“Poltergay” (2006) Eric Lavaine

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“Poltergay” (2006) Eric Lavaine
(イギリス盤DVDで鑑賞→amazon.co.uk

 2006年のフランス製ゲイ映画。
『ポルターゲイ』というタイトルから想像がつく通り、新婚夫婦が古屋敷に引っ越してくると、そこには5人のゲイの幽霊が棲んでいて……という《ポルターガイスト+ゲイ》のコメディ映画。

 マルクとエンマの新婚夫婦は、パリ郊外にある古い屋敷に引っ越してきた。
 しかし飼い猫は何かに怯え、マルクがシャワーを浴びると自動的にポラロイドカメラのシャッターが切られて、全裸写真が撮影されてしまい、しかもその写真が行方不明になってしまう。
 更にクローゼットはいつの間にか整頓され、気付かぬ間に壁やビリヤード台に翼の生えたペニスの絵が描かれ、夜になるとどこからともなく怪しい音楽……ってもボニーMとかなんですが(笑)……が流れる等の怪現象が続発。
 やがてマルクは、壁を通り抜ける人影を目撃。そしてそれを追った結果、地下室でクラシック・ディスコ・ミュージックにのって踊っている、5人のゲイゲイしい男たちを見つける。
 しかしそれらを見聞きできるのはマルクだけで、エンマは夫の頭が変になったのではと心配する。また、謎の男たちを追い払おうとしたマルクは、屋敷を訪ねたエンマの父親(でありマルクの雇い主でもある)を、誤ってスコップで殴ってしまう。
 これが決定打となってエンマは家を出て、同時にマルクは職を失ってしまう。
 自分だけが見えるゲイたちの姿にノイローゼになったマルクは、友人に相談したり精神分析医にかかったりするが、返事は「君はゲイだ」とか「潜在的な同性愛傾向がある」ばかり。やがてマルク自身、ひょっとして自分はゲイなんじゃないかと疑い始め、ゲイクラブに行ってみたりする始末。
 しかしやがて、マルクは庭で古ぼけた看板を発見。ネット検索した結果、この屋敷の地下はかつてゲイディスコで、それが70年代末に火災事故が起き、何人か死者も出てたことを突き止める。それによって地下室の5人組も、ようやく自分たちが既に幽霊になっていることを悟る。
 ゲイの幽霊たちはマルクに、自分たちをここから解放してくれと頼み、同時にマルクがエンマの愛を取り戻す手助けをすることにする。
 果たしてゲイの幽霊たちは屋敷から解放されるのか? そしてマルクとエンマの仲は? ……といった内容。

 あちこち小ネタでクスクス笑わせながら、同時にストーリー的にもアイデア豊富でエピソードも盛り沢山、軽いノリとテンポの良さ、それと結末への興味でトントン乗せて見せてくれる、なかなか楽しい一本。
 ちょっとした泣き要素や、ラストの「ええええ、こーゆーオチ???(笑)」なんかも良く、後味は上々。
 ただ、内容が盛り沢山&話の展開が早い反面、ちと盛り込み過ぎなところもあり。特に後半、焦点が幽霊たちの成仏の話に移り、テンプル騎士団だの封印の石だのが絡んでくるあたりは、いかにも安易でイマイチ。ゲイの幽霊5人組の中で、しっかりキャラが立っているのは二人だけというあたりも、ちょい惜しい。
 でもまぁ、ゲイネタ込みの軽いコメディ作品としては、十分楽しめる出来かと。
 ゲイネタの笑いでは、自分もゲイかもと思ったマルクが、ゲイクラブで知り合った男に、自分が建築現場で働いていると言うと、相手が急に「作業服あるか?着てくれ!トルコ語しゃべってくれ!」とエキサイトしだすあたりが、個人的にヒット(笑)。
 あとは、自分が死んでからもう30年も経っていると知って、ゲイ幽霊の一人がしみじみと雑誌を見ていると、パリ市長ドラノエ氏の写真を見て「元彼が市長になってる!」と驚いたり、まぁそういうノリです(笑)。
 また、30年ぶりにパリに出たゲイ幽霊たちが、軒並ぶゲイ・クラブやゲイ・ブックストアなんかを見て「約束の地だわ!」(聖書のアレね)と興奮するあたりは、笑いのシーンではありつつ、地味に良い場面だと思う。
 泣かせ要素も、サラッとしたもんなんだけど、でもいい感じだし。

 というわけで、なかなかウェルメイドなコメディなので、題材に興味のある方ならクスクス笑いながら楽しめるかと。個人的にはオチ(笑)と後味が大好き。
 どんなオチかは、末尾に白文字で書いときますんで、ネタバレOKの方はどうぞ。

 ラスト部分の解説、以下白文字。
 結局ゲイ幽霊たちは、マルクの奮闘も空しく、何百年かに一度だった成仏の機会を逃して、失敗してしまう。
 しかしここで、エンマの仕事が考古学者で遺跡の発掘に従事しているという伏線が効いて、彼女がポンペイだかどこだったか、とにかく古代ギリシャかローマの遺跡から、大量の幽霊たちを屋敷に連れてくる。
 爆発事故で廃墟になっていたゲイクラブも、きれいにリフォームされ、そこで生者も死者も入り交じって(その中には、30年前に死に別れた、ゲイ幽霊とその恋人というカップルなどもあり)、皆で楽しく踊り明かす
というオチ。
 好きだわ〜、これ(笑)。

“Solo” (2013) Marcelo Briem Stamm

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“Solo” (2013) Marcelo Briem Stamm
(アメリカ盤DVDで鑑賞→amazon.com

 2013年のアルゼンチン製ゲイ映画。監督はMarcelo Briem Stammという人で、これがデビュー作。タイトルの意味は《孤独》。

 失恋の痛手を引きずっている青年が、出会い系のチャットで知り合った見知らぬ青年を家に連れ込むが……というスリラーもの。
 出会い系チャットをしていた青年マヌエルは、そこで出会った青年フリオと外で待ち合わせして、互いに気に入ったので家にお持ち帰りする。
 フリオにシングルかと聞かれたマヌエルは、二年間付き合った前の彼氏に酷く裏切られて分かれたばかりだと言う。一方のフリオも今は付き合っている相手はおらず、しかも失業中で今借りている部屋も契約更新が迫っている等の悩みがあることを打ち明ける。
 やがて二人は肉体関係を結び、互いにフィーリングも合う感じなので、恋人として付き合おうかという雰囲気になる。
 しかしセックスが終わった後、明日は朝早くに女友達が家に来るから今夜は泊められないというマヌエルに、フリオは「セックスが終わって気分が醒めたゲイは、よくそういう嘘をついて相手を帰そうとする」と言う。マヌエルは、女友達が来るというのは本当で、自分たちが今後どう付き合っていくかは、また日を改めて話そうと説明するが、フリオは再び「また今度と約束して、そのまま二度と連絡しないのも、ゲイがよくつく嘘だ」などと言う。
 そんなフリオの様子に、ちょっと異様な感じを受けたマヌエルは、本気でもう帰ってくれと言う。
 フリオは「自分は頭に血がのぼりやすいんだ」とマヌエルに謝り、自分が今いかに孤独か、そんな自分にとって、フィーリングが合ったマヌエルと、一晩一緒に過ごせるということが、どれだけ大きな期待であったかを説明する。
 それを聞いたマヌエルは、帰ろうとするフリオを「女友達が来るのは朝だから」と引き留める。
 二人は再びセックスをし、あれこれ話もして更に打ち解けるのだが、その間もずっと、もう真夜中も過ぎて明け方だというのに、フリオの携帯が何度も鳴り、しかも彼はそれを無視している。
 一方でマヌエルも、フリオと一緒にいながらも、ときおり分かれた元彼のことが頭をかすめ……といった内容。

