パリ紀行(1)〜個展オープニング編

11月4日(水)

 昼に東京発、同日夕刻にパリ着。その足でまっすぐギャラリーへ。
 ギャラリーではオーナーのオリヴィエ、アーティストでいつも設営等を手伝ってくれているニコラ、ニコラの友人で今回が初対面の、やはりアーティストのフィリップ(……だったと思う)が、片付けの真っ最中。

 毎回基本的に額装をお任せしているニコラに、日本から持って来た展示作品を見て貰う。そうこうしている間に、フィリップにニコラと間違えられ、後ろからフランス語で話しかけられるという事例が発生(笑)。
 フィリップの作品写真をスマホで見せて貰う。人物や動植物を、クラフト紙に黒と白のポスカでデコラティブに描いたもので、ぱっと見バティックみたいな感じがして、実に魅力的。

 やがてニコラとフィリップが帰り、今度はオリヴィエと展示販売する作品の価格を決める。

11月5日(木)
 
 午前中、コレクター相手に内覧。さっそく何枚か売約済みに。幸先が良い。

 ランチはオリヴィエと一緒に、近所のトルコ料理屋で。二年前にはまだなかった新しいお店。ファストフード風のカジュアルな店舗で綺麗&美味しい。

 午後、ニコラがやってきて設営スタート。
 過去五回のパリ個展では、展示作品に新作と昔の作品を混ぜていたけれど、今回はちょっと思うところがあり、全てここ二年の間に描いた新作だけにして、技法も基本的にペン&インクのドローイングのみ(一点だけ筆のドローイングを混ぜた)。
 というわけで、全点モノクロ作品、作品サイズも技法もほぼ同一なので、ニコラもそこいらへんを汲み取ってくれて、グレーの額にグレーのマットを用意してくれた。「黒だと強すぎるし、白だと弱すぎると思うから」とのことで、私もそれに完全に同意。
 お喋りしたり、ニコラの愛犬と遊んだりしながら、ニコラが順次額装してくれた作品を、床に並べつつ配置を決める。
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 ちょっぴり価格帯が低めの作品も並べたいというオリヴィエの要望で、2013年の個展に出した作品(今回ピックアップするつもりでギャラリーにずっと預けていた)の中から、サイズが小さい作品を五点ほど展示に加えることにする。
 また、2008年に制作した限定エスタンプ『七人の侍』も、在庫が二部出てきたということなので、それも入り口に並べることにする。

 そうこうしているうちに睡魔襲来。時差ボケかしらん。
 奥のベッドでちょっと横になっていたら、そのまま爆睡。目が覚めた時にはもう夜で、準備も全て終了していた(笑)。

11月6日(金)

 朝、ベルリンから来た、拙英語版単行本の版元であるBruno Gmünderの担当編集者シメオンから連絡が。昨日のうちにパリに着いたというので、一緒にランチをすることにする。

 ポンピドー文化センターでシメオンと待ち合わせ。まず、歩いてすぐのところにある、土曜日にサイン会をやる書店Les Mots a la Boucheを、一緒に覗きに行く。このサイン会に合わせて先行発売する、新刊英語版単行本”The Contracts of the Fall”を、イタリアの印刷所から書店に直接搬入しているので、シメオンもまだ仕上がりを確認していないし、ちゃんと届いているかどうかも不安とのことなので。
 幸いにして事故もなく、本は無事に届いていて、仕上がりも上々。書店スタッフに挨拶をした後、早速キャッシャーの男子に頼まれて一冊サイン。
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 シメオンと一緒に、書店の人に教えて貰ったお店でランチ。如何にもフランスといった感じの、古いけれども雰囲気は良い小さなカフェ。
 本日のディッシュだという、ローストチキン的なものを頂く。

