ちょっと宣伝、『奴隷調教合宿』第八話掲載です

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 告知が遅れましたが、4/21発売の「バディ」6月号に、集中連載『奴隷調教合宿』第八話が掲載されています。
 いつものように、ゲイSMエロマンガ路線一直線ですが、今回は《畳み掛け》のエピソード回。大ゴマ連打で、ちょっとした責め絵画集みたいにもお楽しみいただけるかと。
 というわけで、よろしかったら是非お買い求めくださいませ。
[amazonjs asin=”B00JDPMK88″ locale=”JP” title=”Badi (バディ) 2014年 06月号 雑誌”]

無事帰国

 ベルリンから無事帰国しました。
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 個展は無事終了。急なスケジュールな変更などもあり、ほとんど在廊できませんでしたが、それでも幾つか、面白い出会いあり、取材あり。

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 サイン会も無事終了。書店も出版社も、当初の想像以上の集客だったと喜んでくれたので、おそらく成功といって良いかと。上の写真は、書店前のポスターとショーウィンドウ。
 時期的にイースター(ベルリン・レザー・ウィークエンド)だったこともあり、かつてフランスの個展等で会った方々とも、何名か再会。色んな方が来てくれましたが、一人ものすごくタイプの大男がいまして、もう惚れ惚れと顔や身体を眺めてしまったくらい。イベントを手伝ってくれていた女性書店員も「絵から抜け出したみたい!」と驚いたほど。
 そしてこの女性が差し入れてくれた、近所のアイスクリーム屋のアイスが激ウマ! なんかミルクとジンジャーが入ったやつと、酸味のあるベリー系のやつの二段重ねだったんですが、さっぱりめなんだけど実に美味しかった。特にジンジャーが絶品!

 サイン会をやった、このPrinz Eisenherzという書店なんですが、何でも去年この場所に引っ越したばかりとのことで、明るくてクリーンでスペースはゆったりとしていて、奥にはギャラリー・スペースもある、とても素敵なお店でした。なんでも歴史は古く、おそらくヨーロッパで一番古いゲイ・ブック・ストアだとのこと。
 サイン会に来てくれた人の中には、例によって自分の蔵書を持って来てくれた方もいて、今回出た”Endless Game”や”Gunji”の他にも、日本語版やフランス語版単行本にもサインしました。中でも個人的に印象的だったのが、ベルリンのゲイ・ミュージアム、Schwules Museumのスタッフが、同館所蔵の拙単行本二冊、『嬲り者』と『柔術教師』にサインを入れて欲しいとやってきました。
 そうそう、会場に来られなかった方たちのための、お取り置き分へのサインというのもあって、今回のサイン会を知って、わざわざカナダから注文してくれた方もいたりして、ありがたい限りであります。

 ベルリン滞在中、大小あれこれミーティングなどがあったので、フルのオフ日はなく、結果観光などはあまりできず。とはいえ、昨年に主だったところはだいたい廻っていたので、それもさほど苦ではなし。
 前回行きそびれていた場所では、前述のSchwules Museum(ゲイ・ミュージアム)に、今回は行くことができました。すると、以前からネット等の情報で気になっていた、19世紀末に同性愛を公言しながら社会的なステータスも得ていたドイツの画家、サシャ・シュナイダーの展覧会をやっていたので大喜び。
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 売店には、以前探したときにはなかった画集などもあったので、これもホクホクして購入。
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 展覧会自体は、どうやらニューヨークのレスリー・ローハン・ゲイ・ミュージアムから廻ってきたらしく、ベルリンでは6/30まで開催。貴重な機会だと思うので、期間中に在ベルリンの方は是非どうぞ。ペインティングやドローイングといったオリジナルはもちろんのこと、複製された挿絵作品の精緻なウッド・エングレーヴィング(木口木版。ギュスターヴ・ドレの『神曲』などと同じ技術です)にも眼を奪われること必至。