 これはなかなかの出来映え。
 ゲイなら誰でも身に覚えがあるような設定を使い、丁寧に描かれたディテールが積み重ねられていき、その合間合間にちょっと不穏な気配も漂い……という構成なので、果たしてこれがスリラー方面に転がっていくのか、それともラブストーリーになるのか、先が全く読めない。
 で、あんまり説明するとネタバレになるんで詳細は避けますが、私はすっかりミスリードに引っかかってしまい、「うわ、一本とられた!」という結果に。
 ストーリーにはツイストが何度も入るし、多少の無理はあるものの、伏線も周到に張り巡らされていて、脚本&作劇のレベルは上々。
 ゲイ映画的な部分のみをピックアップしても、全体のリアルな空気感、交わされる会話の妙味、セックス場面のムードなど、昨今の「身の丈サイズのドラマを、空気感やディテールで丁寧に見せる」系のゲイ映画として、充分以上に佳良。
 おそらく低予算のインディーズ映画だと思うんですが、彩度を抑えた柔らかな色調や、被写界深度を利用したアウトフォーカスなど、撮影のレベルは高く、役者の演技も文句なし。
 ほぼ密室劇、それもたった一晩の出来事を描いているだけなのに、リアルでゆったりとした空気感に、ときおり緊張が走るという構成を上手く用いていて、全く弛緩することはありません。先の読めない展開の面白さに加えて、見応えもしっかり。
 ツイストが入る展開なので、そのあたりで好き嫌いは分かれそうですが、ゲイ映画ならではという醍醐味がありつつ、同時にゲイ映画ではあまり見たことがないタイプの内容でもあり、クオリティも上々。

 リアルなゲイドラマの良さと、スリラー的な面白さが上手く合体した、ちょっと異色の一本で、間違いなく一見の価値はあり。

“David” (2013) Bejoy Nambiar

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“David” (2013) Bejoy Nambiar
(マレーシア盤&インド盤DVDで鑑賞)

 2013年のインド映画。異なる時代、異なる場所で暮らす、同じデヴィッドという名前の男たちの姿を交錯して描きながら、人生の意味を問うヒューマン・ドラマ。それぞれ漁村と都会に住む、二人のデヴィッドを描いたタミル語版と、それにロンドンに住むデヴィッドを加えた三人のヒンディ語版あり。
 監督のは、デビュー作“Shaitan”のエッジの効いた作風が話題になった、ベジョイ・ナンビアール(?)。タミル語版とヒンディ語版共通して、漁村のデヴィッド役にご贔屓ヴィクラム。
 都会のデヴィッドは、タミル語版がジーヴァ(?)、ヒンディ語版がヴィナイ・ヴィルマニ(?)。ヒンディ語版のみ登場のロンドンのデヴィッドにネリ・ニティン・ムケーシュ(?)。

 1975年、ロンドン。
 同市に居を置くインド/パキスタン系マフィアのボスで、インドでのテロにも関与している人物を暗殺するために、インドから特殊工作員数名が来英するが、そのボスには腹心でスゴ腕の男、デヴィッドがついている。
 デヴィッドは幼い頃に親を亡くし、ボスに育てられ父親のように慕っており、同時に同じくボスの家に暮らす縁戚の娘ヌールと密かに愛し合っている。一方でボスの実の息子は、父親が自分よりデヴィッドを愛していると感じ、グレて放蕩者になっている。
 しかしデヴィッドは、インドからきた工作員たちから、実はデヴィッドの実父を殺し母を奪ったのは、彼が慕っているボスであり、その暗殺に手を貸すように持ちかけられ……。
 1999年、ムンバイ。
 都会に住む青年デヴィッドは、牧師の息子でミュージシャンを目指している。彼は、自分たちの生活費を削ってまで貧しい者のために尽くそうとする父親に反感を持っており、いつかこの街を飛び出してミュージシャンとして成功することを夢見ている。
 そんな中、ようやく念願叶ってデモテープが認められ、彼は有頂天になるのだが、そんな最中、反キリスト教の保守派が家を襲い、彼の父親である牧師が公衆の面前で暴行されてしまう。以来、牧師は精神に異常をきたしてしまい、デヴィッドはそんな父親の仇をとりたいと、事件の黒幕である女政治家に迫るのだが……。
 2010年、ゴア。
 漁村に住む中年の漁師デヴィッドは、かつて結婚式の日に花嫁に逃げられ村中から笑われて以来、酒浸りとなって酒場では喧嘩を、しかも日がな酔っぱらって死んだ自分の父親の幽霊と話しているので、周囲からはちょっと頭がいかれていると思われている。
 ある日、漁師のデヴィッドの親友ピーターのところに、結婚話が持ち上がる。その結婚相手、美しい聾唖の娘ロマに紹介されたデヴィッドは、ふとしたきっかけで彼女から頬にお礼のキスをされて舞い上がってしまい、真剣に自分が彼女と結婚したいと思うようになる。
 しかし自分がロマを横取りすれば、かつて自分が受けた仕打ちと同じことを、親友に対してすることになる。思い悩んだデヴィッドは、父親の幽霊や、馴染みのマッサージパーラーの女主人や、母親に相談するのだが、可笑しなトラブルばかり起きていっこうに悩みは解決せず……。
 果たして、ロンドンのデヴィッドは育ての親であるボスの暗殺に手を貸すのか、ムンバイのデヴィッドは父の教えに従って件の政治家を赦すことができるのか、漁師のデヴィッドは親友の花嫁を奪って結婚式を壊してしまうのか?
 ……といった内容。

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 では、まず先に鑑賞したロンドン・パートがないタミル語版の感想から。

 なかなか面白かったです。
 同監督の話題になった前作”Shaitan”でもそうでしたが、映像は如何にも今風のスタイリッシュ系で、テンポや演出もシャープ。いわゆる昔ながらのインド映画っぽさはほぼ皆無で、テイストとしてはアメリカのインディーズやヨーロッパ映画に近い感じ。同時に、魅力的ながらも後半ちょっと失速してしまった”Shaitan”と比べると、今回の”David”ではそういうこともなく、完成度もこちらの方が上。
 漁村のパートを完全にコメディ仕立て、都会のパートは完全にシリアス仕立てにしているのも、その対照が効果的でマル。陽光に満ちたカリブ海風の映像と、寒色を基調とした都会の映像のコントラストも良く、それぞれのエピソードを切り替えるタイミングも上手い。
 全体の尺が、インターミッションなしの2時間強というコンパクトさも良し。
 テーマ的には、良心の声とキリストの教えという二本柱で、人はそれによって救われるかといった感じなんですが、それと同時に、見えざる神の手のような運命論的な要素も見え隠れするのが興味深いところ。
 エピソード的には、漁村パートであちこち仕込まれる《奇妙な話》系の小ネタが楽しい。

 ヴィクラムは相変わらず達者。ユーモラスな悩める男を愛嬌たっぷりに見せてくれます。
 青年デヴィッドを演じるジーヴァも、抑えたリアリズム主体の演技で佳良。
 牧師役のナサールはタミル映画で良く見かける人ですが、これまた抑えたリアリズム演技が、いつもとひと味違っていてとても良かった。
 総合すると、全体がリアリズム主眼でインド映画的なクセもなく、一般的な他の国の映画と変わらない感じで見て楽しめる一本で、後味も上々。ただ、魅力的な要素は多々あれども、これぞという決定打にはもう一つ欠ける感じもあり。
 とりあえず、ヴィクラム目当てならマストと言って良いかと。

