世界の史劇映画傑作シリーズ DVD-BOX Vol.1

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 先日発売された『世界の史劇映画傑作シリーズ DVD-BOX Vol.1』の収録作を全て見終わったので、個々の感想をまとめてアップ。

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『キング・オブ・キングス』(1927)セシル・B・デミル
“The King of Kings” (1927) Cecil B. DeMille

 キリストの後半生を描いた、セシル・B・デミル監督の1927年サイレント版。
 いちおう福音書に則って描いた内容ではあるものの、独自アレンジあり、スペクタクル場面もバッチリ、通俗娯楽性もガッツリ……と、いかにもデミル作品という感じで楽しい大作。

 もうのっけから、マグダラのマリアを高級娼婦という設定にして、豪奢で退廃的な宴会で肌も露わな衣装で豹と戯れたりしているところに、最近自分をお見限りのイスカリオテのユダが、イエスとかいう乞食宗教者の元に出入りしていると聞いてオカンムリになるという、独自すぎる導入部。
 そしてマグダラのマリアは、イエスが盲人を治癒しているという話に「それよりアタシの魅力で目が見えなくなった男の方が多いわ!」なんてビッチな台詞をはき、ヌビア王にプレゼントされたシマウマの馬車(!)で、ユダを取り戻すためにイエスの元に乗り込むというフリーダムさ。
 でもっていざイエスと対峙したマグダラのマリアは、そこに何かを感じて怯むんですが、そこでイエスが「汝は清められた」と言うと、半透明の不気味な人間の形をした《七つの大罪》が、オカルト映画の除霊よろしくマグダラのマリアから離れていく……って、これもう面白すぎでしょう(笑)。

 まぁ残念ながら、ここまでフリーダム展開なのはこの導入部だけで、後はだいたい福音書のエピソードの抜粋になるんですが、それでも福音記者マルコをイエスに足を治癒してもらった少年キャラにして付き従わせるとか、映像という視覚言語を駆使してエピソードに判りやすさを追加するとか、色々と面白い。
 また、映画的な娯楽性を踏まえてエピソードをツギハギしたり入れ替えたりしていて、例えば、イエスが神殿から商人を追い出したところに、ユダの先導によるエルサレム入城時のホザンナを持って来て、それと平行してサタンによる荒野の誘惑が描かれたりするので、そういった工夫も面白い。
 映像という視覚言語による表現という面では、最初しばらくイエスの顔は出さないでおいて、盲目の少女が奇跡によって癒され、初めて光を見る少女一人称カメラ視点で、初めてイエスの顔が画面上に登場するなんて演出は、「これは上手い!」と感心させられたり。
 あと、イエスに被せる茨冠の茨をどこから持って来たのかとか、ユダの首つり縄がどこから持って来たのかとか、そういった具合に、良く知られた図象やエピソードに、ちょっとした理由付けや前振りが加わってるあたりも面白い。とにかく「判りやすく、面白く、無理のなく」という配慮がいっぱい。
 配慮というと、反ユダヤ色が出ないように気をつけたのか、大祭司カイアファを物欲にとらわれた悪党という設定にして、イエスの逮捕から処刑に至る責任を、その悪党一味のみに負わせ、ユダヤ教やユダヤ人の総意とは全く無縁のものとして描いているあたりも興味深かった。
 スペクタクル性では、エルサレム神殿の門のデカさとか大勢のモブとか、要所要所でスケール感タップリの見せ場が。そして磔刑の後の天変地異が、これまたハンパないディザスター描写で、いやぁ受難劇の天変地異でここまで派手なのは初めて見たかも。そのまま世界が滅びそうな勢い。
 と言う具合に、色々と面白い要素が盛り沢山。これ系の映画にありがちな退屈さは、独自のアレンジで巧みに回避して、最後にはなんか力業で感動っぽいところに持っていく……と、ホント「デミル映画!」って感じで面白かったです。