 ランチの後、シメオンにベルリンに持って行って貰う約束をしていた、来年の某展覧会用に貸し出す古書一式を預ける。やれやれ、これで荷物が軽くなった……と思っていたら、シメオンからお土産の画集やら何やらを渡されて、前と負けず劣らず、またカバンが重くなってしまった(笑)。
 いったんシメオンと別れて、再びギャラリーに戻る。

 午後五時、オープニング・パーティがスタート。
 開始早々、最初のお客さん。ちょっぴり日本語も操る、まだ若いハンサムくん。色々話しているうちに、日本のアニメのタトゥーを入れているというので、頼んで見せてもらう。
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 東映アニメーション『長靴をはいた猫』のペロだった。とても綺麗なタトゥー。このナイスガイ、ティエリーは、絵もお買い上げに。ありがたや、ありがたや。

 時間が経つにつれ、来場者も増加。
 現地の友人とか、いつもパリ個展に来てくれる現地在住の日本人とフランス人のご夫夫とか、名前は知らないけれど顔は覚えている人とか、今まではFacebookでのみ交流があった人とか、色々な方が次々と来場。

 そんな中から、幾つか記念写真をピックアップ。まず、さっきの、ペロのタトゥーを入れているティエリー。
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 アーティストのトム・ド・ペキン。
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 可愛い顔して、実はスレイブマスターのケヴィン。飼っている奴隷とパピー同伴で来場。
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 パリのオペラ座などで写真を撮っているという、イタリア人のカメラマン氏。
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 思わず「マッチョ化した砂川さん?」とか思ってしまったカワイコちゃん。
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 トトロTシャツを着た生トトロみたいなカワイコちゃん。
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 前にも会ったことがある、モード系のオシャレくん。
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 そうこうしているうちに、会場はどんどん混雑。
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 三時間経過したところで、用意していた飲み物のコップが足りなくなるというアクシデント。まだ残り二時間あるので、オリヴィエが急いで買いに走る。
 マンガ家のファブリスとヤン、アーティストのオリヴィエ・フランドロワ、カメラマンのパトリック・サルファーティなど、久々に会ったのに写真を撮りそびれてしまった人々も多々。
 混雑した会場内で、ちょっとしたインタビュー取材(たしかPink TVとかいうアダルト・チャンネルだったような)なども入る。

 そして夜の十時、オープニング・パーティが終了。絵も更に何枚か売れて、オリヴィエは恵比寿顔。ニコラの販促トークにも大感謝。
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 オリヴィエ、シメオンと三人で、近所のマグレブ料理屋へ。わりと有名なZeldaというお店。パリ個展初日の夜は、毎回ここで美味しいクスクスを食べるのが、いつの間にか習慣になってます。

 食事の後、ちょっと飲みに行くというオリヴィエとシメオンと別れて、私は先に一人で帰宿。
 誰もいなくなった無人のギャラリーは、さっきまでの喧噪が嘘のよう。
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ムック「ドラマ秘宝 vol.1」で『スパルタカス』について書きました

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 11月9日発売のムック「映画秘宝EX ドラマ秘宝 vol.1 マニアのための特濃ドラマガイド」に、stazのドラマ『スパルタカス』について、テキスト原稿(2000字)を書かせていただきました。
 マッチョの裸てんこ盛り+責め場あり+ゲイ描写ありの、ずっぽりハマって見たお気に入りドラマの紹介文なので、愛と熱量をタップリ込めました。
 昨今、動画配信サービスも色々盛り上がっておりますので、洋ドラのガイドブックも兼ねて是非お手元に一冊どうぞ!
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フランス、パリで個展&サイン会やります

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 11月6日から、パリで個展やります。早いもので、最初のパリ個展から数えて、もうこれで六回目。
 場所はいつもの、ArtMenParisギャラリー。
 期間は11月6日から18日まで。
 オープニング・パーティは6日の金曜日、時間は17時から22時まで。私も在廊しますので、お近くの方はお気軽においでください。(Facebookイベントページ
 翌7日以降、ギャラリーは予約制になります。訪問希望の方は、事前にギャラリーに連絡して予約をとってください。