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 続けて、後から見たロンドン・パートが増えているヒンディ語版の感想。

 まず、タミル語版と比較すると、タミル語版ではロンドンのパートがないということもあって、全体的なまとまりはタミル語版の方が上。
 しかし、最後に明らかになる仕掛けの面白さ、つまり、この三人のデヴィッドの話には、いったいどういうことが秘められているかが、最期に浮かびあがるというカタルシスは、構成がより複雑なヒンディ語版の方が勝っているという印象。
 映像面では、タミル語版同様、寒色系主体でフォーカスの操作なども凝ったムンバイと、色鮮やかで暖色系主体のゴアに加えて、かっちりとしたモノクローム映像のロンドンが加わり、いかにも映像派の監督らしい魅力が増大。撮影監督も三人いて、それぞれがそれぞれの場所を撮っているらしいです。
 ただ、前述したまとまりという点では、ロンドンのパートだけ毛色が異なり過ぎていて、ちょっと上手く噛み合っていない感じがするのが正直な印象。
 ドラマの基本構成は、個の内面の葛藤という点で、他のムンバイやゴアと同じなんですが、ロンドンだけストーリーの外枠が大きすぎる。その結果、どうしても状況説明に多くの時間を費やすことになり、心理ドラマが描写不足になってしまっているのが物足りない。
 また、他の二人のデヴィッドは、それぞれの決断がダイレクトに物語の締めに繋がるのに対して、ロンドンのデヴィッドだけそうではないのも、やはり違和感が生じる要因の1つ。
 その反面、このロンドンのドラマ的な枠組みの大きさによって、クライマックスの仕掛けによる「あ、そうか!」感が、より大きくなっているというメリットはあり。
 また、タミル語版とヒンディ語版に共通して、音楽が良かった。インド的なテイスト保ちつつ、ゴアではラテン調、ムンバイではオルタナティブ・ロック風の要素などが加わり、特にヒンディ語版のロンドン・パートで、結婚式のカッワーリ(ヌスラット・ファテ・アリ・カーンも歌っている”Dam Mast Kalandar”)に途中からエレキギターが被さって、映像と共に変化していく部分なんか、かなり「おおっ、かっこええ!」なんて思わされたり。

 役者さんは、ロンドンのデヴィッドを演じるネリ・ニティン・ムケーシュが、とにかくすこぶるつきのハンサム。もう、この人を見ているだけでも満足できるくらい、個人的にはツボにヒット(笑)。
 演者が変わったムンバイのデヴィッドは、タミル語版がわりと熱血直情青年系だったのに対して、ヒンディ語版はもう少し今様のクールさやナイーブさが感じられる青年になっていて、また違った魅力あり。ミュージシャンに憧れる云々という点で言うと、ドレッドヘア効果もあってヒンディ語版のヴィナイ・ヴィルマニの方が、よりしっくりきている感じもあり。
 というわけで、意欲は買うんだけど正直必ずしも成功しているとは言えない感じもありますが、それでも捨てがたい魅力も多々ある……というのがヒンディ語版の印象。無理がないぶん完成度は高いタミル語版、破綻はあれども心意気やよしのヒンディ語版、私としては「どっちも好き!」という結果でした。

 どちらのヴァージョンも、特殊性を求めてインド映画をご覧になる方には、あまりオススメできませんが、映画好き・映像作品好きなら、あちこち見所・お楽しみどころが沢山あると思います。ただ、私の入手したタミル語版DVDは画質が悪く、対してヒンディ語版DVDは高画質でしたので、どちらか一本だったら、尺が長いことも含めてヒンディ語版がオススメ。

“Çanakkale 1915” (2012) Yesim Sezgin

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“Çanakkale 1915” (2012) Yesim Sezgin
(トルコ盤DVDで鑑賞、米アマゾンで入手可能→amazon.com

 2012年のトルコ映画。第一次大戦時、イギリス他の連合国軍対オスマン・トルコ軍の、ダーダネルス海峡とガリポリの戦いを、トルコ側の視点で描いた戦争大作映画。

 ストーリー的には戦記物に徹していて、1914〜15年にかけてのダーダネルス海峡周辺で起きた戦闘を、日時を明記しながら時系列に沿って、軍の上層部と現場の兵士たち双方の視点を交えながら描いたもので、戦場およびその周辺以外のドラマはほぼ皆無という作り。
 兵卒側の視点は、愛国心に燃えてアナトリア地方の村から入隊してきた青年たちのドラマがメインとなり、司令部側では優れた軍人で人徳にも篤い青年将校ムスタファ・ケマル(後のアタチュルク)が、次第に頭角を現していくのが描かれます。
 それらを通じて、祖国を守るために人々がいかに闘ったか、銃後の人々もしかにそれをサポートしたか、戦場ではどんな悲劇や感動的なドラマがあったか、ちょっと難ありのオスマン・トルコ上層部に対して、アタチュルクはどれだけ優れていたか……といった要素が愛国心を鼓舞しながら繰り広げられる。

 イスラム色も濃厚で、いわゆる英霊的な描写も多く、映画全体も、故国を守るために戦死した英雄たちに捧ぐ頌歌のような作り。海戦場面などはCG大会になっちゃいますが、それでもスケール感や物量感といった大作の味わいはタップリ。
 ドラマ的には、登場人物が皆似たような口ヒゲを生やしているせいもあって、ちょいと見分けが付きづらく、また、戦場以外のエピソードはほぼないので、感情移入もし辛い面はあるんですが、それでもいかにもエモーショナルなエピソードが次から次へと出てくるので、けっこうグイグイ見られます。
 例えば、砲台に弾を運ぶ装置か何かが壊れてしまい、一人の力自慢の兵士が何百キロもある砲弾を背中に乗せて、何往復もして運ぶとか、部下を庇って撃たれた上官をおぶって野戦病院まで運び、すぐまた戦場に戻るとか、そういった《戦争美談》みたいのがいっぱい。
 銃後の描写でも、過去の戦争で夫も息子も亡くした老農婦が、彼らの帰りを待っている間に編んでいた靴下を、兵隊さんのために役立ててくれと供出し、担当の兵士に敬礼して挨拶するとか、昔の日本の国策映画を連想するようなシーンも幾つか。

 トルコの映画ならではといった味わいも多く、例えば、塹壕で兵士が皆、生き埋めになり死んでしまった……と思いきや、ジャラ〜ンというトルコの伝統音楽の調べと共に、土中からムクムク這いだしてきたり、将校が独断で兵を出すことを決断し、進軍するシーンにオスマントルコ軍楽が流れたり。
 戦死した兵士のポケットから自作の詩が出てきたかと思うと、次のシーンでは塹壕の中でサズの弾き語りでそれを歌い、更に次にはその歌が兵士の間で流行していたりするあたりも、いかにもトルコ映画的な感じで面白かったです。
 敗れた軍服を麻袋を切って繕うといった、戦線における日常を描いたディテールもあれば、鳥瞰で捉えたトルコ歩兵対連合軍歩兵の衝突が、そのままイスラムの赤い三日月にオーバーラップしたりなんていう、叙事詩みたいな場面もあり、そんな表現の幅広さも面白く見られたポイントの一つ。

 というわけで、とにかく愛国心と信仰心をベースにした戦争美談スペクタクル映画なので、そういう意味では潔いほどブレがない一本。
 そういったもの自体に抵抗を感じる方には、これは全くオススメしませんが、戦記物がお好きな方だったら、2時間強、もうタップリ楽しめること請け合いです。

