『エジプト人』

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『エジプト人』(1954)マイケル・カーティス
“The Egyptian” (1954) Michael Curtiz
(米盤Blu-rayで鑑賞→amazon.com

 1954年製作のスペクタクル史劇。マイケル・カーティス監督。
 紀元前1300年代中頃の古代エジプトを舞台に、一人の医師の波瀾万丈な生涯を、アクナトン(イクナートン、アクエンアテン)の宗教改革などに絡めて描いた内容。原作はミカ・ワルタリの同名小説(未読)。

 主人公シヌヘ(エドマンド・パードム)は葦船に乗せられてナイル川を流れてきた赤子。医者夫婦に拾われて息子として育てられ、成長後は同じく医師を目指す。ある日彼は、軍人志望の友人ホレムヘブ(ヴィクター・マチュア)と共にライオン狩りに出掛け、そこで神に祈りを捧げていた一人の男(マイケル・ワイルディング)を助ける。
 その男こそがエジプトの次のファラオであり、エジプト古来の多神教から世界初の一神教へと宗教改革をするアクナトンだった。アクナトンはシヌヘを気に入り、自分の侍医にする。またシヌヘは酒屋の娘メリト(ジーン・シモンズ)に慕われるが、バビロン出身の高級娼妓(ベラ・ダルビー)に夢中になり、やがて全てを喪ってしまう。
 追われる身になったシヌヘは、奴隷カプタ(ピーター・ユスティノフ)と共にエジプトから逃れ、クレタやメソポタミアなどを転々とする。しかしアッシリアがエジプト攻撃を計画していることを知り、彼らの秘密兵器である鉄器を持ってエジプトに帰る。
 エジプトに戻りメリトとも再会したシヌヘだったが、理想主義者で実務に疎いアクナテンの治世によって、エジプトの国土は荒廃していた。また友人だった軍人ホレムヘブは、既に指揮官にまで上り詰め、神官たちと手を組んで次期ファラオの座を狙っていた。
 そんな中、ファラオの妹バケタモン(ジーン・ティアニー)がシヌヘに接近し、とある秘密を明かすと共に計略を持ちかけるのだが……といった内容。

 監督が『カサブランカ 』も撮れば『ロビン・フッドの冒険』や『肉の蝋人形』も撮る、職人マイケル・カーティスなので、スペクタクル史劇にありがちな過度にもったいぶった要素があまりなく、また尺が2時間20分と短めなこともあって、この手の映画にしてはわりとサクサク見られる感じ。
 とはいえ、悩み多きキャラクターである主人公には、正直あまり動的な魅力は感じられず、演じるエドマンド・パードムも、演技力もオーラも共に不足している感じ。また、こういうテーマを扱いながら、前半1時間近くを延々と、初心な主人公が悪女に翻弄される話に費やすのもどうかと思う。
 合戦シーン等の大がかりな見せ場もないので、スペクタクル的な見せ物としての楽しさもそこそこどまり。エピソードやシチュエーションやテーマが、かの『十戒』とかぶりまくっているのも、どうしても比較して見劣りしてしまう感じに繋がってしまうかなぁ。
 ストーリーの根っ子にあるテーマとしては、イクナートンの宗教改革による世界最初の唯一神アテン信仰を、後のユダヤ教を経たキリスト教誕生のルーツとする説を踏まえ、その2つを意図的に重ね合わせて見せ、結果的には主人公がその筋道を辿っていく様子を描くというものがあります。
 これはアプローチとしては面白いんだけれども、それが出てくるのが映画のほぼラスト近くになってからというのは、ちょいとバランスが悪い感じ。また、その重ね合わせの方法自体も、いささかクリシェに寄りすぎていたり、あからさま過ぎて鼻白む感もあり。
 とはいえ、セットや衣装の美しさや、ロマンティックな照明による画面などは、なかなか魅せられる場面も多々ありますし、ストーリー自体は波瀾万丈で決して退屈な内容でもないので、このジャンルが好きな方だったら、まぁ見て損はなし。

 Blu-rayは、米SAE発売の限定3000枚(DVDも同時発売)。画質等がどれほどのものか等、ちょっと不安もあったんですが、クラシック作品としては問題ない高品質。ただし残念ながら英語字幕はなし。