“Hawaii” (2013) Marco Berger

dvd_hawaii
“Hawaii” (2013) Marco Berger
(アメリカ盤DVDで鑑賞→amazon.com

 2013年のアルゼンチン製ゲイ映画。
 再会した幼なじみが互いに惹かれつつも、相手の気持ちが掴めないために一歩を踏み出せないという一夏の光景を、穏やかなムードで詩情豊かに描いた作品。

 身寄りをなくした青年マルティンは、子供の頃に暮らしたアルゼンチンの田舎町にやってくるが、そこでも知己は既におらず、野宿をしながら様々な家の手伝いをして、その日の食事と現金を得ている。そんなマルティンが、ある日仕事を求めて尋ねた家は、彼が幼い頃に遊びに来た事があるエウヘニオの家だった。
 エウヘニオもそのことを思い出し、マルティンは野宿のことは隠したまま、夏の間エウヘニオの家を修理する仕事を得る。マルティンに惹かれたエウヘニオは、シャワーを勧めたり泳ぎにさそったりするが、彼の裸身を覗き見るのが精一杯で、そこから先へは踏み出せない。
 そんな中、マルティンの野宿の嘘がばれ、エウヘニオは彼を納屋に住まわせることにする。共に暮らしながら、二人は互いに自分でも忘れていた幼い日のことを思い出し、親しさを増していく。
 そしてエウヘニオ同様、マルティンもまた相手のことを意識するのだが、二人の関係は友人以上にはなかなか進展することがなく……といった内容。

 これは秀逸な一本。
 内容的には、これといったドラマ的な起伏があるわけではなく、相手のことが気になるけれど何か行動を起こすことはできず、それも友人的に良い関係性にあるから尚更……といった微細な空気感を、ディテール描写を重ねて描いていくというもの。
 クローズドなゲイ・コミュニティ以外で出会った、同性の誰かに惹かれたとき、まず相手がゲイであるかどうかが判らないが故に、気にはなるんだけれど踏み出せない気持ち。こういった感覚は、私自身も含めて、おそらく多くのゲイにとって、一度は身に覚えがあることなのでは。
 そういった、身近ですごく良く判る感覚にフォーカスを当て、それを丁寧に描き出すこと、それがゲイ映画としてのテーマになり得るという発見に、大きな拍手。
 映画としても良い出来で、空気感のある柔らかで美麗な映像、夏の気怠さを思わせるような穏やかなムード、着替えや午睡といった場面で下着越しの股間を捉えるようなセンシュアルな画面……と、全体がとても静かで、心地よい雰囲気。
 テンポは一貫してゆっくりしているものの、そこには前述したような「相手のセクシュアリティや気持ちが判らない」ことによる、軽い緊張感も同時に漂っているために、ゆったりすぎて弛緩することもない。
 全体的に少なめの会話場面も、その内容は日常的なものや想い出話であって、変にフィクショナルな心情吐露とかではない、そんなリアリズムも佳良。
 最初に思った、「アルゼンチン映画で、この内容で、何故タイトルが『ハワイ』?」という謎も、ラストにそれが軽い仕掛けとなって、ドラマの収束に作用するので納得。予定調和的な部分はありますが、それも雰囲気の良さで自然に乗せてくれる感じ。
 ガツンとくるフックには欠ける作品ですが、エンドクレジットにKickstarterのロゴがあったので、おそらくクラウドファンディングで作られたインディーズ映画なのでしょう。それでこの出来映えなら、これは充分以上に見事。

 美麗な画面と心地よい空気感で綴られる、ゲイならば誰にでも身に覚えがありそうな、ごくごく普通で当たり前の感覚。そんなリアルさを主体にしつつ、同時に詩情や甘美さも押さえ、寸止め系のさりげないエロス表現もプラス。
 テーマといい、クオリティといい、後味の良さといい、ゲイ映画好きなら、まず見て損はない一本です。

【追記】今年(2014年)の東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で、上映あるそうです。
ハワイ|第23回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