『くまのアーネストおじさんとセレスティーヌ (Ernest et Célestine)』 (2012) Stéphane Aubier, Vincent Patar, Benjamin Renner

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“Ernest et Célestine” (2012) Stéphane Aubier, Vincent Patar, Benjamin Renner
(英盤DVDで鑑賞→amazon.uk、米盤DVD&Blu-ray、2014年6/10発売→amazon.com

 2012年のフランス/ベルギー製長編アニメーション映画。
 ガブリエル・バンサンの絵本『くまのアーネストおじさん』シリーズのアニメ化……というより、それを元に自由に翻案した感じの作品。
 2012年フランス映画祭、他、『アーネストとセレスティーヌ』の邦題で上映あり。監督・ステファン・オビエ、ヴァンサン・パタール、バンジャマン・レネール。近日では東京アニメアワードフェスティバル2014(3/20〜23)でも上映予定あり。
 残念ながら受賞は逸しましたが、2014年のアカデミー賞長編アニメーション部門にもノミネートされた一本。

 地上ではクマが、地下ではネズミが、それぞれ街を作って人間のように暮らしている世界。
 冬が訪れ、貧乏な大道芸人のクマ、アーネストは腹ぺこ。孤児院育ちのネズミの少女セレスティーヌは、歯医者の元で働いているが、本当は歯医者になんかなりたくなくて絵を描きたい。
 ネズミの世界では、《何でも食べる大きな悪いクマ》というのが、子供を脅す定番となっているのだが、セレスティーヌは、クマとネズミが仲良くしている絵を描いて孤児院の院長に叱られたりして、周囲に馴染むことができない。
 そんなある日、歯医者の仕事で地上に出て、クマの歯を集めていたセレスティーヌは、誤ってゴミ箱の中に閉じ込められてしまう。そんなゴミ箱の蓋を開けたのは、腹ぺこで食べ物を探していたアーネスト。
 セレスティーヌは、アーネストを菓子屋の地下倉庫に忍び込ませてあげ、代わりにアーネストは、セレスティーヌのためにクマの《差し歯屋》のストックを盗んであげるのだが、その結果二人は、クマの世界とネズミの世界の両方から強盗犯として手配されてしまい……といった内容。

 叙情あり、活劇あり、人情あり、笑いありの、本格的な長編娯楽アニメーション。画面は美麗で、テーマも良く、そして面白さもバッチリという、三拍子揃った良作でした。
 ストーリーはかなり自由に翻案されているようで、原作絵本のファンからすると、ひょっとするとどうかという内容なのかも知れないけれど(私も原作は絵を知るのみで、内容は良く知らず)、独立した話としては充分以上に面白く、見所もいっぱい。
 絵は線描+水彩淡彩調で、ガブリエル・バンサンの達者この上ない絵には、残念ながら全く及んではいないものの、しかし軽やかな描線や柔らかな色調は美しく、キャラクター以外にも叙情的な自然描写などには絶大な効果を発揮。
 一方でキャラクターの表情などは、かなりマンガっぽいデフォルメ、それも日本のマンガっぽさを感じさせるタッチで、ちょっとはるき悦巳先生とか村野守美先生とかを連想したり。見ていて何となく、ジブリアニメを連想したりもしたので、ヨーロッパのアニメ慣れしていない一般の日本の観客にも、良い意味で敷居が低いんじゃないかな?
 ストーリー展開に応じて変化していく、ヴィジュアルや動きによる見せ場のあれこれも面白く、例えば地下のネズミの街には、『天空の城ラピュタ』の炭坑町的なファンタジー性を感じたし、地上のクマの街では、カーチェイスといったアクションシーンもあり。
 中間部は、アーネストとセレスティーヌが共に暮らしながら、少しずつ心を通わせていく様子が描かれるんですが、このパートでは叙情的な魅力がたっぷり。更に、アート・アニメーション的なアプローチも上手く盛り込まれていたりして、もう見所いっぱい。
 そしてクライマックスでは、再びドラマチックでスペクタキュラーな展開となり、しかしエンディングはもちろんハートウォーミング。あちこちユーモラスな描写も佳良で、ラストは原作絵本との接続もあり……と、長編アニメーション(1時間20分)を見たという満足感は大。
 クラシカルな要素に、ちょいとアヴァンポップとかキャバレー音楽みたいなテイストも加味した、洒落た室内楽といった感じの音楽も実に良し。
 あと、セレスティーヌはとにかく可愛いし、対するアーネストは、ちょいとアウトロー気味で、がさつなところもあれば優しいところもある、もっさいオッサンという感じで、これまた萌える。
 で、そんなはみだし者二人の間に、世間一般ではあり得ないとされる絆が生まれ……とくれば、これはもう私としてはツボ押されまくり。世間で《普通じゃない》とされている関係を、それでも自分たちは毅然として貫く姿勢というのには、やはりグッときちゃいます。

 この部分を、ゲイ目線でもうちょっと突っ込んで語ると(ちょいネタバレ気味かも知れないので白文字で)、最初はこの二人は、アクシデント的に一緒に暮らし始め、そして互いのことを知っていくうちに、やがて深い絆で結ばれるわけですが、まだその時点では、人里離れたアーネストの家に一緒に隠れ住む、つまり世間とは隔絶された《二人だけの世界》でしかない。しかしクライマックス、二人の逮捕・裁判という展開において、二人はそれぞれに堂々と、自分たちが互いに互いを必要としあっているということを、きちんと《世間》に向けてアピールし、そしてそれを勝ち取る。
 こういった、二人だけの世界で隠花植物的な幸せを営むので終わらせずに、そういう関係をアウトして(隠さないでオープンにして)世間に受け入れさせるところまでを描くというのは、2014年に生きる一人のゲイとして、「よくやってくれました!」と喝采したい気分になります。でもって、そのアウトの部分がエモーショナルなクライマックスになるわけですから、これはもうたまらない。

 というわけで、まず何より面白い。そして綺麗で可愛くて有意義。
 しかも海外アニメ好きのみならず、普通にジブリアニメとかが好きなファミリー層にも受けそうな、間口の広さが感じられる作品なので、これが日本では映画祭等の上映だけなのは、何とももったいない。
 何とか一般公開か、それが無理ならDVDスルーででも、日本語字幕や吹き替え付きで、広く見られるようになることを切望します(一応ギャガが買い付けはしているらしいんですが……)。

【追記】『くまのアーネストおじさんとセレスティーヌ』の邦題で、2015年8月22日〜めでたく日本公開!(公式サイト

【追記】日本盤DVDも無事発売。
[amazonjs asin=”B014QI4Z0M” locale=”JP” title=”くまのアーネストおじさんとセレスティーヌ DVD”]

