イタリア紀行(1)

5月26日
 日本出発。成田から香港乗り継ぎで、翌日ミラノに到着予定。

5月27日
 ミラノ・マルペンサ国際空港に到着。今回参加する、ボローニャのNipPopが手配してくれた女性が出迎えてくれる。
「電車までまだちょっと時間があるので、何かご希望は?」と訊かれたので、とりあえずタバコを吸いたしと返答。すると電車のホームで吸えた。イマドキ珍しい寛容さ。
 マルペンサ・エクスプレスという電車でミラノ中央駅へ。ここでイタリア鉄道AV(アルタヴェロチタ。新幹線みたいなやつ)に乗り換えてボローニャへ行くのだが、またちょっと時間が。
 出迎えてくれた彼女が、「ミラノ中央駅のビュッフェは素敵」と言うので、一緒にそこで軽食をとることに。せっかくイタリアに来たので、カプチーノとパニーニ…にしようと思ったけれど、お腹はあまり空いていなかったのでクロワッサンに変更。
 彼女とは、ボローニャへ向かう電車に乗ったところでバイバイ。

 ボローニャ中央駅に到着。
 出版社Ren Booksのニーノ・ジョルダーノが迎えに来ると言っていたので、ホームに降りてきょろきょろしたけれど見つからず。じゃあ上の階(到着したのは地下のプラットホーム)にいるのかとエスカレーターを上がっていったら、いつの間にか出口に、それもどう見てもメインゲートではない裏口っぽいところに出てしまった。
 はて困ったと思っているところに、ニーノから「今ホームにいるんだけど、もう着いた?」とSMS。こちらも「ごめん、見当たらなかったから上に行ったら、変な出口に出ちゃった」と、そこの写真を添付して返信。スマホ便利(笑)。
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 程なくしてニーノと、彼の友人で今回私が家に泊めて貰うことになっている、映像作家のアドリアーノ・シラヌスがやってくる。ニーノとは「久しぶり〜!」、アドリアーノとは「初めまして、よろしくお願いします!」と、ハグして挨拶。

 アドリアーノの車で彼の家へ。後から判ったことだけれど、駅からはバスで停留所2つ分。歩いても15分かからないくらい。
 アドリアーノの家は、アパートの、あちらで言うところの4階、こちらで言うところの5階にあり、エレベーターなし。ちょっと青くなる(笑)。しかしスーツケースは彼らが運んでくれ、私も喜んでそのサービスをお受けする。
 アドリアーノの家は、整理整頓がきっちりされていて、シンプルだけどものすごく綺麗。長年の私の作品のファンだということで、壁には透明アクリル額に入った、私の作品画像をトレーシングペーパーにプリントしたものが飾られていて、それもとてもおしゃれ。
 夕飯はそこで内輪の食事会で、それまで予定はなしということなので、シャワーを浴びて一眠りさせて貰うことに。
 成田で飛行機に乗ってから、ボローニャ中央駅に到着するまで、乗り継ぎ時間なども含めて、ほぼ24時間が経過。その間ずっと靴を履きっぱなしだったせいもあり、脱いだ靴下がすごく臭い(笑)。

 夕刻。目がさめるとお客さんが。アドリアーノの元彼で、以前は一緒にここに住んでいたという、ボローニャの斜塔近くでレストランをやっているサウロと、そのお母さん。
 しばらくするとお母さんが帰り、入れ替わりにニーノと、そのパートナーで同じくRen Booksスタッフのファビオが到着。面子が揃ったので、ディナー開始。
 まずサウロが調理してくれたパスタを食べ、続いて山盛りの生ハム類とチーズが出てきて、これをピアディーナという薄い円形の、見た目はインドのチャパティに似た焼いた生地に挟んで食べる。
 流石に食の国イタリア、シンプルながらも美味し。
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 幸い皆そこそこ英語を喋るので、あれこれ雑談しながら食事。
 しかしその最中、ニーノから、今回の渡伊に合わせて出版予定だった、イタリア語版『冬の番屋』の単行本が、まだ刷り上がっておらず、印刷屋とも連絡がとれないという話が。だ……大丈夫か?
 食後は定番、エスプレッソ。様々な色のネスプレッソのカプセルを山ほど見せられ、あれこれテイストだかフレーバーだかを説明されるけれど、ナニガナンダカサッパリワカラズなので、テキトーに「一番スタンダードなやつプリーズ」で選んでもらう。

