“Jack and the Cuckoo-Clock Heart” (2013) Mathias Malzieu & Stéphane Berla

Blu-ray_Jack&TheCuckooClockHeart
“Jack and the Cuckoo-Clock Heart (Jack et la mécanique du coeur)” (2013) Mathias Malzieu & Stéphane Berla
(アメリカ盤Blu-rayで鑑賞→amazon.com

 2013年のフランス/ベルギー製長編アニメーション。心臓の代わりにカッコー時計が埋め込まれた青年の物語で、フランスのバンドDionysosのコンセプトアルバム/小説の映画化。
 フランス語原題は”Jack et la mécanique du coeur”。

 19世紀末のエディンバラ。史上最も寒い日に生まれた赤ん坊ジャックは心臓が凍り付いており、魔女マデラインは彼を救うために、心臓の代わりにカッコー時計を埋め込む。
 こうして命を救われたジャックは、そのままマデラインに育てられる。ジャックは時計のネジを巻きながら、すくすくと成長するが、他に守らなければならない3つのことがあった。それは、時計の針に触らないこと、怒りの感情を抑えること、そして決して誰も愛さないことだった。これらを守らなければ、カッコー時計は狂い、ジャックは死んでしまう。
 しかしジャックは、初めて街に出たときに、手回しオルガンを演奏しながら歌っている少女に恋をしてしまう。時計は狂い、ジャックはすんでのところでマデラインに救われるが、少女の服が学校の制服だと知り、自分も学校へ行きたいと、マデラインに頼む。
 学校で、その少女の名前がミス・アカシアだと判るが、彼女は既にエジンバラを離れた後だった。そしてジャックは胸のカッコー時計のせいで、陰険な教師を筆頭に皆からいじめられ、やがてそれが原因で不幸な事故が起きてしまう。
 マデラインの手で警察から逃れたジャックは、汽車で知り合った不思議な男ジョルジュ・メリエスと共に、ミス・アカシアを探してヨーロッパを縦断し、アンダルシアにある《驚異の遊園地》へ赴くのだが……といった内容。

 なかなかの見応え。
 特異な設定を活かした恋愛奇譚を、ジョー・マグナイニ(ジョゼフ・ムニャイニ)、エドワード・ゴーリー、ティム・バートンあたりと通じる感覚のキャラ&美術と、美麗な3DCGアニメーションで見せる、ちょっと大人向けのファンタジー。ラストの切なさが特に印象的。
 美術は非リアル系ですが、演出やカメラワークなど映画としての見せ方自体は、全般的に実写風。ハリウッド製のメジャーな3DCGと、同じような系統です。
 ただその合間合間に、舞台劇風だとか切り絵アニメーション風だとかいった、本編とはテイストを変えたアートアニメーション寄りの表現手法による見せ場が挟まったりして、個人的にはそっちの方が魅力的に感じられました。
 ストーリー自体は、完全に大人もしくはヤングアダルト向けという感じで、恋愛のロマンティシズムや童話的なファンタジックさを湛えながらも、世界を捉える視点自体はシビア。予定調和的な甘さがなく、また表現的にも、子供向けのマスコットキャラを出すとかいったクリシェに捕らわれていないので、そこいらへんは何というか《ヨーロッパ的》な感じで、かなり好みのタイプ。

 音楽のコンセプトアルバムが元ということもあり、挿入歌やミュージカル風場面も多し。予告編から想像していたよりは、わりとロック/ポップス寄りの音楽で、そこは正直なところ、私の好みとはちょっと合わず。もうちょいアヴァンポップっぽい感じを期待していたので。
 そのバンドのVo.で小説版の作者でもある人が、この映画でも共同監督/主演声優/音楽(バンド名義)を兼任しており、なかなかのマルチタレントぶり。
 反面、ちょっとワンマン的に閉じている感もあり、イマジネーションの飛躍度という点では、まぁそこそこという感じもあり。というのも、もちろんあちこち面白いイメージは盛り沢山なんですが、でもどこか既視感もあるという感じなので、独創性という点では少し物足りなさがあるので。
 ただ、前述した切ないラストシーンの、その詩的なイメージは素晴らしいの一言。ストーリーのエモーショナルな展開とも相まって、かなりグッときました。

 ともあれ、ユニークな発想による波瀾万丈のストーリーを、アーティスティックな美麗さと娯楽映画的なダイナミズムの両方で描き、ラストは綺麗で切なくて詩的でウルウル。
 お楽しみ所はタップリな一本です。