 Bruno Gmünderから出た二冊の英語版単行本の方は、おかげさまで売れ行きも良いらしく、特に去年の暮れに出た”Endless Game”の方は、同社にとって日本のゲイマンガの翻訳出版は初めてだったということもあり、比較的おさえた初版部数だったんですが、発売一ヶ月で売り切れて第二版を刷ったそうな。
 まだ実際に本が出ていなかった去年のミーティング時よりも、今回はより良い手応えといった感じがあり、今後のあれこれなどについても色々と打ち合わせしてきました。果たして何がどれだけ実現するかは判りませんが、上手くいったら色々と面白いご報告ができそうです。
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 上の写真は、同系列のゲイ・ショップBrunosの店頭にあるブルーノベアと、お店のショーウィンドウ。二枚目の写真で私と一緒に移っているのは、Bruno Gmünderアートブック部門チーフエディターのミーシャ。

 後は、以前からメールやFacebookでコンタクトがあった、ベルリン在住のフェティッシュ系の写真家ユーリ・リヒターと会って、とても良い時間を過ごせたとか、ちょうど滞在中にオープニングがあった春川ナミオさんの個展に行ったとか、そのオープニング会場で私をナミオ先生だと勘違いしたお嬢さんがいたとか、そのギャラリー・オーナーからマヴァド・シャロンのジンを貰って大喜びしたとか、
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 ちょうどベルリンで大規模なアイウェイウェイ(艾未未)の展覧会をやっていたせいで、街中でアイ・ウェイウェイと勘違いされたり(しかも二回)、私のサイン会ポスターにデカデカと顔が出ていたせいか、駅やらバスの中やら道端やらでいきなり見知らぬ人から「田亀源五郎さんですか?」と声を掛けられたり(計三回)、色々と楽しい体験がありました。
 そこいらへんはツイッターであれこれ呟いていたので、興味のある方はそちらでご確認を(笑)。

ベルリンでサイン会&個展最終日に在廊します→最終日が変更、在廊は中止

ベルリン個展、最終日は4/20とアナウンスされていましたが、今日(4/20・木)ギャラリーオーナーから急に「最終日は土曜日(4/19)、日曜(4/20)はギャラリーは閉じる」と言われました。というわけで、最終日が4/19の土曜日に変更、そしてその日はサイン会とバッティングしているので、残念ながら私は在廊できません。急な変更で申し訳ありませんが、私自身とまどっております。
【ベルリン個展】
・3月7日〜4月20日(最終日に在廊予定)
xavierlaboulbenne galleryにて
  Schoenleinstrasse 5 10967 Berlin
・オープニングは3月7日(金) 18:00〜21:00 <詳細>
・期間中、画廊のオープンは毎週火曜日〜土曜日、午後2時〜6時となります。
【ベルリンでのサイン会】
・4月19日(土) 15:00〜17:00
Eisenhertzにて
 Motzstr. 23, 10777 Berlin

大きな地図で見る
・Facebookのイベントページ:https://www.facebook.com/events/1429217567317220/

“Interior. Leather Bar.” (2013) James Franco, Travis Mathews

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“Interior. Leather Bar.” (2013) James Franco, Travis Mathews
(イギリス盤DVDで鑑賞→amazon.co.uk

 2013年のアメリカ製ゲイ映画。
 ハリウッド男優ジェームズ・フランコと、“I Want Your Love”のトラヴィス・マシューズが共同監督した、1980年の映画『クルージング』(ウィリアム・フリードキン監督/アル・パチーノ主演)からカットされた、40分のゲイ・セックス場面を描いたフッテージを想像再現した作品……という触れ込みだったけど……。

