『英雄の証明』(2011)レイフ・ファインズ
“Coriolanus” (2011) Ralph Fiennes
(日本盤Blu-rayで鑑賞→amazon.co.jp)
2011年のイギリス映画。シェイクスピアの悲劇『コリオレイナス』を、舞台を現代に置き換えて描いたもの。(でも個人的には、後述するようにホモソーシャル/ゲイ映画として楽しめた一本)
監督・主演レイフ・ファインズ、共演ジェラルド・バトラー、ブライアン・コックス、ヴァネッサ・レッドグレーヴ。
ローマ(という名前の現代の都市国家)の軍人マーシアスは、敵国の猛将オーフィディアスを打ち負かし、都市コリオライを陥落させた武勲により、救国の英雄として「コリオレイナス」の称を受ける。
コリオレイナスは、政治的野心を持つ母親の意に沿うために、執政官選挙に出馬して人々の支持も得るが、その権力に危機感を抱く政治家とマスコミ、そして彼らに煽動された市民たちによって、潔癖で激昂しやすい気質を逆手にとられ、追放刑に処せられてしまう。
こうしてコリオレイナスは、故国に裏切られた怒りと絶望を抱えながら、独りローマを追われるのだが、その向かった先は仇敵であるはずのオーフィディアスの元であり……といった内容。
瑕瑾がないとは思わないけれど、見応えは大いにあり。
舞台を現代に置き換えたのは、内容の普遍性をより明確に浮かび上がらせるという点で効果絶大。ただし浅学にして原典を良く知らないので、どの程度のアレンジや変更があるのかまでは判らず。
英雄的な軍人であり、ある意味で高潔でもある「孤独な竜」と称される主人公像(ちょっとニーチェ的)と、衆愚として描かれる民衆などは、色々と異論もあるかとは思うけれど、理想主義と現実主義の相剋といった命題や、護民官をマスコミに置換することによって描出される社会的な普遍性などは、個人的には実に興味深し。
表現面は全編ドキュメンタリータッチで、概してそれも効果的ではあるものの、それでも芝居的な見せ場になると、やはりシェイクスピア的なセリフ廻しとニュース映像的なリアル感が、いささか齟齬が生じている部分があるのは否定できない。
また全体を通じて、見せ場的な華に乏しい感があり、役者の演技で何とか保ってはいるものの、エモーションが揺さぶられにくい部分があるのも事実。
映像としての動的な見せ場が、前半の市街戦に集中してしまい、後半部にそういった要素がなかったのも残念。
演出意図に基づくものなのか、予算の関係なのか判りませんが、いずれにせよ後半の進軍・戦争・破壊といったプロセスを、セリフだけではなくしっかり映像でも見せた方が、映画としては全体が引き締まったのではないかという気がします。
個人的に大いに興味を惹かれたのは、コリオレイナス(ファインズ)とオーフィディアス(バトラー)という、ライバル同士である二人の軍人の関係を描いた部分。
この部分がもう思いきりホモソーシャル色が濃厚で、ある意味、オーフィディアスがコリオレイナスに片思いしているゲイ映画として解釈したくなるくらいでした。何しろジェラルド・バトラーがレイフ・ファインズを抱きしめて「俺は今、新妻を部屋に迎え入れた時よりも心が躍っている!」とか言っちゃうんだもん(笑)。
そして、そのバトラーの《恋敵》に当たるのがコリオレイナスの母で、これがまた父性と母性を同時に持ち合わせているかのような魅力的な人物なんですが、それを演じるヴァネッサ・レッドグレーヴの見事さといったら、大女優の貫禄ここにありという感じで、いやもうホント絶品。
というわけなので、ヤヤコシイことは置いておいても、オヤジ好き&軍人好き&深読み好きのゲイ&腐女子の皆さんは、その部分だけでも間違いなく一見の価値ありだと思います。実に萌えどころ豊富で、そこはもう太鼓判。
もちろんそういった部分をさっ引いても、前述したように見応え自体はタップリなので、モチーフに惹かれる方であれば、一見の価値はあるかと。
でもやっぱり個人的には、これはホモソーシャル/ゲイ映画として楽しみたい感じ。
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