 出展作品は、最近のペン画(モノクロ)を中心に15点ほどを予定。初公開となるオリジナル新作も展示します。
 もちろん販売もいたします。
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The Contracts of the Fall (2015) pen, ink & alcohol ink marker on paper

 サイン会はオープニングの翌日、7日の土曜日に、マレ地区にある書店Les Mots a la Boucheにて。時間は15時から16時30分まで。(Facebookイベントページ
 新刊英語版単行本”The Contracts Of The Fall”も先行販売いたします。本の持ち込みも可。
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 それでは、パリおよび近郊にお住まいの方、期間中に訪問予定のある方、いらっしゃいましたら、是非お立ち寄りください!

ちょっと宣伝、『弟の夫』第13話掲載です

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 10月25日発売の雑誌「月刊アクション」12月号に、マンガ『弟の夫』第13話「ホットチョコレート」掲載です。
 今回はショタ回! どういうことかって? 読んでくだされば判ります(笑)。
 というわけで、是非お買い上げよろしくお願いいたします!
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ちょっと宣伝、『プラネット・ブロブディンナグ』第2話掲載です

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 10月21日発売の「バディ」12月号に、連載マンガ『プラネット・ブロブディンナグ』第2話掲載です。謎の惑星に漂着した地球人兵士が、デカい熊系亜人のペットにされていくという奇想系エロマンガ。
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 マニア受け系の題材なので、同好の士は是非応援よろしくお願いします。
 そして来月は一回お休みします。個展のために海外渡航するので、現在抱えている連載マンガは各掲載誌にお願いして、それぞれ一ヶ月の時間差でお休みをいただくことにしました。
 というわけで『プラネット・ブロブディンナグ』の連載は、12月20日発売の「バディ」2月号から再開予定です。
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雑誌「現代思想」のLGBT特集号にエッセイ書きました

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 本日発売の雑誌「現代思想」(青土社)2015年10月号《特集=LGBT 日本と世界のリアル》に、「同性婚」と『弟の夫』についてのエッセイ「隣の《同性婚》を考える」(1200字)を寄稿させていただきました。ページ数は少ないですが、LGBT特集のトップに掲載していただいたので、見つけやすいと思います。
 同特集では、「エッセイ」「討議」「『同性婚』とは何か」「政治/経済」「地方から問い直す」「生活の中で」「<家族>を思考する」「情動/身体」「世界のクィアから」「実践を問う」「歴史を問う」といった、多角的な章立てがなされており、それぞれについて各2〜4名の方々が寄稿。学術よりの論者が多く専門用語も頻出するので、読みやすくはないですが読み応えはありそう。
 というわけで、宜しかったら是非お読みください。
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 Kindle版もあります。
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ちょっと宣伝、『弟の夫』第12話掲載です

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 先週の金曜日(9月25日)発売の雑誌「月刊アクション」11月号に、『弟の夫』第12話「ジム」掲載です。
 今回はマイクの出番多し。
 というわけで、是非一冊お買い上げください!
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“Floating Skyscrapers (Plynace wiezowce/真夜中のふたり)” (2013) Tomasz Wasilewski

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“Floating Skyscrapers (Plynace wiezowce/真夜中のふたり)” (2013) Tomasz Wasilewski
(イギリス盤DVDで鑑賞→amazon.co.uk

 2013年のポーランド製ゲイ映画。原題”Plynace wiezowce”、ポーランド映画祭2014で『真夜中のふたり』の邦題で日本上映あり。
 ガールフレンドもいる若い水泳選手が同性に惹かれていき……という内容。