 実際には、その再現作業に関わった人々の反応を通じて、何かの化学変化が起こることを期待した系のコンセプチュアルな作品でした。
 で、結論。
 トゥー・マッチ・コンセプチュアル。そして化学変化は起こらず。
 あら残念 。
 コンセプト的な意図は良く判ります。
 具体的に言うと、まず、何故本作を作ろうとしたかという動機部分に関わる、映像作品におけるゲイ・セックス表現に対する規制への問題提起。
 次に、30年以上前の映画のロスト・フッテージを、現代の作家が再構築したときに見えてくるであろう何か。
 そして、ゲイ・セックスの只中に放り込まれたメイン男優の反応を追うことで、『クルージング』という映画の中でアル・パチーノが演じた役柄との共通点が浮かびあがったり、共鳴効果が起こることへの期待。
 そういったコンセプチュアルな意図は、実に明解な作品です。ただし残念ながら、その結果があまり面白いものではなかった……ということ。
 唯一の例外は、映画内映画として提示される再現部分の映像表現。
 おそらくここがトラヴィス・マシューズの担当部分だと思うんですが、これは実にセンシュアルで素晴らしい出来映え。
 ただ残念ながら、その部分の尺は合計しても10分程度しかなく、後は延々、映画のメイキングのようなインタビュー映像とか、主演男優の心の揺れを追ったドキュメンタリーのようなものが続き、そしてそっちが決定的に面白くない。

 というわけで、個人的にはコンセプト倒れの失敗作という印象ですが、コンセプトそのものを楽しむコンテンポラリー・アート的な視点で見れば、ひょっとしたら楽しめる方もいらっしゃるかも知れません。私の口には合わなかったけど。
 でも、もしコンセプトが全て取っ払われて、想像再現部分だけの短編だったら、私は絶賛していたと思います。そのくらい、セックス場面は魅力的。描写が赤裸々なために、残念ながら予告編の中ではその部分は殆ど出てきませんけど……。

“Hawaii” (2013) Marco Berger

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“Hawaii” (2013) Marco Berger
(アメリカ盤DVDで鑑賞→amazon.com

 2013年のアルゼンチン製ゲイ映画。
 再会した幼なじみが互いに惹かれつつも、相手の気持ちが掴めないために一歩を踏み出せないという一夏の光景を、穏やかなムードで詩情豊かに描いた作品。

 身寄りをなくした青年マルティンは、子供の頃に暮らしたアルゼンチンの田舎町にやってくるが、そこでも知己は既におらず、野宿をしながら様々な家の手伝いをして、その日の食事と現金を得ている。そんなマルティンが、ある日仕事を求めて尋ねた家は、彼が幼い頃に遊びに来た事があるエウヘニオの家だった。
 エウヘニオもそのことを思い出し、マルティンは野宿のことは隠したまま、夏の間エウヘニオの家を修理する仕事を得る。マルティンに惹かれたエウヘニオは、シャワーを勧めたり泳ぎにさそったりするが、彼の裸身を覗き見るのが精一杯で、そこから先へは踏み出せない。
 そんな中、マルティンの野宿の嘘がばれ、エウヘニオは彼を納屋に住まわせることにする。共に暮らしながら、二人は互いに自分でも忘れていた幼い日のことを思い出し、親しさを増していく。
 そしてエウヘニオ同様、マルティンもまた相手のことを意識するのだが、二人の関係は友人以上にはなかなか進展することがなく……といった内容。

 これは秀逸な一本。
 内容的には、これといったドラマ的な起伏があるわけではなく、相手のことが気になるけれど何か行動を起こすことはできず、それも友人的に良い関係性にあるから尚更……といった微細な空気感を、ディテール描写を重ねて描いていくというもの。
 クローズドなゲイ・コミュニティ以外で出会った、同性の誰かに惹かれたとき、まず相手がゲイであるかどうかが判らないが故に、気にはなるんだけれど踏み出せない気持ち。こういった感覚は、私自身も含めて、おそらく多くのゲイにとって、一度は身に覚えがあることなのでは。
 そういった、身近ですごく良く判る感覚にフォーカスを当て、それを丁寧に描き出すこと、それがゲイ映画としてのテーマになり得るという発見に、大きな拍手。
 映画としても良い出来で、空気感のある柔らかで美麗な映像、夏の気怠さを思わせるような穏やかなムード、着替えや午睡といった場面で下着越しの股間を捉えるようなセンシュアルな画面……と、全体がとても静かで、心地よい雰囲気。
 テンポは一貫してゆっくりしているものの、そこには前述したような「相手のセクシュアリティや気持ちが判らない」ことによる、軽い緊張感も同時に漂っているために、ゆったりすぎて弛緩することもない。
 全体的に少なめの会話場面も、その内容は日常的なものや想い出話であって、変にフィクショナルな心情吐露とかではない、そんなリアリズムも佳良。
 最初に思った、「アルゼンチン映画で、この内容で、何故タイトルが『ハワイ』?」という謎も、ラストにそれが軽い仕掛けとなって、ドラマの収束に作用するので納得。予定調和的な部分はありますが、それも雰囲気の良さで自然に乗せてくれる感じ。
 ガツンとくるフックには欠ける作品ですが、エンドクレジットにKickstarterのロゴがあったので、おそらくクラウドファンディングで作られたインディーズ映画なのでしょう。それでこの出来映えなら、これは充分以上に見事。

