“La Mission” (2009) Peter Bratt
(米盤Blu-rayで鑑賞→amazon.com)
2009年のアメリカ映画。サンフランシスコのミッション地区に住む男根主義的なチカーノの父親と、高校生でゲイの息子の確執を、音楽たっぷりに描いたヒューマン・ドラマ。
監督ピーター・ブラット、主演ベンジャミン・ブラット。
サンフランシスコのミッション地区に住むメキシコ系移民チェは、かつてはアルコール依存症だったが現在は社会復帰し、トロリーバスの運転手をしている。彼は地域で一目置かれる親分的存在で、週末は仲間と一緒に、リストアして飾り立ててたローライダー車を連ねて街を流すのが習慣だった。
チェの妻は早くに亡くなっていたが、一人息子で今は高校生のジェスがいて、真面目で成績も良い息子のことをチェは誇りに思っていた。しかしジェスは実はゲイで、同年代で富裕層の白人のボーイフレンドと付き合っていた。
とある週末、チェはいつものように仲間と街を流しに行き、その間ジェスはBFと一緒にカストロ地区のゲイクラブへと踊りに行く。しかし翌朝、ゲイクラブで記念に撮られたジェスのポラロイド写真を、チェが見つけてしまう。
チェはジェスを殴りつけ、そのまま殴り合いになったところを、隣人でウーマン・シェルターに勤務している黒人女性がようやく取りなす。しかしチェはジェスに「家から出て行け!」と怒鳴り、ジェスはそのまま叔父夫妻の家に身を寄せることになる。
やがて弟(ジェスの叔父)や黒人女性の説得もあり、チェはジェスを再び家に迎え入れ、息子の同性愛についても何とか理解しようとするのだが、自身が敬虔なカトリックということもあり、どうしてもそれを受け入れることができない。
そんな中、ジェスと同じ高校に通うチカーノ・ギャングの男子学生が、かつてチェにトロリーバス内でマナーを咎められたことを根にもって、ジェスがゲイであることを学校内で言いふらす。
ジェスは、友人のサポートもあってそれに絶えるのだが、父親との関係は依然ぎくしゃくしたままで、そこにやがてある事件が起き……といった内容。
なかなか丁寧に撮られた作品。
キャラクターの心情を生活感のある細かなエピソードで、1つ1つじっくりと描いて積み重ねていき、それが同時にチカーノ・コミュニティ内の風俗描写ともなり、更にソウル、ファンク、ヒップホップ、メキシコ先住民音楽から、インドの瞑想音楽まで、様々な音楽が劇中でふんだんに流れるというもの。
ただ、丁寧に撮られている反面、いささか冗長な感はなきにしもあらずで、このモチーフで2時間近くというのは、正直ちょっと長すぎの感はあり。出来事を最初から順番に追っていく撮り方なのだが、ここはもうちょっと構成に工夫して、全体をタイトに引き締めた方が良かったんじゃないかなぁ。
とはいえ、ストーリーや描かれるエピソード自体が面白いので、見ていて退屈するということは全くなく、またローライダー改造車を巡る文化とか、メキシコ先住民文化を受け継ぐ民間信仰的な宗教描写とか、目新しいものがあれこれ見られるので、全体的にはとても楽しめる出来。
ゲイ描写に関しては、あくまでもフォーカスは息子がゲイであることを受け入れられない父親の方にあるので、ゲイ文化自体に関してはさほど描写はなし。
しかし、自分がゲイであることを受け入れてくれない父親との確執や決断、愛するBFとの関係描写、周囲の人々によるサポートといった、息子を軸としたゲイ回りのドラマも、前述したようなディテール描写の豊かさもあって、やはり見ていて面白いし描かれ方も気持ち良い。
また、単にゲイという要素だけではなく、そこに人種や格差の問題が絡んでくる(つまりワーキングクラスのチカーノであるチェやジェスに対して、ジェスのBFはアッパークラスの白人なので、それが尚更チェを意固地にしてしまう側面がある)のも、ドラマの要素として興味深くて佳良。
役者陣も、メキシカンなヒゲにスジ筋ボディ&全身刺青というチェを演じるベンジャミン・ブラットと、大きな黒目が印象的なジェスを演じるジェレミー・レイ・バルデスの二人を筆頭に、隣人の黒人女性、チェの弟とその美人妻、ローライダー車の仲間たち、ジェスの友人である太っちょのネイティブ・アメリカン青年など、メインから脇に至るまで実に魅力的な面々が揃っている。
映像的には、音楽(や歌詞の内容)を上手く使った印象的なシーンが多々あり、ここも大きな見所の1つ。
エンディングの余韻も心地よい。
こういう感じで、モチーフに興味のある方だったら、まず見て損はない内容かと。
男根主義の父親とゲイの息子の確執というテーマに興味がある方にはもちろん、チカーノ文化に興味がある方や音楽好きの方にもオススメの一本。