“Teddy Bear” (2012) Mads Matthiesen
(米盤DVDで鑑賞→amazon.com)
2012年のデンマーク映画。
母親の盲愛に縛られて自立できないアラフォーのプロ・ボディビルダーが、愛と女性を求めてタイに行くというヒューマン・ドラマ。
この映画の原型となった、同じ監督&キャストによる短編”Dennis” (2007)は、ベルリンの最優秀短編賞受賞。
38歳のプロ・ボディビルダー、デニスは、母親と二人暮らし。母は彼を溺愛しており、同時に彼をその愛で縛り付けてもいる。デニスはそんな母に「友人と映画に行く」と嘘をついて、女性とデートを試みたりするのだが、極端に奥手なので全く上手くいかない。
そんなある日、デニスの叔父がタイからお嫁さんを連れてくる。二人の様子を見て、そして叔父から「タイなら彼女を見つけるのも簡単だ」と聞いたデニスは、母親に「ドイツの大会に出る」と嘘をついて、単身タイのパタヤへと旅行に行く。
パタヤでデニスは、叔父が紹介してくれた斡旋人を訪ねるが、そこで紹介される女性はいわゆる商売女で、デニスが期待していた出会いとは違っていた。また、同地で西洋人がタイ人女性をはべらせて騒ぐ様子にも、どうしても馴染むことができない。
そんな中、同地でボディビルジムを見つけたデニスは、自分の受賞歴を知るタイ人ボディービルダーとの交流を経て、ようやく一息つくことができ、やがてジムのオーナーである、未亡人のタイ人女性に心惹かれるようになるのだが……といった内容。
何と言っても主人公デニスを演じるKim Koldの存在感が、その肉体共々素晴らしく(実際に様々な受賞歴のあるプロ・ビルダーだそうです)、その彼の俳優デビュー作でもあり、YouTubeでも公開されている前身となった前述の短編”Dennis”がとても良かったので、その長編版ということでかなり期待して見た一本。
全体の雰囲気は実に穏やかで、静かで淡々としつつも温かみがあり、鑑賞後の後味も上々。
ストーリー的には、実にシンプルな内容ながらも「この先どうなるんだろう」という要素で牽引していき、ゆったりしたペースながらも弛緩は皆無。
ドラマ的にはエモーショナルな起伏もありますが、それすら描写自体は穏やかで、映画の半ば以上がタイが舞台というせいもあって、何というか、ゆったりとした空気感にしみじみ浸れる感じ。全体に漂う自然なリアル感も素晴らしい。
筋肉の小山のような巨漢なのに、内気で気弱なデニスのキャラも良いし、ジム・オーナーのタイ人女性も、いわゆる美人では全くないけれど魅力的。どちらも演技的にはほぼ素人らしいですが、とてもそうとは思えない自然な佇まい。お見事です。
ただ、見る人によっては、女性観が男性目線すぎると感じられるかも知れません。
個人的には、男性同士やビルダー仲間となら屈託なく接することができるのに、女性相手だとどうしていいのか判らず、更に母子関係にも縛られた男を描いた内容なので、これはこれで良いのではと思いますが。
さて、原型となった短編”Dennis”と比較してみると、あちらは主人公の《異形》としての煩悶にフォーカスが当たっていたり、また、ある意味で異様な母子関係を描いているのに、なのに不思議としみじみとした後味が残るというギャップがあったりしたのに対して、本作ではそういった要素は後退気味。
そういった諸々の要素は、既に”Dennis”で語り終えたという風情で、こちらの”Teddy Bear”はその後日譚&決着編という感じです。なので、母子関係や主人公の内面という点では、2本続けて見た方がより味わい深くなりますし、逆に言えば、”Teddy Bear”単品を独立した作品として見てしまうと、いささかそういった部分に突っ込み不足が感じられてしまうかも。
幸い”Dennis”もDVDのボーナスで入っているので、これは是非続けて見ていただきたいところ。
というわけで、とにかくまずは、この主人公を愛おしく思えるかどうかがキモになると思いますが、私はもうバッチリでした。
クオリティも高いので、単館上映系の映画が好きで、しかも筋肉男が好きな方だったら、これは激オススメの一本です。
そして前身となった短編”Dennis”ですが、DVDにも収録されていますが、YouTubeでも英語字幕版が公開されています。