コンクリートの檻(8)
我に返った哲夫は、慌てて男の手から逃れようとした。
その瞬間、身体を引き裂かれるような傷みが襲いかかった。
肛門を異物がおし広げている。
自分はまるで、女のように犯されようとしているのだ。
哲夫が身体をよじって抵抗すると、男は哲夫の首輪を掴んで捻り上げた。
呼吸が止まる。
哲夫が苦しさに動きを止めると、男は更にふかく突き込んだ。
哲夫は悲鳴を上げた。
肉襞が強引な侵入に散らされていく。
痛みにもがき、逃れようとすると、再び首輪が締められる。
どうしようもなかった。
男のものが次第に哲夫の奥深くへとめり込んでいく。哲夫はただ、それに耐えるしかなかった。
歯が固く食い縛られ、奥歯がぎりぎりと鳴る。固く閉ざした目から涙が溢れる。
しかしそれは、苦痛の涙ではなかった。
さっき迄だらしなく、男に弄ばれるまま快感に悶えていた己への嫌悪の涙だった。
自分が憎く、情けなかった。
股間のものはもう萎えていた。
容赦ない侵入は続いた。
悲鳴をあげながら哲夫は、自分の肛門が裂けたように感じた。身体が裏返って真っ二つに裂けそうだった。
哲夫は無意識の内にそこの筋肉を固く締めて、進入する異物を追い出そうとしていた。途端に首輪強く捻じられて息が詰まる。
悲鳴を上げ、咳き込み、涙と鼻水と涎を垂らす哲夫を見ながら、男は笑っていた。
それはさっきの優しい愛撫を繰り返していた男とは、まるで別人のような、嗜虐的な笑い声だった。そして更に肉棒で柔らかな肉襞を掻き回してくる。まるで獲物の苦痛をいや増しにして、その悲鳴を愉しもうとしているかのように。
俺は死んでしまう。
哲夫はそう思った。
やがて男の睾丸が、哲夫のそれに当たった。
腰の動きが一旦止まる。
痛みは少し遠のいたが、下腹一杯に何かを詰め込まれたような異物感があった。
糞が出そうな感じだ。
そう思ったのも束の間、不意に再び腸の中を掻き回されて激痛が走る。
哲夫の顔の下にあるシーツは、涙や涎や鼻水でぐちょぐちょになっていた。
男は自分の怒張を激しく抽走した。二人の睾丸がびたびたとぶつかり合う。
まるで、すりこぎで肛門を抉られているようだった。
無意識の内に哲夫は、男の動きに合わせて腰を使い始めていた。苦痛を軽減させようとする、本能的な動作だった。
それに気付いた男は不快な表情になり、更に荒々しく突き始めた。再び哲夫は叫び始め、それを聞いた男の顔に、満足そうな笑みが浮かぶ。
肛門への凌辱は延々と続いた。
男は果てそうになると動きを止め、今度は哲夫の脇腹や背中を抓り上げ、首輪を捻じって喉を締め付けた。
そうやってそれに反応して締め付ける、哲夫の肛門の感触を楽しんでいた。
男が果てたのは、哲夫が犯され始めてから一時間以上経ってからだった。
息を切らしてへたへたと崩れ落ちた哲夫の鼻先に、男は放出してもなお半勃ちの男根を押し付けた。
ぼんやりしている哲夫に男が言った。
「そら、お前のせいで汚れたもんだ。その口で清めろ」
そう言われて、哲夫は霞む目をそれに向けて焦点を合わせた。
鼻先に突き付けられたそれは、哲夫の血と糞、男の精液に塗れている。
いきなりそれが口に押し当てられた。異臭いが鼻を突き、哲夫は思わず顔を背けてしまった。
途端に平手打ちの雨が襲いかかった。延々と繰り返されるそれに、哲夫は頭がぼうっとしてきた。
やがて男は再び汚れたモノを雅也の口に押し付けた。
「清めろッ!」
哲夫は朦朧として、それに唇を寄せた。
「もっと深く銜え込むんだ、この淫売め!」
男はそう怒鳴ると、哲夫の頭を掴んでぐいと引き寄せた。
哲夫の咽内に、異様な味と臭気がひろがった。哲夫は吐きそうになるのを必死に堪えながら、男のものを舐め続けた。
男は哲夫の頭を股間に抱えたまま、ベッドに腰を降ろして言った。
「よしよし、そのまま舐め続けるんだ。今度はお前にもいい思いをさせてやるからな」
男のものが哲夫の口の中で、次第に大きさを増してきた。
「もういい、ベッドの上にあがれ」
男が哲夫の口から勃起したものを引き抜いて言った。
哲夫はよろけながら言われた通りにした。
「そこに仰向けになって、腰の下に枕を入れるんだ。…そうか、手錠が邪魔だな…」
男はそう言うと、床に脱ぎ捨てたバスローブのポケットから鍵束を出した。
「いいか、暴れたり抵抗したりするんじゃないぞ。奴等はモニターでこの部屋を見てるからな。何かあったらすぐに飛んで来る。そうしたらお前は仕置き部屋に連れて行かれて、そこでたっぶり折檻されるんだぞ。…ふん、お前の場合、息子も同じ目に会わされるんだったな」
