“Pit Stop” (2013) Yen Tan
(アメリカ盤DVDで鑑賞→amazon.com、日本のアマゾンでも購入可能→amazon.co.jp)
2013年のアメリカ製ゲイ映画。
テキサスの田舎町を舞台に、それぞれ人生に行き詰まった感のある、ワーキングクラスのゲイ男性二人の諸々を、詩情を湛えて静かに描いたドラマ。
テキサスの田舎町。荷物の積み卸しなどを行う肉体労働者のアーネストは、病院で昏睡状態にある元彼を見舞う日々。大工のゲイブは妻子のある身ながら、やはり妻子持ちの男性との不倫が発覚、男との関係を清算し妻とも離婚したが、娘のために妻子と同居を続けている。
アーネストは自分の家に、既に関係の冷えた若いBFを居候させているが、その彼は独立して家を出て行くとは言うものの、なかなかその気配を見せない。意識の戻らない元彼に語りかけ、愛のない同居を続けるという、その停滞した日々に、アーネストは次第に焦燥感を募らせていく。
ゲイブの元妻は、彼女に好意を寄せている職場の同僚とデートをするが、歯車がいまいち噛み合わず、元夫との過去の平穏な生活を懐かしむ。そんな彼女をゲイブは優しく受け止めるが、自分を欲しいかという彼女の問いに、イエスと答えることはできず……といった内容。
良い作品でした。
ゲイ・コミュニティやゲイ・シーンなどとはほぼ無縁の、アメリカの田舎町に暮らすゲイたちと、その周辺の人々の姿を、作為的なドラマや説明的なセリフを排して、淡々としながらも情感豊かに、そして極めて自然な空気感で描いています。
何と言う事はない日々の描写と、散りばめられた日常会話が積み上げられることで、メイン二人のみならず、その周囲の人々も含めて、それぞれが置かれた状況や、その複雑な心境が浮かびあがってくる……という構成で、なかなか見応えがあります。
ドラマとしては、とりたてて何か事件が起きるわけではないんですけど、描かれるエピソードのディテールや、感情の細やかな襞を描く描写などを見ているだけでも充分面白く、それと共に各キャラクターへの愛着や感情移入も増していくという塩梅で、ここいらへんは実に上手い。
モチーフ的には、けっこう重かったり閉塞感もある状況なんですが、全体の柔らかな雰囲気や、上手い具合に挿入される箸休め的な描写によって、作品として重くなり過ぎていないのも佳良。
アメリカものとしては珍しく、日本のゲイ状況と似た部分が多いのも興味深いポイント。
メインキャラクター二人が、どちらも三十代半ばの中年男性だというのも効果的。人生を長く過ごしている分、様々なしがらみも生じており、若い人のように全てを精算してやり直すとか、この田舎町を出て行くといった選択肢が難しいことが、若い元BFとの対比もあって、より良く浮かびあがってきます。
また、メインの二人のみならず、元BF、元妻、元妻に好意を寄せている彼女の同僚、ゲイをオープンにしていないゲイブに対して、ひょんなきっかけから接近してくる、やはりクローゼットの中年ゲイ男性……といった、周囲の人々の姿や思いなども、ちょっとしたエピソードやセリフの端々で見えてくるのも魅力的。
つまり、メインのフォーカスはアーネストとゲイブの二人ではあるけれど、彼ら同様に他の人々も皆、それぞれが大小様々な悩みや思いを抱えており、それぞれにドラマがあるという感じ。そしてメインのゲイ由来のドラマも、そんな「世の中に普通にある光景」の1つという感じ。
ちょっと情緒に流れがちな傾向はあるものの、演出や撮影のクオリティは高く、役者の演技も文句なし。作為や予定調和は排しながらも、仄かなロマンティシズムを秘めた予感で幕を引く、その後味も上々。
というわけで、丁寧に作られた良作でした。単館系の映画が好きな人にオススメできる一本だと思います。
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