5月28日
 アドリアーノと朝ご飯を食べた後、一緒にバスでマッジョーレ広場へ行き、ニーノと待ち合わせ。
 広場にあるネプチューンの噴水、素敵。制作はジャンボローニャ。
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 ニーノとアドリアーノの案内で、観光開始。
 まず、外壁にパルチザンの遺影が飾られた市庁舎へ。中には図書館やカフェ、展示スペースなどもあり、中央ホールの床がガラス張りになっていて、その下にローマ遺跡があるのが見える。後日、中にも入った。
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 続いて、サン・ペトロニオ聖堂。地獄絵を見ながらアドリアーノが、「あそこに描かれているのが、爆破予告騒ぎを引き起こしたムハンマドの絵だよ」などと教えてくれる。
 ちょっとだけ歩いて、アルキジンナージオ宮(旧ボローニャ大学)へ。世界初の人体解剖が行われたという美しい木造の階段教室や、ロッシーニ『スターバト・マーテル』初演が行われた紋章だらけのホールなどを見学。
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 お次は、サンタ・マリア・デッラ・ヴィータ教会。キリストの死を嘆くテラコッタ群像があるのだが、その表現は15世紀の作品とは思えない驚愕のモダンさ。
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 とは言えゲイ3人組らしく、私「ティルダ・スウィントンに似てない?」、ニーノ「いや、メリル・ストリープに見える」などという戯れ言も飛び出す(笑)。

 そこに、サウロが合流。
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 左から、サウロ、ニーノ、私、アドリアーノ。
 市場らしきところを通り、古い建物の中をモダンな本屋や食品店に改装したオシャレな店などを見つつ、サウロのレストランへ行き昼食。
 せっかくボローニャへ来たので、ボロネーゼ・ソースのパスタ(多分フィトチーネ)を食べる。美味し。
 デザートに頼んだプディングの、カラメル・ソースのあまりの美味しさに、お皿を舐めたくなる衝動をぐっと堪えて、6月6日に出版発表会&サイン会をする予定の、LGBT書店イゴールへ移動。

 店内に入ると、小型犬がもの凄い勢いで吠えまくられる。この犬の名前がイゴール。後で気がついたけど、店の扉には歯を剥き出して吠える彼の写真と一緒に「イゴールは吠えるけど噛みません」という貼り紙があった(笑)。
 じきにイゴールも静かになった店内は、とても綺麗。自分の本や、他の日本人作家の本も陳列。ニーノが店主と打ち合わせをしているのを尻目に、店内をあれこれ物色していたら、アニメ版『風と木の詩』のイタリア版DVDも発見。
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 アドリアーノはここで仕事へ。

 イゴール書店を後にして、今度は明日から拙個展が始まるギャラリー、オノ・アルテへ。
 古い物静かな路地に突然現れる、オシャレなエントランス。複数の展示スペース、バーカウンター、レコード屋などが合わさった施設。
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 私の個展は、地下にあるちょっと洞窟っぽいスペースで。覗いてみたら、展示の準備中。良い雰囲気で、いい感じ。
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 6月7日にNipPopのワークショップを一緒にやる予定の、在ボローニャの日本人マンガ家、市口桂子さんとも、このギャラリーで発対面。ワークショップ用の軽い打ち合わせや、準備伝達事項などをあれこれ。

 オノ・アルテの後は、ニーノの家の前まで行き、そこでファビオに挨拶してから、同じ建物に住んでいるニーノの友人二人(ゲイ男性一人、ヘテロ女性一人)と合流して、どこかの広場に面したレストランのテラス席で4人で夕食。仕事があったファビオは来られず。
 ニーノたちが私のために、イタリア語のメニューを悪戦苦闘して英訳してくれていると(どのくらい悪戦苦闘かというと、野菜は全部『ベジタブル』とまでしか訳してくれず、『いやどんなベジタブルなのさ(笑)』と訊くと、Googleでイメージ検索を始め……といった具合)、店の人があっさり英語のメニューを出してくれて拍子抜け(笑)。
 昨夜はパスタだったので、今度はピザを注文。予想はしていたけれど、デカい。美味しいけど、日本だったら3人前くらいありそう。でも頑張って完食。

 夕食の後は、友人宅でちょっと一服。TVに映っていたラファエラ・カラという女性を、「彼女はイタリアのゲイ・アイコンなんだ」と説明されて、YouTubeで若い頃の映像を見せられる。

 そこで私も、山本リンダ『狙いうち』で対抗(笑)。

 ひとしきり歓談した後、アドリアーノの仕事先へ。例のサウロのレストランを手伝っている。
 仕事が終わるのを待って、アドリアーノ一緒にバスに乗って帰る。

5月29日
 朝。アドリアーノと一緒に朝食をとった後、彼はジムへ。私は昼までフリータイムなので、バスに乗って再びマッジョーレ広場へ。
 広場からそぞろ歩きを兼ねて、まず斜塔へ。いかにも古いわ、けっこうしっかり傾いているわで、けっこう怖い(笑)。
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 斜塔の近くには、先日サウロが教えてくれた、普段は覆われているけれどこの時期だけ公開されているという、聖母子像があるバルコニーなどが。
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 それから、サン・ジャコモ・マッジョーレ教会へ。ボローニャで最も美術品に彩られた13世紀の教会とのことで、確かに内部は絵だらけなのだが、いかんせん暗いわ、絵は高いところにあるので近づいて見られないわで、美術鑑賞をするには不向きな環境。もっともこれは、この教会に限ったことではないけれど。オペラグラスでも持ってくれば良かったな……と、ちと後悔。
 続いてお隣の、サンタ・チェチェリア祈祷堂へ。ここは天井も低くこぢんまりとしたスケールで、堂内も照明で明るいので、三方の壁に描かれた聖チェチェーリアの生涯のフレスコ画を、じっくり堪能できた。BGM的に流れているクラシック声楽も良い雰囲気。撮影は禁止だったので、堂内で売られていた薄いパンフレットを購入。
 祈祷堂から出て、通りとは反対側にちょっと奥に入ると、気持ちの良い中庭が。天気も雰囲気も良く、しばしそこで寛ぐ。
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 通りに戻ると、すぐそこがまた広場。壁の表示を見るとジュゼッペ・ヴェルディ広場とあり、大学が近いのか若者で溢れている。斜め前にはボローニャ歌劇場も。
 ベンチに座って寛いでいると、ニーノからSMS。お昼を一緒に食べようというので、またマッジョーレ広場に引き返し、噴水で待ち合わせ。そこに向かう途中で、高校生くらいの女子集団に「マクドナルドはどこですか?」と道を訊かれる。ゴメン、おじさんはツーリストなんで判らない(笑)。