 青年クバは将来を嘱望されている水泳選手。母と二人で暮らす家に、ガールフレンドのシルウィアも同居させて、寝室も共にしている。ある日クバはシルウィアと一緒にギャラリーのパーティに行くが、どうも場違いな感は免れず、外に出てジョイントを吸っていると、青年ミハウと出会う。
 クバはミハウに惹かれていくが、自分の同性愛傾向を完全に肯定することはできず、シャワールームで別の男にフェラチオさせたりとか試みはするのだが、達する前にやめてしまい、逆にシルウィアの身体を激しく求めたりする。
 一方のミハウは自分がゲイだと自覚しており、母親もそれを知っているが、父親へのカムアウトは、まるで何事もなかったかのように流されてしまう。
 気持ちの揺れるクバは水泳の練習にも身が入らず、遂には大事な選考試合の途中で棄権してしまう。一方でシルウィアは、クバとミハウ双方の抱いている感情に気付き、何かと当てつけめいた態度をとるようになるのだが……といった内容。

 この映画で描かれる、自分がノンケだと思っていた男が、何かのきっかけにゲイであることに気付き、それまでの諸々のしがらみやセクシュアリティの揺らぎ、周囲から強要されて自分も飲み込まれてしまう社会的な抑圧の中で悩む……といったテーマは、昔から繰り返し語られてきた内容。
 表現は淡々としてリアリズム重視。エピソードがドラマチックにうねりを見せるわけではなく、1つ1つの、それ自体はほんの些細なエピソードを丁寧に描き、その積み重ねで様々な事象が浮かびあがっていくというタイプで、若干の弛緩はあるものの、なかなか魅力的。
 時に硬質、時に感覚的な映像表現も、ところどころ「おっ」と思わされる美しい映像などもあって、これも魅力的。
 また、クバ役の男優はハンサムで、身体も美麗。直截的なゲイセックス場面はあまりないけれど、センシュアルなヌード場面は多々出てくるのも魅力の一つ。
 ただ、そういったリアリズム表現であるが故に、これはやはりポーランドの社会状況もリアルに反映しているのか、ストーリーの決着はかなりビター。はっきり言って「久々に後味の悪いゲイ映画見ちゃったなぁ……」という感じで、これは好みが分かれそう。

 ちょっと興味深いのは、一昨日感想をアップした“Land of Storms”も、昨日の“Snails in the Rain”も、やはり同様に、なかなか自己受容できないゲイという、インターナライズド・ホモフォビアを扱い、結末もリアル視点で社会状況を反映したビターなものであるにも関わらず、鑑賞後のそれぞれの後味は異なるあたり。
 いずれも自分的にはあまり好きなタイプのエンディングではないのだが、”Land…”は好き嫌いは別として納得はいく、”Snails…”も何かイガイガした感じは残るものの余韻自体は悪くない。しかしこの”Floating…”の後味はハッキリと悪く、余韻というよりも見終わって気分が暗くなる感じ。そういえば若い頃に、ウィリアム・ワイラー監督の『噂の二人』(1936)や、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督の『自由の代償』(1975)を見終わったときも、こういう嫌〜なというか暗〜い気持ちになったっけ……などと、ふと思い出したり。
 何というか、こういったゲイにとっては厳しい社会状況を描く際に、作品としてそれに抗議している意志が見えるか見えないかで、私の印象は大きく左右されるのかも知れない。逆に言うと、そういった「嫌さ」を引き起こす”Floating…”の視線のフラットさは、ひょっとしたらスゴいのかも知れないけれど、やはり個人的には、ゲイテーマの扱い方が昔風のそれから脱していないように思えてしまう。

 とはいえ、前述したように見所はあちこちありますし、映画的なクオリティも高い一本。主演男優も魅力的だし、とにかく後味の悪さを覚悟して見れば、見応えはある一本です。

“Snails in the Rain (שבלולים בגשם Shablulim BaGeshem)” (2013) Yariv Mozer

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“Snails in the Rain (שבלולים בגשם Shablulim BaGeshem)” (2013) Yariv Mozer
(イギリス盤DVDで鑑賞→amazon.co.uk、米盤DVDが日本のアマゾンでも購入可能)

