み、見事牛を倒すが、その直後、例の砦で彼を《チーナン》と呼んだ男が現れ、仲間と共に彼を取り押さえてしまう。コンブーディがそれに抗議をすると、男は「こいつは人殺しだ!」と答える。
 こうして、今まで謎だったヴァリプリの真の過去が、次第に明かされていくのだが、それは二つのいがみ合う村の間で起きた謎の殺人事件と、その背後の陰謀、そして過酷な人身御供の風習と、悲しい恋の物語だった……という内容。

 前半部分は盗賊村とヴァリプリことチーナンの話、インターミッションを挟んだ後半が、殺人事件と人身御供を巡るチーナンの過去話で、最後にそれらが一体化して、ギリシャ悲劇を思わせるような運命劇的なクライマックスに……という構成。
 地肌が剥き出しの岩山が主体の荒々しい風景の中、腰布一枚の裸の男達が織りなす、血に彩られた因果のドラマが繰り広げられる……という映画の雰囲気自体は、原始的な生命力を感じさせてくれて大いに魅力的。部分部分では、かなり印象に残る場面も多々あります。
 そういう感じで、かなり異色……というか意欲的な内容で、モチーフやテーマも実に興味深いんですが、映画の出来としてはちょっと惜しい結果なのが残念。ストーリー、キャラクター、俳優、美術などは佳良なのに、肝心要の演出がイマイチ。
 ストーリー的にはエモーショナルなエピソードも多いんですが、演出に巧さや溜めが足りないので、イマイチ心に迫ってこない。また映像的にも、魚眼レンズを多用したり変に構図に凝ったりはしているんですが、それがこれといった効果には繋がらず、単に新奇さだけで終わってしまっている。編集もぎこちなさが感じられますし、牛の暴走などのスペクタキュラーな見せ場が、チープなCGやイマイチのデジタル合成で白けてしまうのもマイナス要素。
 ストーリーの後半、当時、神殿などの建築時に人柱を立てる習慣が珍しくなかったこの地方の村では、(ネタバレを含むので白文字で)殺人事件の仲裁として、殺された男の仇敵の村から同じ年頃の男を一人、人身御供にすることで痛み分けにするという方法がとられることになるんですが、主人公は籤でそれに選ばれてしまい、30日後に首を刎ねられる運命となります。
 主人公を愛していた村娘は、父親の反対を押しきって、30日後には寡婦になることを承知の上で彼と結婚する。しかし彼は、事件の真相が判らぬまま自分が生け贄にされるのに納得がいかず、残された30日間で真犯人を捜そうとするのだが……
といった緊迫した状況にも関わらず、その合間にコメディリリーフやミュージカル場面が入るのも、インド映画のお約束が完全に裏目に出てしまった感じ。
 これでもし監督に力量があれば、例えばタミル映画の監督で言えばマニ・ラトナムとかバラとか、そういった監督が撮っていれば、かなりの傑作に化けた可能性もあるだろうに……うーん、何とも惜しい。雰囲気的にはパゾリーニの古代モノみたいな感じもあって、かなりいい感じなんだがなぁ……。
 ヴァリプリ/チーナン役の男優さんは、多分初めて見る人だと思うんですが、整った顔立ち(ちょっと華には欠ける感がありますが)のフィットネス系マッチョさんで、身体の線なんか実に綺麗。コンブーディ役の男優さんは、何本か見たことがある人ですが、“Majaa”で演ったヴィクラムの弟分が印象的だった人。目力と豊かな表情が印象的で、ガチムチ系で美味しそう(笑)な身体共々、陽性の生命力を感じさせてハマり役。
 あと、過去編に出てくるマハラジャの役が、何とお懐かしや『アシャンティ』や『007/オクトパシー』のカビール・ベディだったんですが、いやもうすっかりオジイチャンになっちゃって、言われなきゃぜんぜん判らなかった……。

 全体としては、モチーフ的に好みの内容だけに尚更「惜しいな〜」という感が強いんですが、こういう題材ならではの映像的お楽しみどころは色々あるので、興味を惹かれた方なら一見の価値はありかも。
 多くを期待し過ぎずにご覧あれ。
 予告編。

 主人公が人身御供に決まった後の土俗的/神話的なミュージカル場面。途中からいきなり娼館での歌舞場面に繋がっちゃうのがビックリなんですが、そこいら辺の感覚がやっぱイマイチ雑なんだよなぁ……。

 盗賊村のお祝い騒ぎのミュージカル場面。前半部はこういった陽性の大らかさが魅力で、それと後半のシリアス運命劇とのコントラストは見所の一つ。