 ニーノと合流して、近所の店でお昼ご飯。彼と同じ、叩いて平べったく伸ばしたチキンカツ的なものと、チーズのフライを食べてみる。美味しい。
 ここでグッドニュース。先日懸念していた『冬の番屋』イタリア語版、無事に刷り上がってニーノのところに見本が届いたとのこと。サイン会に間に合って良かった(笑)。さっそく一冊貰う。
 ランチが終わったところで、ニーノとはいったんバイバイ。わざわざこのためだけに時間を作ってくれたのかな、ちょっと申し訳ない。
 個展オープニングは、この日の18:00からなので、17:30に直接ギャラリーで待ち合わせることにして、私は観光を続行。さっきの歌劇場のちょっと先に、国立絵画館があるはずなので、また同じ道を引き返してそこへ向かう。
 絵画館はそんな大きくはないけれど、中世からルネッサンス、バロックあたりまでの、なかなか良い作品が揃っているし、人もあまりいないので、ゆっくり美術鑑賞を楽しめた。

 中世絵画。かわいい(笑)。
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 フレスコ画。描きかけなのか、下絵が残っているのが新鮮(……と思っていたら、後日ピサでフレスコ画の下絵だけの美術館に行くわけだが)。
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 このティツァーノの磔刑画は良かった。しばし目が釘付けに。
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 グイド・レーニが充実。
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 グエルチーノも幾つか良い作品があって、いろいろと目の保養に。
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 オノ・アルテ・ギャラリーで、個展のオープニング。
 まずはトークショー的なもの。
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 左から、ラジオ番組のホスト女性、ニーノ、私、通訳の方、NipPopのパオラ。
 話題は色々出たけれど、どちらかというと私個人の作品についてよりも、日本のゲイ文化やゲイマンガ全般に関する質問が多かった。これはこのトークショーに限らず、後日行われたイゴール書店でのトークでも同様。
 事前にメールで質問されていた、イタリア文化からの影響という話で、私がカラヴァッジオやパゾリーニ、グイド・クレパックスなどの名前を挙げていたせいもあって、それ絡みの話題も。パゾリーニの『ソドムの市』をマンガ化しようとは思わないか、なんて質問もあって、同様のことはボローニャ滞在中に何度か訊かれた。
 トークショーが終わると、飲み物が用意されて上階でパーティ。私はサインやら記念撮影に応じていたため、なかなかそっちには参加できず。
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 一段落ついたところで、タバコを吸いに外に出ると、ゲストは路上にも溢れていて、実に賑やか。

 現地のアーティストさんとか、他にも色々な人に紹介されるけれど、いかんせん外国の名前は一発では覚えられない(笑)。

 パーティがひけた後は、ニーノとファビオ他、十人くらいで連れ立って食事に。
 ニーノの説明によると、スペインの居酒屋的な店だそうで、大皿に盛られた料理がドーンと出てきて、それを好きにつまみながらお酒を飲む感じ。ただし私は飲めないので、水ばっか。ここで出てきたブルスケッタが、これまた美味しくて感激。ボウルに山盛りのカルボナーラもすごかった(笑)。
 私のテーブルには、近くにニーノとファビオ、そして日本のマンガとアニメ好きで、去年日本旅行もしたという、レズビアン・カップルが一緒に。英語が堪能でパワフルなヴァレンティーナと、ちょっとシャイなゴリツィア。
 そういう面子なもんだから、自然と話題は日本のアニメとかになり、『セーラームーン』とか『まどマギ』について、熱く語り合う(といっても私は『セーラームーン』には疎いんだけど)という結果に。変な方向で濃い(笑)。

 食事がひけたときには、もう遅い時間。
 バスは動いていないというけれど、ヴァレンティーナが車で送ってくれると。5人で車に乗り込み、まずアドリアーノの家まで行き、先に私だけ降ろしてもらう。
 明日からはしばらくボローニャを離れるので、ニーノたちと「また一週間後にね」とハグしてバイバイ。
 合い鍵を使って家に入ったら、アドリアーノがまだ起きていて、良く眠れるというハーブティーを淹れてくれた。