窓〜アル・ナーフィザト(9)

 立ち上がろうとした俺に、アハメッドが飛び掛かった。
 俺は悲鳴を上げて、のしかかる巨体を振りほどこうともがいた。しかしアハメッドの力は強く、俺はそのまま床のうえに押さえ込まれてしまった。
 両腕が背中に捩じ上げられる。苦痛に悲鳴を上げる俺の手首を、サイードが縄のようなもので括り上げた。
 アハメッドが俺のTシャツを引き裂いた。シャツがみるみるうちにボロ布となって、俺の上半身は裸にされてしまった。
 サイードが胸の上に馬乗りになって、俺のズボンのベルトに手を掛けた。暴れる俺の両足を、アハメッドが拡げてしっかりと押さえ込む。
 ベルトが外され、ジッパーが下ろされる。次の瞬間アハメッドが、ズボンを下着もろとも俺の脚から引き抜く。
 悲鳴を上げ続ける俺の鳩尾を、アハメッドが拳で打ち据える。息を詰まらせて大きく喘いだ俺の口に、脱いだばかりの自分のブリーフが押し込まれた。そして更にその上から、破れたシャツで猿轡が噛まされた。
「こうされたかったんだろう?」
 声を封じられて、苦痛に身体を震わせる俺の身体を、サイードが掌で愛撫しながら囁いた。
「お前は、卑猥な話を私に聞かせ、私をその気にさせた。そしてアハメッドの事故の話を聞くと、今度は痣の話をでっちあげた。私としたように、アハメッドともしたかったんだろう?」
 俺は必死に頭を横に振った。違うと叫ぶ声が猿轡に押し込められ、くぐもった呻き声になる。
 アハメッドが苛々したように何か怒鳴った。それを聞いてサイードは、ポケットからナイフを取り出すと、ぎらぎら光る刃を俺の喉元に押し付けた。
「いいか、声を出すな。そう誓えば、猿轡を外してやる」
 俺は恐怖に震えながら、こくりと頷いた。目頭がつんと熱くなる。
 猿轡を外された俺の口許に、アハメッドがズボンを降ろして、既に勃起している男根を突きつけた。サイードのものよりも、太さも長さも一廻り大きい。
「どうした、何をためらってるんだ?好きなんだろう、男のものをしゃぶるのが」
 サイードの言葉を聞いて、俺の全身から力が抜けていく。緩んだ唇を割って、アハメッドの男根がぬるりと忍び込む。
 アハメッドに口を犯されながら、俺は勃起していた。サイードがそれに気付いて、俺のものを握ると上下に扱いた。
「さて……と、そろそろファックしてやるか」
 サイードがそう言って、俺の両足を肩に担いだ。俺は何の抵抗もしなかった。
 太い指が、俺の自分でも見たことのない場所を探っている。その擽ったいような、むず痒いような奇妙な快感に、俺の先端から夥しい量の露が零れた。
 不意に肛門に固いものが押し当てられると、それがめりめりと襞を捲ってめり込んで来た。
 俺はそこが裂けたような痛みに、押し殺された悲鳴を上げた。同時に大きく開いた喉に、アハメッドが男根を深く突き入れ、俺は噎せて咳き込んだ。
 サイードの太いものが、じりじりと身体の中に入ってくる。痛みに萎えた俺の男根を、サイードが掌に包んで柔らかく揉み始める。
 それを見てアハメッドが何か言った。サイードはその言葉に大笑いすると、俺に説明して聞かせた。
「アハメッドは、私がよくそんな汚いものにさわれると、呆れているんだ。割礼もしてない、薄汚いペニスにね」
 そう言いながらサイードは、弟に見せつけるように、俺の包皮を剥き下ろした。
「最も、私だって触るくらいははともかく、間違っても口にいれようとは思わんが」
 そう言ってサイードは、再び大笑いした。