 2013年のイスラエル製ゲイ映画。原題”שבלולים בגשם (Shablulim BaGeshem)”。
 80年代末、まだ社会的に同性愛がタブーだった時代を背景に、セクシュアリティの揺らぎや自己受容の難しさを描いた作品。

 1989年のテルアビブ。大学生のボアズはガールフレンドと同棲しながら、奨学金の審査が通るのを待っている。そこに彼の私書箱宛てに差出人不明の手紙が届く。
 手紙には差出人(男性)の孤独と、ボアズに対する恋情が切々と綴られており、ボアズはそのことをガールフレンドから隠す。
 ボアズは折に触れ、男だけだった兵役時代のことを思い出し、また大学でも街でも自分の目が男を追いかけていることに気付き、それらしき人々とのアイコンタクトを経験したりするが、自分では許容できない。
 果たして手紙の差し出し主は誰なのか? そしてボアズの選択は? ……といった内容。

 派手にドラマを作るのではなく、平凡な日常描写を丁寧に積み重ねることで、キャラクターや物事のあらましが徐々に浮かびあがっていくという構成で、その表現力はなかなかのもの。モチーフ的にはさほど目新しさはないものの、映画としての魅力や完成度でしっかり見せてくれます。
 セクシュアリティの揺らぎというモチーフなので、いわゆるラブストーリーではないし、男同士のラブシーンやセックスシーンも些少ですが、にも関わらず、主人公のルックスや肉体の魅力や、ガールフレンドとの濡れ場、日常描写などで、全体的にきちんとセンシュアルでセクシーにしているのも見事。
 ただ、テーマ的にインターナライズド・ホモフォビア(同性愛者自身の同性愛嫌い)があるんですが、物語の時代設定が25年前ということもあって、そういった事象がそのまま提示されるだけで、そんな時代的な限界を越える何か、つまり解決策や何かの決着があるわけではないので、そこが個人的にちょっと物足りない感じ。
 まぁ、下手に理想的な展開にしてしまうと嘘っぽくなりそうだし、映画全体のタッチから考えても、この展開やビターな結末は相応だとは思うんですが、ちょっとなんかイガイガしたものが、見終わった後で残る感じ。
 反面、そこが一つの魅力でもあって、一緒に見ていた相棒なんかは、かなり気に入った様子。じっさいインターナライズド・ホモフォビアというのは、現代においても未だ大きな問題として残ってはいるわけで、そういう意味でもイシューとして無意味なわけではないし。

 一つ面白いのは、この映画は、社会的な不寛容をそのまま自分でも抱え込まざるを得なかった、そんな時代のゲイの自己受容の難しさや、抑圧された同性愛者の姿を描くという、テーマとしては昔から良くあるタイプの作品であるにも関わらず、そんな昔ながらのテーマを、アンドリュー・ヘイ監督の”Weekend”(2011)以降に良く見られるようになった、ドラマを過剰に紡ぐのではなく、ごく日常的で些細な風景を積み重ねることで描くという、最近のゲイ映画のスタイルで改めて描いた作品とも受け止められるあたり。
 そういった意味では、テーマへの共感を表現手法が更に後押しするという、プラスの効果は大きく、そしてそのテーマが、映画に描かれている社会的な状況が、現在の日本のそれに通じる部分も多々あるので、いろいろと考えさせられるし、見応えもあり。

 扱っているテーマとビターな結末が、見る人によって好みは分かれるとは思いますが、それでも見応えはありますし映画的な完成度も高く、加えて、主人公がかなりセクシー君で、ちょっとドキドキするような表現も多々あるので、興味がある人なら見て損はない一本かと。

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“Land of Storms (Viharsarok)” (2014) Ádám Császi

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“Land of Storms (Viharsarok)” (2014) Ádám Császi
(イギリス盤DVDで鑑賞→amazon.co.uk、米国盤DVDが日本のアマゾンでも購入可能)

 2014年のハンガリー/ドイツ製ゲイ映画。原題”Viharsarok”。
 ドイツでサッカー選手をしていたハンガリー人青年が、サッカーをやめ故郷の田舎に帰るのだが……という話を、様々なイシューを織り交ぜながら静かに描いた作品。