廉価盤DVDで見た往年の日本の国策映画6本

野戦軍楽隊 SYK-166 [DVD] 野戦軍楽隊 SYK-166 [DVD]
価格:¥ 1,764(税込)
発売日:2013-07-02

『野戦軍楽隊』(1944)マキノ正博
 中国で兵士慰問と民衆の心を捕らえるために、玄人素人入り交じった軍楽隊が作られていく様子を、音楽とユーモアを交えて描いた内容。上原謙、佐野周二、佐分利信、ゲスト出演的に李香蘭。
 軍楽隊のために兵士が集められるが、その半数が素人、それを残る半数の音楽経験者が、マンツーマンでコンビを組み指導していく……というのが主な粗筋。メインは音大出の上原と、それに反発する佐野の確執。そこに杉狂児などのコミックリリーフも交えて、全体的にはわりと長閑な音楽映画という趣。
 個人的に興味深かったのは、もともとドラマの舞台が軍隊というホモソーシャルな世界な上に、前述した音楽の玄人と素人で組ませたコンビに向かって、上官の佐分利が「お前らはこれから夫婦だ」などとのたまい、兵たちもそれに乗って、それぞれのパートナーを夫と妻に見立てたユーモラスな会話が交わされたりするもんだから、何とゆーか、仄かな男色アロマが漂っているあたり。
 そんな中、インテリ系の上原とヤンチャ坊主みたいな佐野の《夫婦》が、どうも上手くいかないという確執があるんですが、それが遂に和解するシーンなんて、これはホモセクシュアルではなくホモソーシャルだというのは判っていつつも、絵面も含めて、つい「……ゲイ映画?」なんて思っちゃったり(笑)。
 音楽映画的な工夫も随所に見られ、そういった部分も楽しめるんですが、終盤、農村で日本の音楽を披露した次に、「今度は中国の音楽を」と歌の上手い村娘(李香蘭)が呼ばれ、軍楽隊の伴奏で周璇の『天涯歌女』を披露するあたりから、ちょっとプロパガンダ臭が濃厚になっていきます。
 更にクライマックスでは、中国語のナレーション付きで大東亜共栄圏の正当性を訴えつつ、それでもやはり音楽や画面自体は魅力的だったりするので、正直やはり見ていてちょっと複雑な気持ちになる。音楽映画的にも国策映画的にも、綺麗にまとめた感のあるエンディングも同様。
 まぁストーリー的には、軍楽隊が一人前になるところが実質的なクライマックスであり、前述した終盤以降の要素は、いかにも国策映画的な付け足しという感じもします。これは当時の日本映画に限らず、オスカー獲って今でも名作扱いされている、ウィリアム・ワイラーの『ミニヴァー夫人』なんかでも同様。
 というわけで、ヤヤコシイことは「そういう時代だったんだな」ということで横に置いておいて、軍楽隊をモチーフにした音楽映画や、変わり種の軍人ものという視点で見れば、丁寧に作られていてしっかり楽しめる一本かと。

サヨンの鐘 松竹映画 銀幕の名花 傑作選 [DVD] サヨンの鐘 松竹映画 銀幕の名花 傑作選 [DVD]
価格:¥ 1,764(税込)
発売日:2013-05-10

『サヨンの鐘』(1943)清水宏
 皇民化政策下の台湾、日本人恩師の出征を見送るために溺死した、高砂族の少女サヨン(李香蘭)を描いた愛国美談国策映画……のはずなんですが……。
 清水監督は子供の扱いと、自然のロケ描写に長けているんだそうですが(相棒解説。浅学ながら私は『小原庄助さん』一本しか見たことがありません)、なるほど蕃社の村の描写や、李香蘭によって取り纏められている村の子供たちの描写が、実に活き活きとして楽しい。
 国策映画的には、冒頭からして蕃社における日本人警官の意義と立派な仕事ぶりを得々と語り、村に掲揚される日の丸に敬礼をする高砂族、現地語を使う村の子供たちに、日本語を使うようたしなめるサヨン……と、いかにもの塩梅。
 その後も、招集されて出征する高砂族兵士に、その親族が滅私奉公を説いたり、学校で和服の女教師の弾くオルガンに合わせて、子供たちが『海ゆかば』を合唱したり……といった描写があちこちに。
 しかし奇妙なことに、愛国美談的には最も重要なはずの、日本人警察官とサヨンの交流は、劇中では殆ど描かれない。それどころか作劇的には、村の穏やかな日常が兵隊の召集によって中断され、それまでの話が有耶無耶になるというパターンが二度繰り返される。
 まず、恋人三郎(日本人名前の高砂族)の帰還を喜ぶサヨンが、連れだって山頂の湖に行ったことが女人禁制のタブーに触れてしまうというエピソード。そこから話は、サヨンを生け贄にすることを避けるために、三郎は村人と一緒に狩りに行くのだが、足を負傷して獲物をとることができなくなり、更にサヨンを巡る三角関係の予感が……といった展開になるのだが、それらは、召集礼状が届くというエピソードで、スパッと中断してしまう。後に登場人物自ら、有耶無耶になってしまったねと笑い合うくらいに。
 クライマックスへ至る前段も同様で、サヨンは前々から、村の豚が子供を産んだら、それを売ってアヒルを買い、件の湖に放すんだと語っているのだが、ようやくそのアヒルを手に入れ、皆で湖に連れて行くというエピソードが、再び召集によってスパッと中断。
 ここいらへんを含め、どうも見ていて私には、国策映画という枠を守りつつも、その中でささやかにそういった意志に反抗しようとしているような、そんな風に感じられる部分があちこちにあり。まるで、愛国美談という殻を借りて、実はシステムによって破壊されていく純朴な生活を描いたドラマのように見える。
 それが映画という枠内で意図されたことなのか、それとも後世になって外側から見るとそう見えるだけなのか、その正否は置いておいて、そこが個人的には最も興味深かったポイント。
 というわけで、そんな複雑な諸相を感じつつも、サヨンと子供たちの生活描写は実に活き活きと、かつ繊細で楽しく、李香蘭の美声もたっぷり堪能でき、興味がある方なら一見の価値はあり。今なら『セデック・バレ』と併せて見たい一本。

蘇州の夜 松竹映画 銀幕の名花 傑作選 [DVD] 蘇州の夜 松竹映画 銀幕の名花 傑作選 [DVD]
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発売日:2013-05-10

『蘇州の夜』(1941)野村浩将
 上海に赴任にした日本人医師が、日本人嫌いの美しい中国娘と出会うが、彼女はやがて医師に惹かれていき…という国策メロドラマ。原作・川口松太郎、主演・佐野周二、李香蘭。
 ここのところ3本続けて李香蘭出演の松竹系国策映画を見たけれど、通した印象として、何だかまるで、かつてポルノ映画が「濡れ場さえ抑えておけば後は内容は自由」だったように、これらも必要なプロパガンダ要素だけどこかに明確に抑えておけば、後は比較的、監督が撮りたいように撮られているという印象。
 この『蘇州の夜』も、台詞で明確にそういう要素を打ち出す場面が数カ所あるものの、基本的には男女の恋愛映画。ストーリー自体はさして面白みのあるものではないけれど、セリフではなく所作や行動で細やかな心情を表出しようとする表現が、メロドラマというモチーフに合っていて効果的。
 当時の上海の光景がふんだんに見られるのは良く、観光映画的な魅力もあり(ただし蘇州はそれほどでもなし)、また李香蘭の歌唱シーンをフィーチャーした歌謡曲映画的な見所も多々。歌曲は『蘇州の夜』と『乙女の祈り』の2つですが、タイトルに反して、内容的には後者の方が比重が高い。
 興味深いのは、プロパガンダ要素が加わることによって、観客は必然的に佐野を日本、李香蘭を中国という、国家そのものに重ねて見てしまうのだが、その話がロマコメではなくメロドラマとして展開するので、国策的には融合(同化)を謳っているのにも関わらず、映画のラストはそれと相反するオチ(つまり一緒になれずに別離する)になっているあたり。
 加えてそこに、男性優位的な男女関係も絡んでくるのが、尚更興味深い。
 つまり、征服者としての男と、最初は抵抗しながらもやがて従順になる被征服者としての女という図式が、そのまま国家間の関係性に重なって見えるのだが、では、そんなヒロインが最後には、ヒーローからの手紙を破り捨てるとは、いったい……といった深読みをしたくなる程。
 それ以外にも、戦争によって直接被害を受けた故に日本人を毛嫌いするようになった中国娘が、国策の代弁者としての男子に《日本の真意》を説かれ、それで理解して従うようになるなんていうエピソードがあるおかげで、逆に《国策に対するエクスキューズの必要性》が強調されてしまったり。
 そんな感じで、個人的な趣味としては、前に見た『野戦軍楽隊』『サヨンの鐘』の方が好みだし、質的には『サヨン…』が頭1つ飛び抜けている感はあるものの、これはこれでなかなか面白かったし、興味深い要素も多々あり……という感じ。