 美麗な画面と心地よい空気感で綴られる、ゲイならば誰にでも身に覚えがありそうな、ごくごく普通で当たり前の感覚。そんなリアルさを主体にしつつ、同時に詩情や甘美さも押さえ、寸止め系のさりげないエロス表現もプラス。
 テーマといい、クオリティといい、後味の良さといい、ゲイ映画好きなら、まず見て損はない一本です。

【追記】今年(2014年)の東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で、上映あるそうです。
ハワイ|第23回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭

“Gangs of Wasseypur (血の抗争)” (2012) Anurag Kashyap

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“Gangs of Wasseypur: Part 1” (2012) Anurag Kashyap
“Gangs of Wasseypur: Part 2” (2012) Anurag Kashyap
(インド盤DVDで鑑賞、後日Blu-rayで再購入)

 2012年のインド/ヒンディ映画。インド中部の石炭業で知られるエリアを舞台に、イギリス統治時代末期から21世紀現在のタイムスパンで、マフィアやカーストの抗争を3世代、70年間に渡って描いた、クライム大河ドラマ。監督は『デーヴ D』のアヌラーグ・カシュヤプ。
 総計五時間以上に渡る大作で、カンヌ出品時には一挙上映だったらしいですが、インド本国ではパート1と2に分けて上映。日本でも福岡国際映画祭2013で『血の抗争』の邦題で上映あり。

 物語の発端は1940年代初頭のインド。
 石炭業の首都と称されるダンバード近郊、ムスリムが主な人口を占めるワセイプール(?)では、クレシと呼ばれる精肉業カーストが権勢を振るっていた。クレシ一族の長スルタナは盗賊団を組織して、英軍の輸送列車を襲っては食料や家畜をせしめている。
 パシュトゥーン族の長サヒード・カーンは、それを真似てスルタナの名を騙って自分も列車強盗をする。しかし彼はクレシ族の力をあなどっており、報復として部下たちは皆殺しにされ、サヒードと彼の妻、そして従弟のファルハンはワセイプールから追放される。
 サヒードたちはダンバードへ行き、石炭採掘の鉱夫になる。しかし労働環境は劣悪で、鉱夫たちは坑道に入れられると出入り口を鉄格子で閉ざされ、12時間の労働が済むまでは外に出して貰えない。おかげでサヒードは、妻の死に目にも立ち会えなかった。サヒードは鉄格子の番人を殴り殺し、そんな彼に、炭坑の上役ラマディール・シンが目を付ける。
 やがてインドが独立し英国が去ると、炭坑の権利はインド人の元へと戻ってきた。
 上手く立ち回ったラマディールは、ダンバードの炭坑を手に入れ、サヒードに自分と一緒に働かないかと勧める。サヒードはラマディールの右腕となって、かつての同僚の鉱夫たちであっても容赦なく振る舞うようになる。
 実はサヒードには、いつかラマディールを倒して、自分が炭坑を手に入れる野望があったのでが、それを知ったラマディールは、先手を打ってサヒードを謀殺する。ファルハンは、辛くもサヒードの息子サルダル・カーンを連れて逃げ、密かに自分の甥アスガルと一緒に育てる。
 そして20年後、石炭業で儲けたラマディールは、土建業などを経て政界にも打って出、やがてダンバードを牛耳るボスとして君臨する。一方でファルハンは、成人したサルダルに、父の死の真相を告げる。そのときからサルダルは頭を剃り、父の仇を討つまでは決して髪を伸ばさないと誓うのだが……といった内容。

