今回の単行本表紙をどんな感じにするか考えたとき、最近いくつか続けて手掛けた出版以外の作品で、墨で描いた白描に朱墨や金色墨汁などで色を加えるとか、或いは2〜3色の版画であるとか、そういった手法が自分でも新鮮で面白かったので、そのテイストを出せないかと考えました。
因みに以下がその最近手掛けた作品で、順に、オーストラリアの企画展用に描いた『波濤 A』、日本のTシャツ企画展用に描いた『串刺し』、カナダTCAFの依頼で描いた『竜巻』になります。
というわけで、担当編集氏に「クラフト紙っぽい色合いの用紙に特色3色刷りで版画風に」と提案し、予算の範囲で何が可能で何が不可能か、見積もりをとってもらいました。
最初の段階では、黒(もしくは濃紺か焦げ茶)の線描をメインに、そこにポイントカラーとして赤と金を加えたいと希望。すると担当デザイナー氏&印刷所の方から「赤は沈むのでオペーク赤を使った方がいい、それも下地にオペーク白を敷いて2度刷りで」とのご提案。
しかしそうすると、インクが一色増えてしまうので、さてどうしたものかと思っていたら、「こんな感じになります」というサンプルで、色の濃い用紙にオペーク白を敷いた上に特色で刷った見本を見せていただきまして、そこで「え、こんな感じになるのなら、逆に色を入れるのはやめて、オペーク白の効果を活かした方がカッコイイんじゃね?」と思いまして。
予算的にもOKだったので、注意点などを確認の上《茶色の板紙に濃紺・オペーク白・金の三色刷り》に決定。
条件が決まれば、後は描くだけ。
用紙見本や刷り見本などをお借りして、頭のなかでイメージを固めつつ、コピー用紙に水色鉛筆と鉛筆で下絵を描いていきます。オペーク白の効果を活かしたかったので、翻る白褌を天使の羽に見立てた、ボンデージ毛深マッチョ天使の絵にすることにしました。
下絵が出来上がったところで、スキャンしてパソコンに取り込み、印刷時のタチキリ線入りテンプレート(サイズは後で描く原画原寸)上に配置して、構図を決定。
絵自体の構成要素が少なく、しかも文字等はいっさい入らないデザインなので、余白のバランスなどがだらしなくなってしまうと致命傷。位置や大きさなどを、検証しながら厳密に詰めていきます。
構図が決まったら、それを原寸でプリントアウトして、ライトボックスで透かしながらドローイング。
今回は「天使」というモチーフ上、いつもの自分の和のテイストと、洋の宗教画的なテイスト(具体的にはビザンチン絵画をイメージ)をミックスしてみたかったので、用紙は和紙ではなく洋紙(といっても単なる画用紙ですが)をセレクト。
メインの描線は墨と毛筆ですが、前述のテイストを出すために滲みや掠れは使わず、描線もあまり走らせすぎず、かっちりと形を抑えるような描き方にしました。
坊主頭の表現は、金網+ぼかし刷毛でスパッタリング。
体毛は、くっきり&緻密に表現したかったので、ペンを使用。
で、今回、画材屋で見つけた日光の超研磨ペン先(丸ペン)というのを初めて使ってみたんですが、これが実に優れもの。普通の丸ペンに比べると引っかかりも少なく、繊細な線がスイスイ引ける。
おまけに保ちも良くて、私の場合普段だと丸ペンは、16ページのマンガ原稿を描く間にも2本消費してしまったりするんですが、この超研磨ペン先は、この表紙イラストで目の粗い画用紙にみっちり描いた後、そのまま雑誌の連載マンガ16ページ用にも使いましたが、いまだにへたれておりません。
線画が出来上がったところで、それをスキャンしてパソコンに取り込み、Photoshopで使う版(色)ごとにレイヤー分け。背景は、用紙の色をシミュレート。
体毛の描線を繊細&しっかり出したいので、製版時に網掛けをしないように頼み、作業もアンチエイリアスをかけない2値/1200 dpi/印刷原寸で進めます。
背景のパターンはIllustratorを使用。
『天使 B』の方は、右側の布が煩く感じられたので、最終的には消しました。
この画像は、仕上がりイメージに近づけるために、ちょっとレイヤーの透明度をいじってみたもの。
いろいろと初めての試みもあるので、果たして自分のイメージ通りのものが出来上がるか、いささか不安もあったんですが、いざ出てきた校正刷りがもうバッチリの仕上がりで、安心すると同時に大喜びしました(笑)。