 ハンガリー出身のサッカー選手シネーシュは、ドイツのチームでプレイをしていたが、試合でのレッドカードや、その後のシャワー室での同僚ベルナルドとの喧嘩などで、サッカーをやめてハンガリーに帰ることにする。
 故国に戻ったシネーシュは、一人で祖父が残した田舎の農家に住むが、ある晩バイク泥棒が入る。シネーシュは泥棒の一人アーロンを取り押さえるが、警察に突き出すことはしない。そんなシネーシュにアーロンは、農家が荒れ果てていので住むなら修理が必要だと指摘し、そのままシネーシュに雇われる形で一緒に瓦葺きなどをするようになる。
 二人の関係は次第に親密度を増し、やがては親しい友人同士のようになるが、ある晩シネーシュは酔ったアーロンの身体を愛撫し、アーロンもまたその行為を受け入れる。しかし二人の間に起こった出来事は、アーロンが母親にそれを告白したことを切っ掛けに、他の村人の耳にも入り、やがてはドイツからベルナルドもシネーシュを訪ねてやってきて……といった内容。

 なかなか見応えのある一本。
 多くを語らず説明要素も廃しつつ、しかし経緯は推測で判るようになっている、抑制の効いた話法が見事。映像的にも、シンメトリーで構成したり大胆な余白を用いたりといった、構図の美しさや緊張感に感心させられます。
 エロティックな要素も見応えあり。
 中でも特筆したいのは、サッカーチーム内や村の若者同士の他愛ない戯れといった、ホモソーシャル的な情景の描き方。ドラマの登場人物たちの思惑や、実際に描かれている行為の内容とは別に、監督(そして観客)という第三者の目を通して見ることで、そういったそういったホモソーシャル的な光景に潜むホモエロティシズムをあぶり出し、それど同時に、その中にホモセクシャルが混じっていることから生まれる緊張感も描出して見せる、その巧みさ。
 また、実際にホモエロティックな行為の描写も、行為の内容や表現自体は控えめながら、巧みな見せ方で見事にセンシュアル。さほどタイプでもないキャラ同士(魅力的ではありますが)の、バニラなことこの上ないゲイセックス描写という、私的にはさほどツボは押されない内容であるにも関わらず、その表現の巧みさ故に、見ていて思わず甘勃ちしてしまったほど。
 ドラマを通じて盛り込まれる様々なイシューも、面白く興味深い要素。
 相手を欲しているのは欲望なのか愛情なのか、人生にあたって何を選びどう決断するのか、宗教や社会が押しつけてくるホモフォビアと、それに悩みながらも自ら従ってしまう当事者という問題、そんな社会状況かで、同性間リレーションシップが表に出た結果と、それに対する態度……などなど、日本のゲイが置かれている状況にも通じる要素が色々。

 ストーリー的には、後半でドイツからベルナルドが尋ねてきて、三角関係っぽい様相を呈するあたりから、正直ちょっと「……ん?」と思ってしまったんですが、全編を見終わると、なるほどこれは余計な要素ではなく、必要なエピソードだったんだな……と納得できました。
 物語の結末も、おそらく好き嫌いが分かれるでしょう。実のところ私も、物語的にはこういった展開は好きではない。しかし、そこからもたらされた状況や思いを、映像だけでしっかり見せてくれるので、そこは素直に感心させられたし、社会状況を考え合わせると、好き嫌いは別として納得はできます。

 そんな感じで、ストーリー自体というよりも、それを通じて様々なイシューが描き出されるという点で、大いに見応えあり。映画としてのクオリティも高く、見て損はない一本。
 ハンガリーのゲイ映画ということだけでも稀少ですし、処女長編でこれは大したもの。

[amazonjs asin=”B00SWFM9IG” locale=”JP” title=”LAND OF STORMS”]