 大いに見応えがあった一本。すっかり気に入ってしまったので、既にDVDを購入していたにも関わらず、後日Blu-rayも出たのを見て再購入してしまったほど。
 前述したあらすじは、これでもまだパート1の1/4程度で、全体からいったら1/8しかきていません。この後、サルダルの妻や息子、愛人、ラマディールの息子、スルタナの息子と従妹などクレシ一派も登場し、殺し合ったり結婚したりという複雑な人間模様が繰り広げられます。
 そんな感じで、1:見慣れない固有名詞多数、2:登場人物が多く関係性も複雑、3:それぞれのパワーバランスを把握するだけでも一苦労……と、面白いんだけれども、きっちり理解しようとするとけっこうハードルが高い作品でもあります。初見時には、まだあちこち良く判らない部分もあり、二度目の鑑賞で把握できたという感じかな。
 最も興味深かったポイントは、ストーリーのアウトライン自体は、まぁ良くある復讐ものっぽいんですが、実際に映画を見ると、そういったテイストとはちょっと違うあたり。
 というのも、復讐劇とは直接関係のないディテールが実に豊富で、しかもそれらも面白いんですな。

 例えば、パート1の主人公であるサルダルというキャラクターにしても、別に四六時中恨みに燃えて、顔を歪めて仇敵のことばかりを考えているわけではない。女房が妊娠してセックスできないので売春宿に行き、追いかけてきた女房に刃物で追い回されて逃げ回ったり、はたまた余所に女を作ったりといった、復讐劇とは直接関係のなさそうな、しかし人間くさいディテールがあちこち描かれます。
 パート2の主人公となるサルダルの息子たちにも、子供時代は徒党を組んでアイスキャンデーを盗むとか、成長してからはそれぞれ年頃の娘さんにホの字になるとか、とにかくディテールが豊富で、しかもそれがクリシェまみれとではない、ちゃんと独自性が感じられるものになっている。拳銃調達のエピソード一つにしても、車のハンドルを改造して手作りしたり、またそれが暴発したり。
 そして、こういった枝葉が完全に余計なものかというと、これがまた決してそういうわけでもなく、それぞれ微妙に本筋の復讐劇にも絡んできたりする。そんなディテールが、ストーリーやキャラクターに複雑な陰影を与え、一般的な復讐劇やヤクザの抗争劇とは、ひと味もふた味も違った魅力になっている感じ。
 特に、サルダルというキャラクターの複雑さは特筆もので、復讐に燃える男系のカッコ良さと、なのに逃走中に短剣を落として慌てるとかいったカッコ悪さもあり、更に、女房を怖がったり息子を溺愛したり愛人にヤニさがったりという、人間くさい可愛さもあったりして、そんな何とも身の丈サイズのリアリティが魅力的。

 ただ、そんなサルダルの陽性の魅力に対して、パート2の主役となる息子ファイザルは、複雑さは同じでも、どちらかというと陰性のキャラ。陽性のサルダルは魅力的で感情移入もしやすく、それが同時に作品世界全体を引っ張っていく牽引力にもなっていたのに対して、性格が内省的で陰性のファイザルは、魅力的ではあるものの、そこまでの圧倒的なパワーはない。
 ファイザルのみならず、基本的にパート2のメイン・キャラクターは、前世代に比べると全体的に卑俗で、魅力や好感度という点では辛いものもあります。
 そうなってくると、パート1では大いに魅力的だった本筋とはあまり関係のないディテールの豊かさが、パート2では話がなかなか前に進まないというイラッと感になってしまっているという部分も、正直なところ少々。登場人物も次々と増え、ただでさえ複雑だった人間関係がよりヤヤコシクなっていくのも、それに拍車をかけてしまう感じ。
 ただし、おそらく作品の主眼は、復讐劇を描くことではなく(とはいえ、いちおう多少の皮肉っぽさも交えつつ、そのプロットはきちんと決着がつきます)、ワセイプールという街に対する妄執に取り憑かれた人々の姿を描くこと、そのものにあるのでしょう。
 それがラストシーン〜エンドクレジットで明示され、同時にこの卑俗で血生臭いドラマを、一気にまるで民話めいた語りもののように転換してみせるという、その鮮やかさは実にお見事。後味も上々です。