 日本盤DVDは、画質は佳良だしピアノ伴奏も画面に合っていて、これだけを独立して見る分には何の文句もないんですが、米クライテリオン盤DVDだと、日本盤と同じ後にリカットされた112分版と一緒に、オリジナルの155分版の両方をレストアしたものが収録されているので、それと比べると残念。
 あと、米クライテリオン盤では、オリジナルの二色テクニカラーになる部分が、そのまま収録されているんですが、日本盤は全編モノクロなので、これもやっぱり、比較してしまうと、ちと残念。
 ……って、今、米盤DVDのスペックを確認しに米アマゾンの商品ページを確認したら、ちゃんと「貴方このDVDを2004年×月×日に買ってますよ!」という注意書きが出たので、ビックリしたw というわけで、10年ぶりの鑑賞だったみたいです。時の流れが早い… …。

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『ノアの箱船』(1928)マイケル・カーティス
“Noah’s Ark” (1928) Michael Curtiz

 ノアの方舟の物語を描いたアメリカ映画。第一次大戦勃発時に欧州にいたアメリカ青年とドイツ娘のすれ違いラブロマンスに、劇中の挿話としてノアの方舟のエピソードがスペクタクル史劇的に描かれるという、パートトーキー作品。
 面白かった。まず一次大戦パートの方。オリエント急行に主要登場人物が乗り合わせ、それが事故に遭うと同時に戦争勃発という導入から快調。他にもあれこれ見せ場を挟みながら、戦場を舞台にしたすれ違いロマンス劇が展開。キャラも良く立っていて、クリシェながらも面白く見られる。
 そして、一次大戦パートと同じ俳優が演じるノアの方舟パート。フルスケールのセットとすごいモブには圧倒されるし、ミニチュア特撮も楽しい。ノアの方舟の話に、サムソンとデリラや十戒の名場面も混ぜちゃいましたみたいな展開には、ちょっとビックリしちゃいましたが、そのぶん娯楽性もタップリ。

 2つのパートの接続には、正直かなり無理があるんだけれど、それを通じて言わんとしたかったことは明解。そして現代の視点で見ると、第一次大戦を指して「このような戦争は二度と繰り返すまい」というメッセージが、その10年後には早くも破られてしまったという事実にも考えさせられます。
 ヒロイン役のドロレス・コステロという女優さんが、メリル・ストリープが美人になったみたいな感じで、とっても魅力的だなぁ……と思って見ていたんだけど、この方、ドリュー・バリモアのお祖母ちゃんなのね。びっくり。
 スペクタクル好き&特撮好きだったら、古代パートだけでも見る価値大。いや〜満足、満足。

『ノアの箱船』再公開時の予告編

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『暴君ネロ』(1932)セシル・B・デミル監督
“The Sign of the Cross” (1932) Cecil B. DeMille

 タイトルバックで早くもローマが炎上していてビックリしたのだが(笑)、原題は「十字架のしるし」で、別にネロを描いた話ではなく、ネロ治世下のキリスト教徒迫害を描いた、『クォ・ヴァディス』みたいな話。
 というわけで、メインとなるのは美しいキリスト教徒の娘と、彼女に恋をしてしまったローマ軍人(しかも名前はマーカス)の話で、それをネロの后であるポッパエアが嫉妬し、クライマックスは闘技場…って、もうまんまクォ・ヴァディス。でもって最後だけ『聖衣』みたいになる話でした。
 そういうわけで、内容的にはクォ・ヴァディスのバッタもんという感が否めないし、しかもペトロニウスがいないクォ・ヴァディスなもんだから、まぁ何とも薄っぺらいこと夥しいんですが、それを抜きにすれば、いかにもデミル作品らしい派手な見所が横溢した、楽しい一本。

 美術や衣装はゴージャス感たっぷり、巨大セットやモブはスケール感ばっちり、判りやすくエモーショナルな表現もあれば、エログロ見せ場もバッチリ。良くも悪くも通俗的で扇情的な見せ場の積み重ねで、観客をグイグイ引っぱっていく。
 特にクライマックスで延々と続く闘技場の見せ場は、ここはほとほと感心。セットやモブのスケール、闘技場で繰り広げられる見せ物的な見せ場の数々はもとより、そこに移動撮影やカットバックで集う観客の小芝居も見せ、ここいらへんは本当に上手いな〜と思う。
 で、その見せ物の方も、剣闘士なんてほんの前座。罪人の処刑で象に踏みつぶされるわ、全裸に花綱という姿で縛られた女性に複数のワニが忍び寄るわ、ピグミーという設定の黒塗りの小人軍団 VS アマゾネス軍団の戦いはあるわ……これでもかこれでもかの釣瓶打ちに、もうホント感心。

