『天才画家ダリ 愛と激情の青春』

天才画家ダリ 愛と激情の青春 [DVD] 天才画家ダリ 愛と激情の青春 [DVD]
価格:¥ 3,990(税込)
発売日:2012-06-22

『天才画家ダリ 愛と激情の青春』(2008)ポール・モリソン
“Little Ashes” (2008) Paul Morrison

 2008年のイギリス/スペイン合作映画。
 ダリを演じるロバート・パティンソンの『トワイライト』人気で、こんな邦題になっちゃってますが、実質はダリではなくフェデリコ・ガルシア・ロルカ(ハビエル・ベルトラン)が主人公で、同性愛者としてのロルカをメインに、ダリとの関係等を描いたゲイ映画です。

 まぁ何というか、身も蓋もない言い方をしてしまうと、「ロルカとダリで『モーリス』やってみました」みたいな映画。
 ロルカの同性愛者としての側面に焦点を置くというのは、『ロルカ 暗殺の丘』(マルコス・スリナガ監督、1997年)でも、『ブニュエル  ソロモン王の秘宝』(カルロス・サウラ監督、2001年)では、残念ながら殆ど見られなかったので(でも映画自体はどちらも好きです。特に後者は、おかしな邦題で損をしていますけど、個人的には贔屓の一本)、そこは新鮮だし嬉しかった。
 ロルカがダリとの関係に振り回された後、演劇や政治に身を投じていく姿を、同性愛者としての自己受容や行動に重ねて描くというのも、視点としてはなかなか興味深いです。

 ただ、残念ながら演出が凡庸なために、そんなアイデア以上の見応えや滋味には欠けるのが残念。
 描かれる具体的なエピソードのあれこれも、ダリの立ち位置を《魔性の美形》的にするとか、どんどん親密になっていくロルカとダリに、ホモフォビックなブニュエルが嫉妬する昼メロみたいな展開や、ゲイに振られながらも理解ある友人となる女性キャラというお約束が出てくるとか、そういった発想自体の陳腐さが、ちょっといただけない。
 また、『モーリス』や『アナザー・カントリー』系の、ある種の耽美とかコスチューム・プレイ的なゲイ映画として見てしまうと、全体が低予算のために時代の香気に酔うというわけにもいかないし(低予算ながら工夫して頑張っているとは思いますが)、また、最初は《魔性の美形》だったダリも、後半は実際の本人の姿に併せて、ルック自体がどんどん奇矯になっていくので、そんなヴィジュアル自体が足枷になってしまう。

 というわけで、ドラマティックな時代と関係性を描いた人間ドラマとしては、深みや見応えに欠けるし、映像自体のムードや昔のやおい的な耽美を求めてしまうと、映像がそれに追いついていかず……といった具合に、ちょいと虻蜂取らずに終わってしまっている感があります。
 ただ、前述したようなモチーフ自体の珍しさはあるし、着眼点自体は悪くないと思うし、また、凡庸さや陳腐さは感じつつも、別に見ていてつまらないわけでもないので、あまり多くを期待せず、気楽に見る分には良いと思います。

 なにしろ、こういうマイナーなゲイ映画の、日本盤DVDが出ること自体が珍しいので、そういう意味ではちょっと応援したい気持ちもあり。
 ありがとう『トワイライト』(笑)。

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