 俺の身体を屈辱の念が、じんわりと浸食していく。しかしその思いとは裏腹に、俺のそこは何故か再び勃起していた。
 根元まですっかり埋め込まれたサイードの先端が、俺の中のどこかに当たっていた。サイードの一突き一突きに反応して、そこは温かい熱を帯びて疼き、俺のものから更なる露を滴らせていく。
 今まで、味わったことのない感覚だった。射精とは全く違う、緩やかなエクスタシーが延々と続く……そんな感覚だった。
 俺は女にされた。
 サイードに犯されて、身も心も彼の女にされたのだ。
 そう思った瞬間、俺の瞼を涙が伝った。それが屈辱なのか、快感なのか、それとも悦びの涙なのか、自分でも判らなかった。
 やがてサイードが俺の中で射精した。すかさずアハメッドが交代して、俺の肛門にその凶器を埋め込んだ。
 犯されている間、俺のものはずっと怒張したままだった。滴り落ちた先走りが、腹の上をべとべとに濡らしている。
 一休みしていたサイードが、再び勃起した男根を俺に銜えさせた。同時にその手が俺の怒張を掴み、扱き上げる。
 俺は襲いかかる快感に、身も心も翻弄された。縛られたままの手首の痛みも、全く気にならなかった。
 じきに腸の中に、生暖かい液体が溢れるのを感じた。しかし打ち込まれた男根は柔らかくなる気配も見せず、再びそのまま俺を突き始めた。
 アハメッドに犯されながら、俺は泣きながら射精した。少し遅れて、サイードが二度目の精液を俺の喉に流し込んだ。
 窓から差し込む夕陽が、部屋全体を赤く染めていた。
「……もう、許してくれ」
 俺は絨毯の上にぐったりと身体を投げ出して、弱々しく呟いた。背中の下で縛られたままの手首は、もう痺れきって何の感覚もない。
 口の中は生臭い精液でねばつき、ひりひりと痛む肛門からも、三回分の精液がどろりと溢れ出している。
 アハメッドが俺の足元に屈み込んで、重ね合わせた足首をロープで縛っている。
「お前が本当にされたがってたことを、これからしてやるんだ」
 俺の頭の横に座ったサイードが、手に持ったものを玩びながら言った。俺は恐怖に脅える目でそれを見た。
 木の柄に、編み上げた革紐のついた鞭。
 サイードは俺の視線に気付くとにやりと笑って、その先端を俺の肌の上に滑らせた。
「お前の為に、わざわざ用意してやったんだぞ。言ってただろ?私たちエジプト人が家畜を追うのに使う、ごく普通の鞭だったって」
 俺は弱々しく頭を振った。
 違う。違うんだ、サイード。
 心の中で叫ぶ声がする。しかし何故かその声は、喉の辺りで消えてしまう。
「身体は正直だな。早く逆さに吊られて、この鞭で打たれたがってる」
 サイードはそう言うと、鞭の先で俺の股間を擽った。そこはさっき射精したばかりだというのに、萎えることもなく勃起し続けていた。
 鞭がそれをぴしりと打った。
 俺の口から悲鳴が上がる。しかし一瞬の痛みは、すぐに心地好いような熱に変わって、俺の身体の奥に染み込んでいく。
「口を開けろ」
 サイードが手に俺のブリーフを持って言った。俺は泣き出しそうな顔で、嫌々をした。「開けるんだ」
 恐怖に涙が零れる。泣き出した俺の口に、サイードが強引にそれを押し込んだ。再びシャツの切れ端で猿轡をされる。
 アハメッドが俺の足首を縛った縄を梁に投げ上げると、ぐいぐいとそれを引き始めた。太い腕に力瘤が浮かび上がり、裸の上半身から玉のような汗が吹き出す。
 サイードがそれに手を貸す。俺の踵が、脹脛が、太腿が、次第に床から離れて吊り上げられていく。
 顔が汗と涙でぐちょぐちょになっていた。恐怖の悲鳴が、猿轡に虚しく押し殺される。