6月2日
フィレンツェ観光スタート。
まず予定通り、最初にサンタ・マリア・ノヴェッラ教会のツーリスト・インフォメーションへ行き、フィレンツェ・カードを購入。美術館や名所旧跡が予約不要で72時間フリーパス(ただし一ヶ所につき一回のみ)、バスやトラムが無料、市内数カ所にあるフリーWi-Fiスポットの利用も可能になるカード。72ユーロ。
さっそく買ったその場でアクティベートしてもらい、サンタ・マリア・ノヴェッラ教会のミュージアムへ。
続いて堂内も観光。
教会前の広場に出て、Wi-Fiが繋がるかどうか実験。
前日にホテルで、スマホにフィレンツェ・カードのアプリをインストールして、各名所の営業時間や休館日などを調べて、今日回る場所の目星を付けていたので、まずはサン・マルコ美術館にフラ・アンジェリコを見に行くことにする。
移動途中にメディチ家礼拝堂があったが、今日は休館日なので場所だけ確認してスルー。
サン・マルコ美術館でフラ・アンジェリコを堪能。美しい。
残念ながら室内は撮影禁止なので、売店で全フレスコ画が収録されているっぽい画集を購入。
別室展示のテンペラ画も堪能。こちらは以前、凝った編集の大判輸入画集を購入しているので、ようやく現物が見られたと感激。
次はバルジェッロ国立博物館へ。ミケランジェロやドナテッロの彫刻を堪能しつつも、こちらも室内撮影禁止。
なので、オープンスペースにあった、オケアノスのセクシー彫刻(ジャンボローニャ作)をパチリ。
バルジェッロでは、バッチョ・バンディネッリの企画展も開催。彫刻と油彩、どちらも男体表現に奇妙な艶めかしさがあって、不思議と惹かれる。
売店で売っていたバンディネッリの画集が欲しかったけれど、あまりの大きさと厚さと重さに断念。昔だったら無理してでも買っていたところだけれど、最近は「ま、いいか、帰国してからネットで探そう」とか、つい思ってしまう。
シニョリーア広場へ移動。セクシーなネプチューンの噴水(バルトロメオ・アンマナーティ作)にご挨拶。
そしてヴェッキオ宮殿へ。
まずは入り口脇にある、これまたセクシーなヘラクレスとカークスの彫刻(さっき企画展を見たバンディネッリ作)をパチリ。
ヴェッキオ宮殿は前に来たときに見ているので、時間がなければスルーしようかとも思っていたけれど、やはり大広間にある、若かりし頃の自分が見て大ショックを受けた《あの彫刻》を再見したかったので入ることにした。
それがこれ、ヴィンチェンツォ・デ・ロッシ作、ヘラクレスとディオメデス。
やっぱ良いわ〜。帰国してから作者の伊ウィキペディアを見たら、この彫刻について、”permeata di una forte connotazione erotica omosessuale (imbued with a strong erotic homosexual)”と書いてあった。
この大広間には、他にもステキ彫刻いっぱい。
ミケランジェロの「勝利」が色あせて見えるくらい……ってのは、単に私の目がヨコシマなだけだろうが(笑)。
その後は、宮殿内部をじっくり堪能。ヘラクレスの間とかがあると、つい歩みも遅く。
しかし改めて、壁やら天井やらにヒゲのオッサンのヌードが、至る所に溢れているというのは、つくづく不思議な感じがします。
また、ブロンツィーノが壁画を手掛けた部屋にも感心。有名な「愛のアレゴリー」がどうにも好きになれず、自分的にはずっとイマイチな人だったんですが、昨年ニューヨークで、フリック・コレクション収蔵作を見て感心して以来、最近お株が急上昇。
結果、売店で売っていた画集まで買っちゃったりして(笑)。
売店では、こんな絵本も衝動買い。タイトルを訳すと『トスカーナのいたずらっ子』か『茶目っ気のトスカーナ』?