間諜未だ死せず SYK-158 [DVD] 間諜未だ死せず SYK-158 [DVD]
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発売日:2013-07-02

『間諜未だ死せず』(1942)吉村公三郎
 日米開戦前夜、中国人青年スパイとフィリピン人スパイ、その黒幕であるアメリカのスパイの姿と、スパイたちと女性の悲恋描いた、防諜の重要性を訴える国策映画。脚本と助監には木下恵介の名も。
 吉村公三郎の演出が冴え、なかなかの見応え。冒頭の大陸爆撃シーン(重慶?)からして、かなりの迫力&スケール感。小道具を上手く用いた緊張感の演出、場面転換の凝った見せ方、メロドラマ部分のムード演出、カット割りや照明や陰影で見せるスリルなど、技巧的なお楽しみどころが盛り沢山。
 ただし、スパイ映画っぽい敵と味方の丁々発止的な要素は余り見られず、ドラマとしてのフォーカスは明らかに、アメリカに操られる中比二人のスパイの内面と、それぞれの相手である二人の女性とのエピソードに置かれているあたりが、いかにもこの監督らしい感じ。
 この二組の対比、つまり、愛国青年である中国人(原保美)と、彼が思いを寄せる幼なじみの良家の娘(水戸光子)という組み合わせと、スパイ生活に倦んでいるフィリピン人実業家(日守新一)と、彼の妻(情婦?)であるバーのマダム(木暮実千代)という組み合わせの対比が、実に効果的にメロドラマ部分を盛り上げてくれます。
 また、それらのメロドラマ・パートと、完璧なヒーローとして描かれる、防諜側のリーダー憲兵隊長(佐分利信)と、憎々しいが頭脳派の悪役として描かれる、英字雑誌オーナーのアメリカ人スパイ(斎藤達雄)という、防諜ドラマ部分とのコントラストも効果的。
 国策映画的には、国民への防諜の重要性の啓蒙、米英の謀略によって仲違いさせられている東アジア、日米開戦による戦意昂揚などの要素が含まれ、それらを娯楽ドラマに組み込む手腕は達者なもの。ちょっとハリウッド映画的な感じがしました。
 スパイ映画的な面白みを期待してしまうと、そこいらへんはちょっと物足りなく、日本人が付け鼻やカツラでアメリカ人を演じているのも、今見ると珍妙な気はしてしまいますが、それでもとにかく技巧的な魅力がいっぱいの一本。

開戦の前夜 SYK-159 [DVD] 開戦の前夜 SYK-159 [DVD]
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発売日:2013-07-02

『開戦の前夜』(1943)吉村公三郎
 日米開戦前夜、真珠湾攻撃の準備という軍事機密を、スパイである米武官に悟られぬよう、憲兵隊と民間人が協力して守るという、防諜国策映画。出演は上原謙、田中絹代、原保美、木暮実千代。
 スパイの動きを阻止しようとする頭脳派の憲兵少佐(上原)を軸に、出征していく友人(笠智衆)や弟(原)とのエモーショナルなエピソードや、妻(木暮)との私生活を丁寧に描きつつ、やがて、公的には止められなくなった米間諜の動きを、馴染みの芸者(田中)に托して阻止するというサスペンスへ展開していく、娯楽映画的に良くできたドラマ。
 また、こういった諸要素の見せ方がいちいち上手く、上原と笠の別れのシーンや、部下を思い遣る上原とそれを噛みしめる部下など、どちらも名場面(それもホモソーシャル的な)と言って良いと思われる出来映え。はたまた、作中で効果的な小道具として使われているコンパクトで、木暮が田中に化粧を施すといったシーンも忘れがたい。
 技巧的な演出という点では、先日の『間諜未だ死せず』ほど見所が多いわけではないけれど、それでも連絡待ちの上原の焦燥を示す一連のシーンとか、車の走行と田中の表情の変化で見事な緊迫感を出すクライマックスなど、これまたバッチリ楽しめる出来映え。
 国策的な面では、セリフ等でそれらを声高に主張するのではないが、ドラマの根底そのものが、当時の国策に支配されている感が濃厚。しかもそれを情緒面に上手く絡めて作劇してくる、つまりプロパガンダ映画として出来が良いので、そこいらへんは個人的に見ていてちょっと不快感あり。
 つまり『間諜…』の場合は、国策映画でありながらも主眼はスパイの悲哀やメロドラマにあった(その部分にはさほど思想的なものは反映されていない)が、この『開戦…』は、主なキャラクターの行動原理そのものに国策が反映されている(軍人家族とその周囲という設定なので必然とも言える)という違いがあるので、その結果《情緒を用いて思想を動かそうとする》という点で、よりプロパガンダ的に感じられてしまった次第。
 しかしそういうヤヤコシイことは脇に置いて、軍人家族とその周辺を描いた人間ドラマとして見ると、やはりとても面白くて魅力的。また軍人を描いた映画としても、ダンディな上原といい豪放な笠といい、どちらも実に格好良くて見ていて惚れ惚れ。

海軍 SYK-162 [DVD] 海軍 SYK-162 [DVD]
価格:¥ 1,764(税込)
発売日:2013-07-02

『海軍』(1943)田坂具隆
 鹿児島の青年が熱心な友人に触発され共に海軍入りを目指すが、当の友人は身体的原因でそれが叶わず、主人公のみ入隊、やがて真珠湾攻撃の軍神に…という国策映画。ただしクライマックスがGHQにより削除され現存せず。出演、山内明、志村久。
 一種の青春映画として見ることもできる内容で、特に前半部、主人公が海軍兵学校入りするまでは、丁寧な演出による家族や友人とのプライベートなドラマ、桜島の勇姿が印象的な映像の魅力なども手伝って、実に面白く見られます。
 ただし中盤以降は、海軍省のPR映画的な側面や、真珠湾攻撃に至る経緯の解説と、その正当性のアピール、或いは戦争美談的な比重が増していき、残念ながら映画的な魅力が後退。それでも、部分部分に挿入される人間ドラマ部は、やはり魅力的なだけに、仕方のないこととは言え残念な気持ちに。
 またその人間ドラマも、魅力的ではあるものの、それでもやはり「かくあれかし」というラインは逸脱しないので、これまた仕方ないこととは言え、ある程度以上の膨らみは見せず、物足りない感じがつきまとうのも正直なところ。
 主演の山内明は、このときまだ新人とのことだが、真っ直ぐな薩摩隼人を演じて実に見事。凛々しい風貌も魅力的。母親役の滝花久子、担任教師役の東野英治郎も印象的。そして軍事教練(?)の指導役の笠智衆が、またまたステキだった。

“Brides of Sodom” (2013) Creep Creepersin

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“Brides of Sodom” (2013) Creep Creepersin
(アメリカ盤DVDで鑑賞→amazon.com

 2013年のアメリカ製ヴァンパイアものゲイ映画。
 予測通りというか期待通りというか、かなりの中二病&変なモノ系映画で、終末世界を舞台にヴァンパイアと人間の痴話喧嘩が、デカダンムードと血糊で描かれるとゆー内容。ジャンル的には以前紹介した、やはり中二病系ゲイ・ヴァンパイア映画“Vampires: Brighter in Darkness”の仲間という感じ。

