“Snails in the Rain (שבלולים בגשם Shablulim BaGeshem)” (2013) Yariv Mozer

dvd_SnailsInTheRain
“Snails in the Rain (שבלולים בגשם Shablulim BaGeshem)” (2013) Yariv Mozer
(イギリス盤DVDで鑑賞→amazon.co.uk、米盤DVDが日本のアマゾンでも購入可能)

 2013年のイスラエル製ゲイ映画。原題”שבלולים בגשם (Shablulim BaGeshem)”。
 80年代末、まだ社会的に同性愛がタブーだった時代を背景に、セクシュアリティの揺らぎや自己受容の難しさを描いた作品。

 1989年のテルアビブ。大学生のボアズはガールフレンドと同棲しながら、奨学金の審査が通るのを待っている。そこに彼の私書箱宛てに差出人不明の手紙が届く。
 手紙には差出人(男性)の孤独と、ボアズに対する恋情が切々と綴られており、ボアズはそのことをガールフレンドから隠す。
 ボアズは折に触れ、男だけだった兵役時代のことを思い出し、また大学でも街でも自分の目が男を追いかけていることに気付き、それらしき人々とのアイコンタクトを経験したりするが、自分では許容できない。
 果たして手紙の差し出し主は誰なのか? そしてボアズの選択は? ……といった内容。

 派手にドラマを作るのではなく、平凡な日常描写を丁寧に積み重ねることで、キャラクターや物事のあらましが徐々に浮かびあがっていくという構成で、その表現力はなかなかのもの。モチーフ的にはさほど目新しさはないものの、映画としての魅力や完成度でしっかり見せてくれます。
 セクシュアリティの揺らぎというモチーフなので、いわゆるラブストーリーではないし、男同士のラブシーンやセックスシーンも些少ですが、にも関わらず、主人公のルックスや肉体の魅力や、ガールフレンドとの濡れ場、日常描写などで、全体的にきちんとセンシュアルでセクシーにしているのも見事。
 ただ、テーマ的にインターナライズド・ホモフォビア(同性愛者自身の同性愛嫌い)があるんですが、物語の時代設定が25年前ということもあって、そういった事象がそのまま提示されるだけで、そんな時代的な限界を越える何か、つまり解決策や何かの決着があるわけではないので、そこが個人的にちょっと物足りない感じ。
 まぁ、下手に理想的な展開にしてしまうと嘘っぽくなりそうだし、映画全体のタッチから考えても、この展開やビターな結末は相応だとは思うんですが、ちょっとなんかイガイガしたものが、見終わった後で残る感じ。
 反面、そこが一つの魅力でもあって、一緒に見ていた相棒なんかは、かなり気に入った様子。じっさいインターナライズド・ホモフォビアというのは、現代においても未だ大きな問題として残ってはいるわけで、そういう意味でもイシューとして無意味なわけではないし。

 一つ面白いのは、この映画は、社会的な不寛容をそのまま自分でも抱え込まざるを得なかった、そんな時代のゲイの自己受容の難しさや、抑圧された同性愛者の姿を描くという、テーマとしては昔から良くあるタイプの作品であるにも関わらず、そんな昔ながらのテーマを、アンドリュー・ヘイ監督の”Weekend”(2011)以降に良く見られるようになった、ドラマを過剰に紡ぐのではなく、ごく日常的で些細な風景を積み重ねることで描くという、最近のゲイ映画のスタイルで改めて描いた作品とも受け止められるあたり。
 そういった意味では、テーマへの共感を表現手法が更に後押しするという、プラスの効果は大きく、そしてそのテーマが、映画に描かれている社会的な状況が、現在の日本のそれに通じる部分も多々あるので、いろいろと考えさせられるし、見応えもあり。

 扱っているテーマとビターな結末が、見る人によって好みは分かれるとは思いますが、それでも見応えはありますし映画的な完成度も高く、加えて、主人公がかなりセクシー君で、ちょっとドキドキするような表現も多々あるので、興味がある人なら見て損はない一本かと。

[amazonjs asin=”B00LP82XNI” locale=”JP” title=”SNAILS IN THE RAIN”]