 ヒーローとヒロインに人物造形的な魅力がないのが難点ですが、そのぶんクローデット・コルベール演じるポッパエアと、チャールズ・ロートンが付け鼻で演じるネロの面白さが、出番はさほど多くないにも関わらず、ぐっと引き立っています。
 コルベールはミルク風呂入浴というお色気見せ場もあり。ポッパエア(ポッペア)のミルク風呂というと、私はどうしても沼正三の『ある夢想家の手帖より』を連想してしまうんですが、流石にあんなマゾ展開はないにせよ、猫がピチャピチャやってたりして、しかもだんだん猫の数が増えたりするのが楽しい。
 というわけで、内容自体は薄っぺらいですが、スペクタキュラーな見せ物としては、それを補って余りある面白さ。ラストはいかにも強引ですが、それでもその前段では、ちょっとグッとくる場面なんかもあり。史劇好きなら見て損はなし。

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『ファビオラ』(1949)アレッサンドロ・ブラゼッティ
“Fabiola” (1949) Alessandro Blasetti

 1949年のイタリア/フランス映画。ディオクレティアヌス帝時代のローマで、皇帝をも凌ぐ財力を持つ家の娘ファビオラと、ガリアから来た剣闘士レアールの恋に、やがて始まるキリスト教大弾圧を絡めて描いた大作史劇。
 お見事。ヒロインとヒーローが共にキリスト者として成長していくというプロットと、キリスト教徒の増加に脅威を感じている支配層の巡らす陰謀、分裂したローマ帝国の混乱、更には聖セバスティアヌスの殉教など、実に盛り沢山な内容。
 その分、正直あちこち描き切れていない感があったり、判りにくい部分なんかもあるんですが、そこは上手いこと殺人を巡るミステリー的な興味や、個々のキャラクターが良く立った群像劇的な魅力、そして画面のスケール感やスペクタクル性で上手い具合に牽引してくれるので、面白さはバッチリ。

 画面のスケール感やゴージャス感は、これは本当に大したもので、近景だけを切り取ったり遠景を書き割り的に配置するのではなく、手前から奥まで《史劇らしい風景》が続いているのを見せるシーンはわるわ、セットはデカくてゴージャスだわ、モブはすごいわ……と、文句なし。
 スペクタクル性の方は、またもや闘技場でのキリスト教徒大虐殺大会を、仕掛けも人員もたっぷり使って、これでもか、これでもかと見せる系。『暴君ネロ』と比べると、見せ物要素は控えめですが、それでもやっぱりスゴい見せ場。
 あと、ヒーローのレアール(アンリ・ヴィダル)とセバスチャンことセバスティアヌス(後で調べたらマッシモ・ジロッティだったのね……気付かなかった)が、共に時代を考えると良い肉体で、しかも胸毛フサフサなのが、個人的には嬉しかったり(笑)。

 テーマ的には宗教色が色濃いですが(調べたら、原作は19世紀中頃にローマ・カトリックの枢機卿によって書かれた『ファビオラ 或いはカタコンベの教会』という歴史小説だそうな)、キャラクター・ドラマ自体が面白いので、さほど押しつけがましさや強引さが感じられないのもマル。
 というわけで、史劇好きなら一見の価値ありの一本。因みに相棒は、私以上に絶賛。タイトル・ロールのミシェル・モルガンも綺麗でした。

マッシモ・ジロッティ演じる『ファビオラ』の聖セバスティアヌス
fabiola-girotti

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『豪族の砦』(1953)ハロルド・フレンチ
“Rob Roy: The Highland Rogue” (1953) Harold French