 表現面では、人を殺したりバラバラにしたり犬に食わせたりといった、エグいエピソードは色々あるんですが、直接描写はさほどなく、かつ全体にオフビートなノリがあって、これもなかなか面白い。ヤクザ映画でいえば出入りのシーンなのに、妙に醒めたユーモア感覚があるみたいな感じ。
 また、徹底してリアリズム主体ながら(つまりミュージカル場面はなし)、光と色彩にこだわった撮影は実に美しく、また、フィクショナルなドラマと並行して、インドの地方都市の日常光景を描いた魅力も豊富。
 そんなオフビート感や、個々のディテール描写にハマれば、実に面白く見られるんですが、筋立てから想像するようなシンプルな復讐劇の熱さや迫力を期待してしまうと、ちょっと裏切られるかも知れません。とても多層的な魅力があって、一般的なインドの娯楽映画とは一線を画す感じがあります。かといって、変に気取った感じがないのも、これまた面白いんですが。
 似たプロットの、同じくインド映画の大作“Rakht Charitra”2部作と比べると、完成度も技術的にも、こちらの”Gangs of…”の方が上回っているにも関わらず、作品のパワーという点では”Rakht…”の方が勝るというのも、ちょっと興味深い。
 他にも色々と思うところはありますが、それもひとえに作品の持つ多層的な魅力ゆえ。クオリティの高い見応えのある大作であることは確かなので、興味がある方ならまず見て損はなし。
 ディテールとオフビート感とクールな視点が魅力の”Gangs of…”と、濃さと熱さとパワフルさが魅力の”Rakht…”、そんな好対照の2作を比べて見るのもオススメです。

“Priest of Love” (1981) Christopher Miles

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“Priest of Love” (1981) Christopher Miles
(アメリカ盤Blu-rayで鑑賞→amazon.com

 1981年のイギリス映画。D・H・ロレンスの後半生を、まだ40代頭のイアン・マッケランが演じる(初主演映画らしい)文芸映画。
 85年にディレクターズ・カット版が制作されており、今回鑑賞の米盤Blu-rayも同バージョン。

 コーンウォールに済むロレンスは、海で男友達と全裸で泳いでいたところを見咎められ、更に妻がドイツ人(敵国人)であるために、同地から立ち退きを命じられる。
 一方ロンドンでも、ロレンスの著書『虹』が、猥褻であるとの理由で焚書に処される。彼は妻と、女流画家ドロシー・ブレットを伴って、アーティストたちを贔屓にしているメキシコの女富豪の元に渡る。
 こうしてロレンスは、文明社会と世俗に反発を繰り返し、時に最大の理解者である妻とも衝突しながら、女富豪の元からエルパソ、再びイギリス、そしてイタリアへと居を移す。
 やがてカプリ島へ移ったロレンスは、再び妻との衝突と和解を繰り返し、絵画にも手を染めながら、いよいよ『チャタレイ夫人の恋人』の執筆に着手する。
 しかし同書の出版、絵画の個展などを控えながらも、彼の身体は次第に結核に蝕まれていき……といった内容。

