“At the Gate of Ghost” (2011) M.L. Pundhevanop Dhewakul

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“At the Gate of Ghost” (2011) M.L. Pundhevanop Dhewakul

 2011年のタイ映画で、黒澤明『羅生門』のタイ版リメイク。原題は”U mong pa meung (อุโมงค์ผาเมือง)”。”The Outrage”という別の英題もあり。
 既に物故しているタイの文豪が、映画『羅生門』の脚本を元に、舞台を16世紀のタイに変えて、演劇用に翻案した戯曲の映画化らしい。
 森雅之に相当する役に『心霊写真』『ランカスカ海戦 パイレーツ・ウォー』などのアナンダ・エヴァリンハム、京マチ子に相当する役に『地球で最後のふたり』のライラ・ブンヤサック。

 ストーリーラインは基本的に『羅生門』と同一なので省略。
 捕縛された盗賊の初登場シーンなど、演出自体もなぞっている部分があり。セリフも同様。樵や法師が雨宿りする羅生門は、荒れ寺の隧道に変更。更に各々のキャラクターの過去が点景的に描かれるというアドオンもあり。
 映像は美しく演出も手堅いが、演出の凄みを感じさせるような表現はなし。反面、追加されたキャラクターの背景描写のおかげもあり、エモーショナルに訴えかける部分は増している印象。
 また後述するように、全体的に仏教的視点で再構成した仕掛けの効もあって、最後はなかなか感動的に仕上がっています。
 役者陣はいずれも熱演で、特に京マチ子役(変な言い方だけど)のライラ・ブンヤサックが見事。千秋実の法師役は、アイドル的な美青年が演じていて、これまた静かな佇まいや全体の構成と呼応していて、なかなか良い効果を出していました。
 仏教的なアレンジの件。
 映画全体を、事件の聴取に立ち会ったために、仏の道を志すことに疑問を持ち、寺を出た青年僧侶という視点で通しており、ラストはオリジナル版のヒューマニズム要素を仏教的に膨らませて、この僧侶が最終的に信仰心を取り戻すという構造になっています。
 特にラストが良く、雨宿り場所だった恐ろしげで暗い隧道というのが、それを人の心の闇に重ね合わせていたことが明示され、ここがけっこうじんわりと感動的。エモーショナルな要素と上手く呼応して、オリジナル版とはまた違った魅力になっている印象です。

 というわけで、作品的な凄みには欠けるものの、オリジナルを忠実になぞりつつ、そこに別の魅力を加味することにも成功している、真面目にしっかりと撮られた良い映画という感じでした。
 ちょっと薄味なのは残念ですが、あちこち見所はありますので、興味のある方だったらしっかり楽しめるかと。