“Paradesi” (2013) Bala
(海外版DVDで鑑賞→Bhavani DVD)
2013年のインド/タミル映画。個人的にご贔屓のタミル映画の鬼才、“Sethu” (1999)、“Nandha” (2001)、“Pithamagan” (2003)、 “Naan Kadavul” (2009)、“Avan Ivan” (2011)などの、バラ監督作品。
イギリス統治下の紅茶プランテーションにおける、奴隷労働者たちの苛酷な運命を描いた内容で、英題はNomad、Vagabondなど(つまり『放浪者』)。
20世紀初頭、イギリス統治下のインド。
南インドの貧しい農村に、ラサというちょっと頭の弱い青年がいた。両親のいない彼は年老いた祖母と二人暮らしで、太鼓を叩きながら、結婚式の報せを村中に触れ回り、それで食事を貰ったり、ゴミ拾いや薪割りなどをしている。
頭の弱い彼をからかう村人もいて、中でもアンガマという若い娘は、しょっちゅう彼にちょっかいを出したり、意地悪をしたりする。そんな中、村で結婚式が行われ、ラサも下働きをしてから宴席に着くのだが、彼だけ食事を分けて貰えない。
泣きながら立ち去ったラサに、アンガマは食事を持っていく。ここで初めてアンガマは、実は自分がラサのことを好きで、だからいじめていたのだと自覚し、彼に愛を告白する。彼もそれを受け入れ、二人は急速に仲良くなり、やがて男と女の関係になる。
こうしてアンガマとの結婚を夢見るようになったラサだが、それを知ったアンガマの母は猛反対し、それは村の会議にかけられるほどの問題に発展する。ラサはアンガマと結婚するために、村を離れて仕事を探しにいき、別の場所で薪割りの仕事を得る。
しかし仕事を終えても、薪割りを命じた人はお金を払ってくれない。ラサが路傍で泣いていると、身なりの良い男が声をかけてきて、ラサの村の名前を聞いて目を光らせる。男はラサと一緒に村へ行き、村人たちに「自分は遠方の農園で働く出稼ぎ労働者を捜している」と告げる。
男が話す、一年間の契約労働の条件の良さや、契約時に渡されるアドバンスに惹かれ、ラサも他の村人たちも、ある者は妻を残し単身で、別の者は女子供でも働き手になれて稼ぎも増えるという言葉に誘われて家族ぐるみで、次々とその男と契約する。
別れを嘆く祖母とアンガマを残し、ラサたち一行は男に連れられて出発するが、それは徒歩で二ヶ月近くもかかるような遠方への旅だった。しかも男の態度は豹変し、旅の途中で行き倒れた男を瀕死のまま置き去りにし、その妻が泣いて抵抗するのを無理矢理連れて行くような冷酷さを見せ始める。
やがて一行は目的地に着くが、そこで待っていたのはイギリス人がインド人を使って経営している、地獄のような茶畑だった。一方、村ではアンガマがラサの子供を妊娠していることが発覚し、彼女は母親から家を追い出されてしまう。しかしラサの祖母が、彼女を迎え入れてくれ……といった内容。
いや、これはきた……ずっしりヘビー級の見応え。やってくれましたバラ監督。
前作”Avan Ivan”は、部分的な見所のみで、全体的にはちょっと残念な出来でしたが、本作は力作だった前々作”Naan Kadavul”を完成度という点で凌ぎ、傑作”Pithamagan”にも近い出来映え。
最初はわりと気楽に見られます。もちろん村人にハブられてしまう主人公なんかは可哀想なんですが、それでも村娘とのロマンスはあるし、何だかんだで楽しく見られる。農園に着いてからもしばらくは、確かに酷いところなんですが、それでも見ていてこっちの神経がやられるまでではない。
ところが農園に着いてから一年後、契約期間が終わるところになって、一気に地獄が牙を剥き、後はもう「うわああぁぁぁ……」の連続。希望はどんどん叩き潰され、しかも達者な演出でエモーションも刺激されまくりで、見ていてどんどん鉛のような気分が溜まっていきます……。
基本的に、人の世の醜さや残酷さをえぐり出すのは、この監督のいつもの作風ではあるんですが、今回とにかくキツかったのは、イギリス人がインド人監督を酷く扱い、そのインド人監督がインド人労働者を酷く扱い、労働者間でも嫌がらせなどがあり……といった差別や虐待の連鎖を、容赦なくえぐり出してくるところ。
また、ろくな医者もいなかった農園に、ようやくヒューマニストらしき医者がきた……と見せかけて、実は彼らの主たる目的はキリスト教の布教にあり、彼らがインド映画風に脳天気に宣教を歌い踊っている間に、メインの登場人物が病気で死んでいったり……という、徹底して醒めた視点による容赦なさ。
そしてクライマックス、この冷徹な眼差しはピークに達し、素晴らしくエモーショナルな演出と、真に迫った演技によって、ある側面だけ取り出して見ればハッピーエンドとも言えるんだけど、それが同時に徹底的なバッドエンドでもあるというラストシーンに……もうここは、思い出すだけで「うわああぁぁぁ……」って感じ。
決して後味が良いとは言えないとか、何とも複雑な後味だという意味では、バラ監督の他の作品も、割と似たり寄ったりなんですが、それでも以前の作品では、主人公である異者が神話的に変容するというカタルシス等があったけれど、今回はそれすらなく、ひたすら打ちのめされて終わるので、とにかく後味がヘビー級。
演出は相変わらず素晴らしく、画面のスケール感やカメラワークも見事(冒頭の移動撮影とか、クライマックスのクレーン撮影とか!)だし、主演の青年を筆頭に、役者陣も皆素晴らしい演技。
見終わった後、何とも言えない気分になってどよ〜んとしますが、間違いなく一見の価値有り。後味をどう感じるかはともかくとして、見応えとクオリティは保証します。
バラ監督作品の中でも、個人的にはベスト2(一位はやっぱり”Pithamagan”)の作品でした。