コンクリートの檻(13)

 それを見てサングラスが満足そうに笑った。
「こいつも随分変わったもんだな。いい奴隷になったもんだ」
 そう言ってサングラスは、哲夫の顎を掴んで自分の方へ仰向かせて続けた。
「おい、てめェもこの、お犬様に犯られてェのかよ」
 哲夫は答えなかった。頭が混乱して何も考えられなかった。
 老人が、再び口笛を吹いた。それを聞いてドーベルマンは、ちょっと不満そうな顔をしつつ、洋から離れた。
 その瞬間、哲夫は我に返った。
 そしてこれから何が始まろうとしているのかを悟り、慌ててその場から逃げようとした。
 しかし、たちまち押さえ込まれて、洋同様に犬に尻を差し出す恰好をとらされてしまった。
 哲夫は絶叫した。
「やめろッ!頼む、…お願いですッ!お許し下さいッ!」
 その悲鳴など耳にも入らないという顔をして、老人がドーベルマンの頭を撫でて言った。
「おやり」
 哲夫は自分の背中の上に犬が乗るのを感じた。癒える事なくつけられた生傷に、犬の毛がちくちくと刺さる。
 肛門の周囲を、ぬるついたモノがつつく。
 首筋に息が吹きかかり、涎が肩の上に落ちた。
 次の瞬間、哲夫の肉襞は、犬の凶器に串刺しにされていた。
 洋の体液に湿った肉棒は、難なく哲夫のそこに呑み込まれた。
 荒々しい抽送が始まる。
 哲夫の身体から力が抜けた。
 後庭を犯される悦びを覚えた哲夫の身体はじきに反応し始めた。
 哲夫は我と我身を呪った。
 犬に犯されている。
 その屈辱にも関わらず、自分は勃起している。
 堪えようと思っても、口から快感の喘ぎが漏れてしまう。
 呻く哲夫に、老人が言った。
「この犬は中々タフでね。一時間や二時間は平気で交尾し続ける。たっぷりと愉しむといい。逃げようなんて思わない方が身の為だよ。さっき話した前に死んだ男は、この子から逃れようとして、喰い殺されたんだからね」
 サングラスが一同に向かって言った。
「それじゃあ、親父が犬相手に愉んでいる間俺達は息子と遊ぶ事にしようや」
 哲夫の回りから人垣が無くなった。
 じきに洋の呻き声や悲鳴が始まったが、哲夫の耳にはそれすら届かなかった。
 さっきから爆発寸前の状態を強要されていた哲夫は、じきに溜まりきった男の汁をぶっ放した。
 いったんは萎えた哲夫のモノだったが、犬の肉棒に腸を捏ねくり回されている内に、再び勃起した。
 誰かが近寄ると、怒張の根本を細引きできつく縛り上げた。
 一体どの位の時間が経ったのか。
 哲夫は、自分の腸内に熱い液体が溢れるのを感じた。
 にも関わらず、尻の中のモノは硬直したままだった。
 哲夫の肉襞は擦り剥け、犬の男根が抽送される度に激痛が走った。
 永遠にも思える時間、哲夫は犬に犯され続けた。
 三度目の射出を終えて、ようやく身体の上から犬が退いた時、哲夫は半分失神しかけていた。
 ぐったりと横たわる哲夫の周りを、男達が取り囲んだ。
 老人が言った。
「反抗したり、生意気な態度をとった奴は、この犬と一緒の檻に放り込んで、一晩ほったらかしにしておくといい。この犬は一旦交尾を終えても、すぐにまた始めたがるから、そいつは一晩中、犬に犯され続ける。逆らえば噛み殺されるから、黙って犬に弄ばれる。下手な仕置きや、拷問よりもよっぽどききますよ」
「流石ですねェ」
 ビルダーが、つくづく感心して言う。
「ところで、この父親の方は、口はどうなっていますか」
 老人が尋ねた。
「例の処置は済んでいるんですか」
「いや、それがまだなんですよ」
 サングラスが頭を掻きながら答えた。
「何しろあれをしちまうと、餌が面倒になるんでねェ…」
 老人が例の微笑を浮かべて言う。
「私は一度その現場を見てみたいのだが…どうでしょう。金は出しますから、この場でやってくれませんか」
 サングラスは腕を組んで考え込んだ。その脇から小太りが口を挟む。
「兄貴、いいじゃないスか。やって差し上げましょうよ」
「そうだな」
 サングラスがその気になったのを見て、老人は一段とにこやかな微笑を浮かべた。
「そんじゃあ、始めますか」
 と、ビルダーが言うのを制して、サングラスが言った。