シエナにあるフレスコ画に描かれている、この豚(チンタ君)が、同フレスコ画に描かれている当時の生活風俗様々を、豚の視点で面白く解説してくれるというもの。
また、ヴェッキオ宮殿ではちょうど、ジャクソン・ポロックの企画展が開催中。場所と作品のミスマッチぶりが興味深い。ポロックがミケランジェロの絵などを模写したデッサンなども展示。この人の描いた具象画って初めて見たかも。
ヴェッキオ宮殿を出たあと、まだ時間がちょっとありそうだったので、サンタ・クローチェ聖堂へ行くことに。
堂内のフレスコ画が美しいけれど、やはり暗い&遠くて良く見えないのが残念。オペラグラスを持ってくるべきだった……と、再び後悔。
でも、ミケランジェロのお墓参りはできました。
付属ミュージアムでは、再びブロンツィーノに感心。
中庭では、Benedetto Robazzaというコンテンポラリー作家の、ダンテ『神曲』をモチーフにした大きなレリーフ連作も展示されていて、これもなかなかの見応え。
というところでタイムアップ。
一日目の観光終了。
6月3日
まずは、昨日前を通ったメディチ家礼拝堂へ。入り口には既に列ができていたけれど、フィレンツェ・カードを見せると並ぶことなく入場できた。
内部は一部補修中で足場が組まれている。大理石モザイクの剥落エトセトラを解説しているビデオをちょい見した後、お目当てのミケランジェロの彫刻へ。
ためすすがめつ眺めつつ、あ〜この角度からの写真を撮りたいけど撮影禁止……と、ちと恨めしい思いに。
そしてウフィツィ美術館へ移動。
入り口には長蛇の列。しかしフィレンツェ・カードのおかげで、またもや二分も待たずにするりと入場。
実は30年前にフィレンツェに来たとき、それは美大主催のヨーロッパの美術館巡りのツアーだったんですが、なんとフィレンツェ滞在がウフィツィ美術館の休館日と重なっており、わざわざ来たのに見られなかったという恨みが。というわけで、私にとっては30年越しのリベンジとなるわけです。
そんなこんなで、丸一日かけてもいいくらいのペースで、ゆっくりじっくり美術鑑賞。昼食も美術館内のカフェでとりました。
でもここも撮影禁止なので、「おっ」と思った作品があっても記録に残せず。残念だな〜と思いつつ、オープンスペースにあった二体のマルシュアス像だけは、どうにも我慢できずにスマホでパシャリ。
4〜5時間かけて美術館を堪能した後、ミュージアム・ショップを覗いたら、売られているグッズ類の余りのセンスの酷さに眩暈がする。鉛筆やらハンカチやらTシャツやら、ありとあらゆるものにボッティチェリのビーナスが印刷されていて、いや、こんな世界に誇れるコンテンツを持ちながら、ミュージアム・グッズは安い路上の土産物と大差ないって、ちょっと……と、ウムムな気持ちに。
ウフィッツィの後は、ヴェッキオ橋を渡ってラ・スペコラへ。Twitterで「フィレンツェだったら、自分はラ・スペコラが好きです」というメンションをいただき、初めて「あ、あれフィレンツェにあるのか、じゃ見に行かなきゃ!」となった次第。
お目当ては、ここの人体解剖蝋人形なのだが、基本が自然科学博物館なので、蝋人形に辿りつくまでには、とにかく剥製の山、山、山。
最初のうちは虫の標本だったけれど、やがて世界のありとあらゆる鳥獣の剥製が、陳列ケースにあふれかえった小部屋が、行けども行けども続く。オマケに人はほとんどいない。剥製が嫌いな私には、もう怖すぎ(笑)。
その最後に、件の蝋人形の展示。学問と芸術と悪趣味の狭間にあるような、なんとも奇っ怪な美。
堪能しつつも、いささか毒気に当てられた感じで、ラ・スペコラ退場。
開館時間中に、もう一ヶ所どっか間に合うかな……と調べたら、ストロッツィ宮殿で開催中の、ポントルモとロッソ・フィオレンティーノの企画展が、遅くまでやっていることが判ったので、それを見に行くことにする。
二人の師匠でもあるアンドレア・デル・サルトの作品も含め、かたや大胆な作風で好評を博し、メディチ家お抱え絵師としてフィレンツェで名を馳せたポントルモと、かたやサヴォナローラに傾倒して作風も保守的、フィレンツェでは仕事がなく後にフランスで名声を得たロッソという、二人の作品と人生を比較対象させながら展示した内容。