男の言葉を聞いて哲夫は黙って頭を縦に振った。この男は洋の事も知っている。
「よし、じゃあ外してやる。背中向けろ」
手錠を外された哲夫は、金属に擦られて赤剥けになった手首をさすった。
続けて足首の枷も外され、同時に足下でくしゃくしゃになっていた短パンとブリーフも、まとめて引き抜かれた。
「シャツを脱いで、枕に腰を乗せて、もう一度仰向けになれ。…そうだ、今度は脚をあげて、膝を自分の両腕で抱えるんだ」
哲夫は言われるままに、まるでおしめを変えられる赤ん坊のような恰好になった。
「よし、身体の力を抜いてリラックスしろ」
男はそう言いながら、哲夫の肛門や睾丸に手を這わせ始めた。
「どうだ、感じるか?」
精液で濡れた肉襞を、男の指先が優しく愛撫する。哲夫の身体がぴくんと震えた。
萎えていた哲夫のものが、再び頭を持ち上げ始めた。それを見て男は満足そうに言った。
「感じてきたな、チンポが勃ちだしたぞ」
男の言う通りだった。一度は遠のいたあの感覚が、急激に蘇り始めている。
男の指がつぼみをこじ開けて中に入っていく。濡れた肛門はそれを難なく呑み込んでいく。挿入された指がリズミカルに動き始める。
哲夫の前が一際その堅さを増し、やがて隆々とそそり立った。充血した亀頭が電灯の光を反射しててらてらと光った。
「そら、おつゆが出てきた」
尿道にぷくっと溢れた先走りの液を、男が指で亀頭全体に塗り拡げる。
哲夫は襲いかかる快感に喘ぎ始めた。
「よぉし、息を吐いてリラックスするんだ。そうだ、ゆっくり、ゆっくり…」
男が喋りながら、自分のものを哲夫の菊花に押し当てる。哲夫は喘ぎながら、男に言われるままに括約筋を緩めた。
亀頭の先が襞にめり込んだ。軽い痛みはあるが、さっきの引き裂かれる感覚とはまったく違っていた。
男は巧みに哲夫を誘導しながら、少しずつ少しずつ、その狭い道に侵入していった。
ちょっとでも哲夫のものが萎えかけると、男は動きをとめて、哲夫の男根に愛撫を加える。哲夫が回復すると、再び侵入を開始する やがて男のものは、すっかり根本まで埋没した。
「そら、入ったぞ。触ってみろ」
哲夫は既に男の操り人形と化していた。手を引かれて、自分の開ききった肛門と男のものを撫でる。
それだけでまた新たな快感が襲いかかり、亀頭の口から夥しい量のつゆがもれた。
男はゆっくりと腰を使い始めた。
そしてその動きを、哲夫の反応を見ながら次第に激しくしていく。
哲夫はその快楽を貪った。理性も何も綺麗に消し飛び、ただ、肉欲に溺れていた。
甘い喘ぎ声と、けだもののような咆吼が、代わる代わる口から上がる。鼻孔が拡がり、分厚い舌が唇を舐めまわす。
その逞しい男が女と野獣を併せ持つ顔を見て、男は益々興奮すると、更に激しく突き始めた。既にすっかり柔らかくなった哲夫の肛門は、最初に感じた痛みはどこへやら、今やその手荒な突きを難なく受け止めていた。
粘膜の擦れあう湿った男が部屋に満ちた。
哲夫はもう何も考えられなかった。ただ男に突き上げられるたびに沸き起こる快感を貪っていた。
恐ろしいほどに充血した男根が、暴れ馬のように股間で頭を振りたてていた。
絶頂が近付いていた。
やがて哲夫は、泣きながら射精した。溜まりに溜まった大量のどろどろした汁が、汗に濡れた胸板を駆け昇り、顎を打ち、ベッドの頭板までをも汚した。
遅れて男も、哲夫の腹の奥深くに欲情を吐き出した。
ぐったりとした哲夫を抱きかかえて、男はその耳元で囁いた。
「素晴らしいぞ、お前は。稀に見る巨根と感じやすいケツを独り占めしている野郎だ」
喋りながらも男の手は、哲夫の絡まった胸毛とそこに飛び散った淫水を撫で回した。
「この淫売のケダモノめ、生まれながらの娼婦だな」
男の一語一句が哲夫の脳裏に突き刺さる。それを歪んだ甘美な炎だった。
男の爪に乳首を掻かれ、哲夫は甘い呻き声を出した。
「この野郎、いったばっかりだってのにもう気分出しやがって…おい、言ってみろ。私は淫売の娼婦です、と」
「…私は…淫売の…娼婦…です…」
その屈辱的な言葉を口にしながらも、哲夫の身体は燃えていた。
「そうだ、お前はそういう奴なんだ。ほれ」
男が哲夫の精液に汚れた手を、哲夫の口許に突き付けた。哲夫はそれを、舌を伸ばしてぺちゃぺちゃと嘗めた。
そして身体を起こすと、自ら男の下腹部に口を寄せた。
自虐的な行為。その中に、哲夫は陶酔の炎を感じ始めていた。
いまやその脳裏から、洋の事はかんぜんに消え去っていた。