 監督のクリストファー・マイルズという人は、私は初めて聞く名ですが、しっかりとした手堅い仕上がり。この題材なら、もうちょっと表現面に大胆なところがあっても良い気はしますが、危うげのない演出、世界各地のロケーションを活かした美麗な撮影、ドラマチックな音楽の良さなど、作品的な風格は充分。
 まだ若いイアン・マッケランは、流石の上手さ。いささか舞台的な演技が目立つ感はあれども、緩急を効かせた演技は説得力も見応えも充分。前述した冒頭場面では、まだ瑞々しいお肌の、フル・フロンタル・ヌードも披露。
 妻フリーダ役のジャネット・サズマンは、ある意味マッケラン以上の熱演で強印象。どこかで見た顔のような……と思ったら『ニコライとアレクサンドラ』のアレクサンドラ役の人でしたか。他にも『ニジンスキー』『英国式庭園殺人事件』なんかにも出ていたみたい。
 顔見せ的な感じで、メキシコの女富豪にエヴァ・ガードナー、ロレンスを目の敵にしているロンドン警視庁のお偉いさん(?)にジョン・ギールグッド。役者ではなく役柄としては、オルダス・ハクスリー夫妻なんかも出てきます。

 ロレンスのバイセクシャル的な側面に関しては、前述の冒頭場面の他、女富豪の夫である逞しいネイティブ・アメリカンや、『チャタレイ夫人』の森番メラーズを着想する基となった逞しいイタリア人農夫を、何か含みありげに意識している描写があれども、あくまでも何となく匂わせる止まり。
 ここいらへんは、若い頃にケン・ラッセル監督の映画『恋する女たち』(ロレンス原作)を見て、「なにこのホモセクシャルになりそうでならない寸止め感は!」と、変に悶々とした感じを思い出しました(笑)。ロレンス(およびその作品)って、そーゆーものなのかしら… …。
 ただ性愛描写自体に関しては、男女間におけるそれも同様で、ロレンス自身の扱うモチーフや、妻との間で交わされるきわどい台詞、複数の女性と情交がある関係などを、セクシャルな要素をあちらこちらに匂わせながらも、具体的な描写は何もないあたりが、ちょっと興味深かった。ベッドシーンに類する場面としては唯一ある、ロレンスが女性に夜這いをかける場面も、結局は未遂に終わってしまうし……。
 とはいえ、性愛とその表現に関する会話などには、やはり自分の職業柄もあって大いに引き込まれるものあり。ただヒアリングオンリーの鑑賞だったので、かなりの部分は拾い損ねていると思います。Blu-rayだからCC英語字幕が付いてるかな〜と期待したんだけど、残念ながら字幕は入っていませんでした。

 もう一つ、個人的にとても興味深かったのが、ロレンスの絵画展の件。警察の指示のもと、猥褻とされた絵画が撤去押収されてしまうんですが、その中に、画廊が一緒に飾っていた別の作品、それもウィリアム・ブレイクの絵画が含まれていたという、皮肉の効いた描写に思わずニンマリ(笑)。
 具体的には(ちょっとネタバレかも知れないので白文字で)、まず、ジョン・ギールグッド扮する警察の偉い人が、客を装って画廊を訪れ、展示されている絵画の中から《猥褻》に相当するものをリストアップする。そして後日、警察隊がやってきて、リストの作品を一斉に撤去し始める。するとその中に、ロレンスの絵ではなく、画廊が独自に飾っていたブレイクの絵画が混じっている。
 で、画廊の主が「それはロレンスの絵じゃない、もう大昔に亡くなっているブレイクの絵だ」と抗議すると、警官たちは「あっ、そ。もう死んだ奴の絵なんだってさ!」と、その絵は撤去せずに画廊に残していく……という展開です。
 そんな感じで、
官警による《猥褻》の判断と規制を、その滑稽さも交えて小気味よく皮肉っており、これは今の日本でも全く同じ問題が現存しているわけで、そこがかなり個人的にポイント高し。

 というわけで、映画として突出した+αには欠けますが、クオリティは申し分なく、見応えも充分。
 イアン・マッケラン、D・H・ロレンス、性愛表現のタブーに挑戦し続けた作家、表現規制……そういった要素に興味のある方だったら、まず見て損はない一本。