 終末的な未来世界。世界はヴァンパイアに支配されており、人間は廃墟となった街で細々と生き延びている。
 ある日、捕虜となった人間たちがヴァンパイア城に連れてこられ、一人一人血祭りに上げられるが、刺青マッチョのヴァンパイア、エロスは、団子っ鼻のブス男人間、サミュエルに目をつける。サミュエルに恋をしたエロスは、ケロイド顔のヴァンパイアの王、ディオニソスに、サミュエルの助命を頼む。ディオニソスはそれを聞き入れ、サミュエルは牢屋に鎖で繋がれる。
 エロスは、妹で恋人でもある入れ乳の女ヴァンパイア、ペルセフォネとセックスをするが、サミュエルのことが忘れられない。結果エロスは、地下牢のサミュエルに夜這いをかけるが、それを無口なスーツ男、ドミニクが目撃し、ペルセフォネに告げ口する。嫉妬に燃えるペルセフォネは、人間の女を呼んでレズり始めるが、それもそこそこ、その女の胸を切り裂いて血飛沫を浴びて恍惚とする。
 一方でディオニソスも、エロスとサミュエルの仲に嫉妬して、サミュエルを呼びつけて強姦する。サミュエルが「王様に強姦されちゃった」とエロスに泣きつくと、エロスはサミュエルを連れて城の外に駆け落ちすることに決め、ペルセフォネの制止を振り切って出て行く。
 逃げた二人に、ディオニソスは追っ手として、全頭布マスクに革のGストリングのマッチョという姿のアンデッド軍団を差し向け……といった内容。

 ある意味で期待通りという感じの、中二病全開の内容(笑)。
 この後も更に(以下ネタバレ部分は白文字で)大した葛藤もなくサミュエルはエロスに噛まれてヴァンパイアになり、人間だった頃の恋人(女性)をブチ殺したかと思うと、「これでもう二人ともヴァンパイアだから」と、城に戻って二人でラブラブアナルセックスに耽るわ、それに嫉妬したサミュエルに横恋慕するディオニソスは、やはり二人の仲を嫉妬するペルセフォネを騙して、魔女にエロスを呪殺させようとするわ、更に、世界の秘密を記した魔導書だの、謎の寡黙男ドミニクの真の目的だの、魔女の女王の復活と世界の危機だのといった、中二病アイテム&中二病展開を盛り込みつつ、最後はかなり ( д) ゚ ゚ポカ~ン ってなエンディングに(笑)。
 興味あり&ネタバレOKの方、文末に白文字で結末までのストーリー書いておきますね(笑)。

 まぁ全体的には低予算なのが丸わかりで、舞台はほぼ城の中の数室と、外の世界である工事現場みたいなとこだけで話が進むんですが、ヴァンパイア城の外観CGとか全体のムードとかは、この規模の映画にしてはそこそこ頑張っている感じ。
 ジャンル映画的にも、特殊メイク系はあまりないけれど、血飛沫はけっこう派手。
 エロティック要素も比較的強めで、マッチョだけではなく安いセクシー女性ヌードも多く、セックス・シーンも割と長め。ただし、「ヴァンパイアがフェラしたりアナルしたりするの?」ってなツッコミは入れたくなりますが(笑)。
 所々に出てくるフェティッシュ系衣装も、まぁ陳腐ではありますけれど、こーゆー映画の場合はそれもまた楽し。

 演出や役者陣は決して上手いとは言えませんけど、マッチョがいっぱい出てくるのと、見ていて「はあぁぁ???」ってなるストーリーのおかげで、個人的には退屈せずに見られました。
 しかし、キワモノ趣味がない相棒は、横で完全に退屈して船漕いでましたけど(笑)。
 エロス役の男優は、何でもポルノスターなんだそうですが、見事な筋肉&美麗な刺青、顔もそこそこ、演技も大大根という程でもなく、けっこういい感じ。
 ただサミュエル役が、どーしてこんなブス男を……と思っていたら、エンドクレジットでエグゼクティブ・プロデューサーとクレジットされていたので、何となく納得(笑)。ドミチアーノ・アーカンジェリという人で、B級映画には色々出まくっているようで(IMDb掲載の出演作は173本)、その出演作は日本でも六作ほどDVDで出ている模様(allcinemaでの検索結果)。

 同系の映画で比較すると、展開のブッ飛び具合とか「何これwww」的な楽しさは、前述した”Vampires: Brighter in Darkness”の方が個人的には楽しめましたが、”Vampires…”が現代社会に跋扈するイケメンヴァンパイアと、それに惚れられた青年とのハーレクイン・ロマンスみたいな、いわば『トワイライト・サーガ』ノリ(って、見たことないんだけど、多分)だったのに対して、今回の”Brides…”は、ゴスなデカダン風味やホラー風味は”Vampires…”より上なので、まぁここいらへんは見る人の好みによって印象が変わってくるかも。

 というわけで、マトモな映画を見る感覚では決してオススメしませんが(ぶっちゃけ酷い出来です)、変わったもの好きなら、あちこちお楽しみどころ(ツッコミどころとも言う)も多いかと。個人的には「とても楽しかった (・∀・)」です(笑)。

さて、結末がどうなるかという話(以下白文字)。
 結局エロスは、ディオニソスに騙されたペルセフォネのせいで、魔女の呪いによって殺されてしまいます。それを知ったペルセフォネは、兄を奪った恋敵のサミュエルと、共に愛する者を喪った者同士として和解し、エロス復活のために共闘することにする。
 そのために魔女が出した条件は、ディオニソスが秘匿している世界の秘密を記した魔導書を奪って、自分たちに渡すこと。そしてサミュエルが、色仕掛けでディオニソスを陥落し、無事そのミッションも完了。
 しかし実は、それらは謎の寡黙男ドミニクによる、魔女の女王を復活させるための計画だった。魔導書奪還によって復活した魔女の女王は、そのままヴァンパイア城を攻撃、ディオニソスを含むヴァンパイアたちを皆殺しにしていく。
 追い詰められたサミュエルとペルセフォネは、自分たちの最期を悟りながら、手に手を取って「でも死ねばまたエロスと一緒になれる!」と語り合い、そんな二人をエロスの幻が優しく見守る。
 結局ヴァンパイアは全員殺されて、魔女の天下となりましたとさ。ジ・エンド。

 ……いいのかそれで?(笑)

書籍『仁義なきキリスト教史』のカバー絵を描かせていただきました

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 2月26日に発売された書籍『仁義なきキリスト教史』(架神恭介・著/筑摩書房・刊)のカバー絵を描かせていただきました。
 キリスト教の歴史をヤクザの抗争史に見立てて小説仕立てにした、エンタメ教養本といった感じの本です。詳しくは、著者の架神恭介さんが公式サイトを立ち上げておられるので、そちらも参考にしてください。
 因みに本の腰巻きを外すと、こんな感じで褌や尻が出てくる仕掛けになっております。
 装丁をしてくださったのは、デザイナーの他『映画秘宝』などのライターでもお馴染みの、高橋ヨシキさん。私の方は完全に素材としての絵を提供して、後はデザインでカッコ良く仕上げてくださいという感じでお仕事させていただいたんですが、これがまたマジモンでカッコ良くして下さって嬉しい限り。
 このお仕事、内容自体の興味深さもさることながら、前述の高橋さんも担当編集さんも、実に《攻めの姿勢》だったのが嬉しく、例えば私の方から、ちょっと尻丸出しはマズいのかな……と思い、褌やめて諸肌脱ぎの和服か何かにしましょうかと提案したところ、担当氏は「いや、尻OKです、褌でいきましょう!」と心強いお返事。
 そういった感じで、腰のすわった意見が交換できる打ち合わせですと、描く方としても、ますます良いものに仕上げようと気合いが入ります。スケジュールはタイトでしたが(笑)、やらせていただいて実に良かった仕事の一つになりました。
 打ち合わせ時のラフ画、未加工状態の原画などを、ご参考までにTumblrの方にもアップしておきましたので、宜しければそちらも併せてご覧ください。
 そして是非、一冊お買い上げになってお手元に!

