“Alois Nebel” (2011) Tomas Lunak
(イギリス盤DVDで鑑賞→amazon.co.uk)
2011年のチェコ製アニメーション映画。
共産党政権末期、国境近くで働く鉄道員が、二次大戦終結直後の幼い日の記憶のフラッシュバックに悩まされ……というグラフィック・ノベルを、ロトスコープ技法を用いてモノクロームでアニメーション化した、大人向けの文芸系作品。
2012ヨーロッパ映画賞アニメーション映画部門最優秀作品賞、オランダ・アニメーション映画祭グランプリ受賞。アニメーション・フェスティバル<GEORAMA2014>にて日本上映予定。詳細は記事末尾を参照。
共産党政権末期のチェコスロバキア。ポーランド国境近くの鉄道駅駅長アロイス・ネベルは、中年男性ながら未だ独身で、一匹の猫と一緒に暮らしている。そんなある日、IDを持たず口もきかない不審な男が駅に現れ、秘密警察に連行されていく。
アロイスは、霧の中から蒸気機関車が現れ、幼い日の自分が駅のプラットフォームで、大勢の人々が貨車に乗せられる中、自分が慕っていた女性が汽車に乗ろうとするのと、それを押しとどめようとする男が揉み合っているという、記憶のフラッシュバックに悩まされるようになる。やがてアロイスは神経衰弱となり、精神病院に収容されるが、そこで彼と同室になったのが、件の口をきかない謎の男だった。
病院で謎の男は、治療のようにも拷問のようにも見える、電気ショック処方を受けていたが、ある日逃亡する。そして彼の残した所持品の仲から、アロイスのフラッシュバックに出てくる人々が写った、一枚の古い写真が見つかる。
アロイスは精神病院を退院するが、元の駅には既に自分の仕事はなかった。鉄道の仕事を得るために、彼はプラハ中央駅へと行くが、そこでも仕事は何もなく、中央駅で暮らすホームレスや私娼たちの仲間入りをする。
中央駅には、そんなホームレスたちの面倒を何かとみてくれる、トイレの中年掃除婦クヴェタがいた。やがてアロイスとクヴェタは、互いに好意を持つようになるのだが、些細なことからその仲はこじれてしまい、また、中央駅長に言われたクリスマスや新年を過ぎても、未だに鉄道の職は与えられない。
アロイスは、再び元の国境近くの駅へ戻り、そこで何とか鉄道整備の職を得るのだが、そこに例の謎の男が再び現れ……といった内容。
内容的には文芸寄りで、ストーリーの起伏ではなくディテールやキャラの内面などで見せていくタイプ。
メインとなるのは主人公アロイスの《旅》(内面的にも物理的にも)で、そこに歴史の闇や殺人事件、時代の転換期における混乱などが絡んでくるというもの。
提示される断片的なディテールによって、「あ、そういうことか」と判る作りになっているので、例えばドラマ内の《現在》が共産党政権末期であるとか、あるいは二次大戦終結後に、物語の舞台となっているズデーデン地方から、ドイツ人の追放があったこととか、そういった事情を判りやすく説明はしてくれないので、ちょっと予備知識が必要とされる面があり。
映像は極めて魅力的。非デフォルメ系のキャラクターは太い線のドローイングで描かれ、コントラストの効いたモノクロ画面にフラットなグレーのトーンが被り、まるで木版画のような美麗さ。
それがロトスコープでリアルに動くのも、なんとも言えない不思議な魅力で、そんなリアリズム主体の動きの中に、フラッシュバック場面などの幻想的な演出が入って来る瞬間は、思わずはっとさせられるほど。ただ、そういった場面が見られるのは前半のみで、後半のリアルな展開部になると、そんな魅力がやや薄れてしまうのが少し残念。
原作はJaroslav Rudišという人のグラフィック・ノベル3部作。それを1時間半の尺に収めているせいか、正直もうちょっと見たいという感はあり。とはいえ、現在(作品時間内の)を生きる主人公を軸に、過去の決算と未来の予感を交錯させ、時代の転換点を個と社会両方に重ねて見せる構成は、これはお見事!
というわけで、アニメーション好きや、内容に興味のある人なら、まず見て損はない一本でした。
【追記】朗報、アニメーション・フェスティバル<GEORAMA2014>にて日本上映!
会期と会場:2014年4月12日(土)~25日(金)東京・吉祥寺バウスシアター、2014年6月21日(土)~22日(日)山口、2014年7月19日(土)~25日(金)神戸
*詳しい上映スケジュールは、上記リンク先の公式サイトにてご確認を。