Mascular Magazineに作品提供

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 ゲイ・アート系のウェブジンMascular Magazineの第8号(フェティッシュ特集号)に、作品を数点提供しました。
 同誌のサイトからPDFを無料でダウンロードできます。
http://www.mascularmagazine.com/
 同号には、世界中から総勢30名ほどのアーティストが参加しており、それぞれ数点ずつ作品を提供。総計260ページ以上、約60MBというヴォリュームなので、お使いの回線状況によって異なりますが、ダウンロードにちょっと時間がかかるかも知れません。
 また、収録作品には外性器の露出やボンデージ、SMなどのアダルト・マテリアルも含まれますので、ダウンロード&閲覧は自己責任でよろしくお願いいたします。

 拙収録作に関しては、自分のフェティシズムが反映された作品を数点セレクト、そこに先方の依頼で、自作品解説を日本語と英語で併記。
 で、この日本語の解説ですが、最初に英文で書いた後、それを再度日本語で書き直すという方法をとったところ(先に日本語で書いちゃうと、それを英訳するのが厄介なので……『あ〜こーゆーの英語で何て言えばいいんだ???』ってことになっちゃうので、最初から英語で考えた方が、自分のボキャブラリのキャパに合った説明だけで留められるから楽w)、そしたらなんか脳味噌の接続が上手くいかずに、直訳調みたいな変に固い日本語になっちゃいました。お前ホントにネイティブかって感じの(笑)。
 まぁ、そこいらへんはご愛敬ってことで、ご寛恕。
 提供作品は基本的に、旧作の中からのセレクトですが、以前企画展用に描いたオリジナル作品(つまりその企画展意外では未発表)を、更にこのMasculine Magazine用に新規着色・デジタル仕上げにしたものが入っています。今のところ、ここ以外では見られない作品なので、宜しかったら是非ご覧あれ。

 前述したように、他の収録アーティストは世界中から総勢約30名と、国籍も作風もバラエティに富んだセレクトとなっています。
 大体が写真作品がメインで、絵画系は私も含めて数人程度。レザーあり縛りあり女装ありコンセプチュアルありと、作品のレンジは色々ですが、野郎系好き&フェティッシュ好きの方なら、かなり面白いラインナップで楽しめるかと思います。

【収録作品例】
Gengoroh Tagame
mascular8tagamec

Aurelio Monge
aureliomongec

Ron Amato
ronamatoc

Olivier Flandrois
olivierflandroisc

Inked Kenny
inkedkennyc

Wim Beullens
wimbeullensc

 もちろん各収録作家のプロフィールやサイトリンク等の情報付き。
 前述したようにダウンロード・フリーでもあるので、お時間のあるときにでも是非どうぞ。

ちょっと宣伝、『奴隷調教合宿』第七話掲載です

doreichokyogassyuku07
 3月21日発売の「バディ」5月号に、連載マンガ『奴隷調教合宿』の第七話掲載です。
 例によって内容は、ラブのかけらもないエロ路線まっしぐらです。
 先月号では一回お休みしてしまいましたが、今月号では、調教の甲斐あって順調に(?)堕ち続けている主人公の痴態を、タップリお楽しみいただけるかと(笑)。
 見せゴマ大ゴマで抜きドコロもしっかり確保。
 是非一冊お買い上げの上オカズに使っておくんなまし。

Badi (バディ) 2014年 05月号 [雑誌] Badi (バディ) 2014年 05月号 [雑誌]
価格:¥ 1,500(税込)
発売日:2014-03-20

aktaさんのコンドーム・パッケージ画を描きました

akta_condom
 HIV予防啓発&陽性者支援のNPO法人aktaさんの、無料配布コンドームのパッケージ画を描かせていただきました。
 新宿二丁目のコミュニティセンターakta、及びゲイバーなどで無料配布されるはずなので、お見かけの歳は是非お持ち帰りになり、ホットなセーファーセックスを楽しんでください!