仁義なきキリスト教史 仁義なきキリスト教史
価格:¥ 1,575(税込)
発売日:2014-02-26

ベルリン個展&サイン会&英語版新刊”Gunji”のお知らせ

 3月7日からドイツのベルリンで個展をやります。
 お話し自体は一昨年からいただいていたのですが、昨年は既にトロント&ニューヨーク行きとパリ個展の予定があったために、色々あってこのタイミングでの開催となりました。
 で、この話が本決まりになった昨年の秋の段階で、拙英語版単行本”Endless Game”の版元であり、ベルリンに拠点を置く出版社Bruno Gmünderが、それならばそのタイミングに合わせて、同社からの二冊目の単行本を出そうという話になりました。
 そして今回、個展のオープニングに合わせてベルリンに行くよと、同社に知らせたところ、同社のアレンジでベルリンとロンドンでサイン会も行うことになりました。 トラブル発生のため渡航は急遽中止、個展のスケジュール自体に変更はありませんが、オープニングに出席はできず。会期末の4月後半に改めて渡航し、サイン会もその時期に合わせて延期となりました。詳細はまだ調整中。
 サイン会は4月20日。キャラリーのクロージング、4月20日には在廊します。
 というわけで、それらの詳細情報をまとめてアップします。
 海の向こうのことなので、お気軽にとは申しづらいんですが、ベルリンおよびロンドン在住の方、および期間中に渡航予定のある方は、是非いらしてください。

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【ベルリン個展】
・3月7日〜4月20日
Xavierlaboulbenne Galleryにて
  Schoenleinstrasse 5 10967 Berlin
・オープニングは3月7日(金) 18:00〜21:00 <詳細>
・期間中、画廊のオープンは毎週火曜日〜土曜日、午後2時〜6時となります。

 ゴリゴリのコンテンポラリー・アートのギャラリーで、過去には有名どころでは、ロバート・メイプルソープや、映画『シェイム』『それでも夜は明ける』等のスティーヴ・マックイーンなどの展示を開催。
 というわけで、オープニングにどんな人が集まるのか、ちょっと不安だったり(笑)。ゲイ・コミュニティー向けの宣伝とかも、全くやっていない様子なので……。

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【ベルリンでのサイン会】
3月8日(土) 15:00〜17:00 4月に延期、日程は調整中。
 4月19日(土) 15:00〜17:00
Eisenhertzにて
  Motzstr. 23, 10777 Berlin

大きな地図で見る
・Facebookのイベントページ:https://www.facebook.com/events/1429217567317220/
 クィア書籍を扱う本屋さんだそうです。

【ロンドンでのサイン会】
3月14日(金) 18:00〜20:00 4月に延期、日程は調整中。 中止決定。

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【新刊英語版単行本”Gunji”】
・3月初頭発売
・出版社:Bruno Gmünder
・160ページ/17 x 23.8 cm
・ISBN 978-3-86787-675-9
・収録作:『軍次』四部作+『大江山綺譚(2014年改稿版)』
・見返し部分にカラーイラスト4点収録

『軍次』四部作に関しては、基本的には日本で出たバージョンと同じ。ただし、当然のことながら性器修正はありませんし、またフランス語版のときと同様に、キャラクターの年齢を調整するために、あちこちセリフをいじっています。
『大江山綺譚(2014年改稿版)』は、絵を全面的に手直ししています。旧版との最大の違いは、キャラ(スヴェン)の体毛。
 これは、当時自分のイメージではスヴェンは赤毛であり、身体にも赤い体毛がモジャモジャ生えている感じだったんですが、それを上手く絵的に表現する手段が思いつかず、結果的に無毛にしてしまったという経緯がありまして。ところが、ちょっと前にCLIP STUDIO PAINTをいじってみたところ、このペンを使えばグレースケールで自分の意図する効果が出せるのではないかと思い、実験してみたところ満足のいく結果を得られたので、今回の英語版出版を機に、思い切って全面改稿することに。
 その絡みで、最終的な仕上げをいつもような白黒二値化ではなく、グレースケールのまま完成させることにしたので、それに併せてトーン効果もあちこち手直し。結果、情感の描出も向上したと思います。
 また、冒頭と末尾のト書きを、日本の昔話に馴染みがない外国人向けに、より判りやすく噛み砕いた内容に変えてあります。
 この新バーションは本邦未公開ですし、今のところ国内での発表の予定もないので(なにしろオリジナル版収録単行本がまだ現役ですので)、レアものとして入手の価値大かも知れませんよ?
 ……などと販促を試みる(笑)。
 内容見本は、こちらで。

 残念ながら日本のアマゾンでは取り扱っていませんが、アメリカやイギリスのアマゾンなら既に予約受付中なので、よろしかったら是非お買い求めを(”Endless Game”のときの経験から言うと、同じヨーロッパということなのか、アメリカよりイギリスの方が発売が早く、在庫切れもありません)。

「映画秘宝」4月号に『ホビット 竜に奪われた王国』のレビュー書きました

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 本日発売の雑誌「映画秘宝」4月号の、特集「『ホビット 竜に奪われた王国』完全攻略ガイドブック!」に、錚々たる面子の方々に混じって、私、同映画のレビューを書かせていただいております。
 ま、レビューっつーと聞こえがいいですが、完全にファン丸出し(&ゲイ丸出し)の感想文みたいなもんです(笑)。
 同誌では前作『ホビット 思いがけない冒険』のときにも、同様の文章を書かせていただいたんですが、今回の記事見出しに「恒例!」って付いていて、あら、じゃあ完結編のときにもまた書かせて頂けるのかしら……などと期待してしまったり(笑)。因みに本見出し(編集さんが付けてくれたもの)には、語尾にハートマークなんぞも付いており、私、レビューバランス的には、乙女目線担当ってことなのかしら(笑)。
 ともあれ、好きな小説の好きな映画化作品について、好きな雑誌で書かせて頂くという、私的にはトリプル嬉しい記事でもあるので、皆様ぜひお買い上げくださいまし。
 私のヘナチョコ感想文はともかく、ピーター・ジャクソン、マーティン・フリーマン、ベネディクト・カンバーバッチのインタビューは勿論、痒いところに手が届く詳細なキャラ&舞台&アイテム解説、荒俣宏さんのインタビュー、添野知生さんのツボを抑えた解説コラム、朱鷺田祐介さんのガッツリ検証……などなど、小さい文字でビッシリ、読み応えタップリの特集になっております。

 それともう一つ、大西祥平さんのマンガ紹介コーナーでは、現在「コミックビーム」で『あれよ星屑』を連載中の、山田参助さんのインタビューも載ってます(単行本情報もあるよ!)。更に同コーナーの欄外コラムでは、熊田プウ助さんの新刊『トーキョーホモルン定食』のショートレビューも。
 というわけで、ゲイクラスタ的にも注目号なので、しつこいですが、皆様ぜひお買い上げくださいまし!

映画秘宝 2014年 04月号 [雑誌] 映画秘宝 2014年 04月号 [雑誌]
価格:¥ 1,050(税込)
発売日:2014-02-21