 1953年のイギリス/アメリカ映画。スコットランドの義賊ロブ・ロイを、気軽に見られるアクション・アドベンチャー風に描いたものだが、製作がディズニーということもあり、雰囲気はファミリー映画や児童向け翻案小説のような感じ。
 キャラクターやストーリーや背景事情は、極めて単純化されており、史劇的な味わいは希薄。アクション・アドベンチャーとしても、ファミリー映画風味や主演男優の地味さもあって薄味な感じ。ただし、全体的に手堅く纏まってはいるし、尺が短くテンポも良いので、そこそこ楽しめる内容。
 というわけで、これはジュブナイルだと思って見るのが吉。ヒロイン役(ロブ・ロイの新妻)の女優さんが、『メリー・ポピンズ』のバンクス家のお母さん(グリニス・ジョンズ)の若かりし頃だった。まだ娘々した雰囲気だけど、あの特徴的なペチャッとした声は変わらず。

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『悲恋の王女エリザベス』(1953)ジョージ・シドニー
“Young Bess” (1953) George Sidney

 アメリカ映画。戴冠前の若きエリザベス1世の要素を、ドロドロ要素は控えめに、少女の成長&トマス・シーモアへの恋情などを軸に描いたもの。
 ロマンティック史劇として手堅い出来映え。
 エリザベス(ヤング・ベス)にジーン・シモンズ、キャサリン・パーにデボラ・カー、ヘンリー8世にチャールズ・ロートン……と、いかにも適材適所な感じの配役が効果大で、例え予定調和的ではあっても、それぞれがしっかり魅力的な演技を見せてくれるのが良かった。
 基本的に女性映画のような作りなので、スペクタクル的な見所はないけれど、セットや衣装のゴージャス感はバッチリ。色彩もなかなか。
 前半部ではユーモラスな描写もちょくちょく入り、けっこう笑ってしまった。《はい再婚→はい斬首》というブラックな笑いが、特にツボ(笑)。
 善悪ハッキリ&物事を単純化というパターンながら、少女の成長というジュニア小説的な軸がしっかりしているので破綻もなく、映像的なクオリティも高いので楽しめる一本。

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『邪悪なイゼベル』(1953)レジナルド・ル・ボーグ
Sins of Jezebel (1953) Reginald Le Borg

 旧約聖書列王記を元にした史劇……なのだが……安っ!(笑)
 セットも衣装も小道具も何もかもが安っぽくて、きっとすごく低予算。もう宮殿の石壁とか、模造紙にマジックでレンガ状の線を引いただけみたいに見えるくらい(笑)。
 当然スケール感も滋味も皆無。主演ポーレット・ゴダードも、それを保たせることはできず。
 ただ、時系列を短縮してロマンス要素を入れることで、イゼベルへの同情的な視点も加えているアレンジは、ちょっと興味深かった。あと、物語の枠外から見ると、宗教に基づく不寛容について考えさせられるあたりは、旧約聖書ものを見ていて良く感じるパターン。
 しかし、低予算史劇はそれなりに見ているけれど、ボディービルダー主演のイタリア製B級史劇なら、まぁ話の内容自体が高級ではないので、そこそこ楽しく見られるんですが、こういう、内容は本格系なのに画面が度を超して安いというのは、見ていてかなり辛いものがあるなぁ……と新発見です(笑)。

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『ポンペイ最後の日』(1950)マルセル・レルビエ、パオロ・モッファ
“Gli ultimi giorni di Pompei” (1950) Marcel L’Herbier, Paolo Moffa

 1950年のフランス/イタリア映画。同じタイトルでも内容は全くオリジナルだった35年のアメリカ版とは違お、こちらは一応リットン卿の同名小説がベース。
 ストーリーとしてはロマンス+陰謀+天災+宗教というパターンで、ロマンス比重が高め。陰謀の方をあまり上手く盛り上げてくれないので、男女の恋愛パート(五角関係くらい)がやけに目立つ感じながら、セットやモブのスケール感やゴージャス感はなかなかのもの。
 構成要素が複雑なわりには尺が比較的コンパクトなので、テンポは早めながらあちこち描き足りない感もあり、エモーショナルな面はあんまり盛り上がらない感はあるけれど、ラストの火山爆発スペクタクルはかなりの迫力と見応え。

 主演のジョルジュ・マルシャルは、もうちょっと後の『ロード島の要塞』くらいしか見たことなかったんだけど、若い頃はギリシャ彫刻風のハンサムだったのね。ちょっとジャン・マレーを思い出させる感じ。
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