そういったキュレーション自体は面白く、解説が全て英文併記であったり、子供向けに質問形式で「……ということについて考えてみましょう」といったコーナーが各室にあったりと、展示手法自体は興味深かったんですが、残念ながら作品そのものが、私にはあまりピンと来ず。
とはいえ何となく、マニエリスムの再評価が今でも進行中なのかな……と思ったり、それと自分の中でのブロンツィーノのお株上昇も重なって、印象深い企画展ではありました。
6月4日
まずはアカデミア美術館へ。これまた入り口は長蛇の列なれど、フィレンツェ・カードですんなり入場。
ミケランジェロのダヴィデ像は、展示スペースの効果もあって、流石の神々しさ。当たり前だけど、シニョリーア広場にあるレプリカとは違う。
また、手前に配置されている「奴隷」の未完成作品群も印象深い。未完というけれど、ひょっとしてこれでOKと思って手を止めたのではないか、などと想像したくなる、モダンな美しさが。これとか、これとか。また、「おそらくミケランジェロ作」のパレストリーナのピエタの、力強い美しさにも感動。
周囲の絵画、奥の彫刻、上階の中世絵画なども堪能して、美術館を後に。
お次は考古学博物館へ。
有名なキメラのブロンズ像は素晴らしかったけれど、他はさほど印象に残らず。また解説文が全て伊語のみなので、墳墓らしきもののレプリカとか、そこからの出土品とかが、どういう背景のものなのかが判らないので、そこいらへんも辛い。
前二日間ちょっと頑張って回りすぎた疲労と、美術品を見すぎて頭が飽和状態になってきた感もあったので、フィレンツェ観光はこれで早めに切り上げて、後はゆっくりと過ごすことにする。
明日はピサへ日帰り観光に行きたいので、体力も温存したいし(笑)。
6月5日
サンタ・マリア・ノヴェッラ駅から電車に乗ってピサへ。
ピサ駅に着いたら、こんな看板広告があった(笑)。
表示に従ってツーリスト・インフォメーションへ行き、ピサの地図をゲット。散策を兼ねて、歩いて奇跡の広場まで行くことにする。
途中で立ち寄った、河畔に立つサンタ・マリア・デッラ・スピーナ教会。とっても小さいけど綺麗。なんか宝石箱みたい。
ぶらぶら歩いていくと、屋根の向こうに有名な斜塔が見えてきて、「おっ」と思う。
更に進むと視界が開けてドゥオモが見え、「おおっ!」と思う。この瞬間は、ちょっとした感動。
そして奇跡の広場に到着。
チケットオフィスに行くと、斜塔は別料金でちと高く、それ以外に個別の券と、ドゥオモと洗礼堂、カンポサント、シノピエ美術館、博物館(ただしここだけ閉鎖中)の共通券があったので、共通券だけを買うことにする。斜塔に登るのは大変そうだし(笑)。
で、私のお目当ては、何と言ってもこの洗礼堂。
昔はピサって斜塔しか知らなかったんだけれど、父がピサで撮ってきた写真でこれを見て、「うわスゴい、行きたい!」と思っていたので。
この洗礼堂の二階から見るドゥオモも、とっても綺麗。
ドゥオモと洗礼堂の内外を見た後、カンポサントへ。
しかし妙に既視感が……ひょっとしてパゾリーニの『王女メディア』って、一部ここでロケしてた???
帰国してから『王女メディア』を再見したら、やっぱそうでした。コリントス王宮の中庭が、ピサの奇跡の広場でロケ。
奇跡の広場は観光客で大賑わいだったけれど、カンポサントの中はうって変わって静謐な雰囲気。
彫刻に彩られた墓石や剥落したフレスコ画などを眺めながら、暫しの時間旅行気分。
シノピエ美術館は、フレスコ画の下絵だけを収めた美術館。ちょうどコンテンポラリー作家の天使をモチーフとした作品とのコラボレーション展示中でした。
同じ作家の作品で、建物の外に置かれていたものが、こちら。
奇跡の広場を後にして、再び街歩きをしながら、騎士団の広場へ。
ヴァザーリが手掛けたという、カヴァリエーリ宮殿。
快晴で気温もぐんぐん上がり(確か30度超え)、湿気がないから日陰にいる分には過ごしやすいんだけれど、日向を歩くと消耗が激しい感じになってきたので、極力日陰を選びつつ(笑)ぶらぶら散策。
夕方の列車でフィレンツェに戻り、明日は再びボローニャへ移動。