「待て待て。まずこいつに自分が何をされるのか教えてやろう。…洋、来い!」
 汗まみれになった洋が、よろよろとうつ伏せた哲夫に近付いた。
 その唇をサングラスが捲くり上げる。
 哲夫は息を飲んで、目を見開いた。
 洋の口に空洞が開いていた。あるべき前歯を失ったそこに、赤暗い洞窟がぬめぬめと口を開いている。
 自分がこれから何をされるのか気付き、哲夫は恐怖に悲鳴を上げると、身体を起こして後ずさった。
 すかさずサングラスと小太りが、哲夫の身体を押さえ込んで椅子に縛り付けた。そして頭を無理やり仰向かせる。
 サングラスが愉快げに言った。
「てめェも、息子と同じにしてやるからな。いいぜ、この口は。こいつに吸われると、今迄とは比べ物にならねえくらい、気持ちいいんだ。おめェもこの口にしてやるから、感謝して俺達に奉仕するんだな」
 どこから持ち出したのか、ビルダーが右手にやっとこ、左手に注射器を持って近付いて来る。
 それを見た老人が静かな声で言った。
「出来れば、麻酔なんぞは使わずにやってくれないかね」
 ビルダーは鼻白んでサングラスを見た。サングラスが感情を押し殺した声で答える。
「お望みなら。…おい、始めろ!」
 ビルダーの指が哲夫の顎の蝶番に食い込んだ。こじ開けられた口に銀色の開口具が噛まされ、閉じることができなくなる。
 哲夫の前歯をぎらぎら光るやっとこが摘む。
 悲鳴を上げ続ける哲夫の目前で、ビルダーの太い腕に力瘤が盛り上がった。
 鈍い音がした。
 哲夫の口から絶叫が上がった。咽中に血が溢れ喉に流れ込み、悲鳴はごぼごぼという音に変わった。
 それは男達の欲情を益々煽った。
 やっとこが次々と、哲夫の前歯を抜き取っていく。老人は相変わらず涼しげな微笑を浮かべながら、血まみれになっていく哲夫の顔を見守っていた。
 やがて、悲鳴を上げる声も枯れた。
 全ての作業が終わった後、哲夫の口からは上下合わせて十二本の歯が、姿を消していた。
 悪魔の施術を終えて、椅子から解放された哲夫は、床に突っ伏してげえげえと喘いだ。血と涎の混じり合った真紅の粘液が、口から糸を引いて滴り落ちた。
 辺りの床には抜き取られた十二本の歯が散らばっていた。
 洋が無感動な表情でそれを見ていた。
 老人が洋の身体を引きずって、その頭を哲夫の股間に押し付けた。
 その苦痛にも関わらず、根本を縛られて血行を止められたそこは、隆々と勃起したままだった。
 洋は父親のそこに舌を絡めて吸い始めた。哲夫もまた、息子の股間に顔を押し当てられ仕方なく血塗れの口でそこを愛撫し始めた。
 萎えていた洋のそこも、じきに勃起した。
 哲夫の勃起を括っていた細引きが解かれたが、そこはもう萎える事もなかった。
 哲夫は苦痛と屈辱に涙を流しながら、洋に尺八し続けた。
 身体を交差させて互いの股間を吸い合う親子を、老人は満足そうに見守っていた。
 最初に若い洋の身体が強張って、その怒張から粘ついた粘液が放出された。喉奥を打つそれが咽内の血と混じり合い、哲夫はその異様な味に嘔吐した。
 男達は哲夫の頭を床に押し付け、その吐瀉物を喰うよう強要した。その間も絶えず、洋の口は哲夫の股間を愛撫していた。
 哲夫は自分の吐いた汚物を飲み込みながら絶頂に達した。父親の精液を、洋は目を閉じたまま静かに飲み下した。

 老人と犬は三日三晩滞在した。
 僅かの睡眠時間と、男達が休憩して食事をとる間を除いて、哲夫と洋は嬲られ続けた。
 親子は互いの尿と糞便の味を知った。
 さらに哲夫の口は、ドーベルマンの便所にもされた。
 犬の尿を飲まされて嘔吐した哲夫は、一晩犬と同じ檻に入れられて、夜通し犯された。
 翌朝、哲夫の肛門は擦り切れて血が滲み、脱肛して真っ赤に腫れ上がっていた。老人は容赦なく男たちに命じて、そこに塩を擦り込んで張り形で抉らせた。
 三日の間、哲夫と洋は絶えず互いの肌に触れ、性器を含み、後庭を犯し合っていた。
 にも関わらず、洋はついに一言も喋らなかった。
 やがて哲夫も息子に話しかけるのをやめた
 四日目の朝、老人は犬を連れて帰った。洋も男達に連れ去られた。
 犬のように牽かれていく息子の後ろ姿を、哲夫は悲しげに見送ったが、洋は振り返りすらしなかった。